作品タイトル不明
548 普通は滑るだけ
「まぁ、何はともあれ、本当に青から虹色に変化したわね」
「しかも、キラキラして綺麗ですよね」
フェリクス王の手によって、魔法水が並々と入ったオルガンの壺は、鑑定通りに青い模様が虹色に変わり光っていた。
アーシェスが小さくホゥと感嘆し、ローレン補佐官は目を細めていた。
淡く虹色に光るオルガンの壺は、想像以上に綺麗だった。人気が出始めているのも頷ける。
「魔法の水で光るなんて、面白いな」
「この模様ってコーイマの特徴なの?」
「「「違う」」」
トゲトゲが付いた様な葉が、蔦みたいな物に生えている様な不思議な模様。
コレがコーイマの特徴かと思いエギエディルス皇子に訊いたのだが、大人4人から否定する返事が返ってきた。
やはり、この独特な模様はオルガンオリジナルみたいだ。
「コーイマの模様は、蔦や葉、花とか植物系がほとんどだけど」
「だけど、コレは……」
「お父さん、この葉みたいな部分"目"に見えない?」
「"目"? あぁ、確かに」
「うっわ、気持ち悪っ!」
「……」
アーシェスを筆頭に、誰もが光るオルガンの壺を見て唸っていた。
吟味する時間がなかったダンも、木箱を開けて中を見たのは初めてだった。本物であったのは良かったが、やはり義父とは趣味が合わないと改めて思った。
気持ち悪いと身震いしたのはエギエディルス皇子で、眉根を寄せているのはフェリクス王である。
フェリクス王の執務室を見る限り、骨董品や美術品にも興味はなさそうだ。勝手な想像だけど、自室にもなさそうだ。あるとしたら剣や刀で、骨董品を鑑賞するイメージは全くない。
こんな気持ちの悪い壺は、当然興味はないだろう。
「コレ。いくらになるんですか?」
結局、知りたい情報はそれである。
莉奈の鑑定では、残念ながら値段までは出ない。
「う〜ん。コーイマは何個か実家にありますけど、オルガン製はないですし……」
そもそも、値段を聞いた事はないなと、ローレン補佐官が言っていた。
高価な陶磁器が、当たり前の様に家にある。
ローレン補佐官も名のある家の出なのだと、莉奈は今さらながらに驚いていた。
「リナ。コーイマって一括りに言ってもピンキリなのよ?」
「え?」
「マックの実家のコーイマの値段はともかく、庶民向けのコーイマもあるから」
ローレン補佐官をマックと呼ぶ仲になったアーシェスが、改めてコーイマについて説明してくれた。
手で丁寧に染付されたコーイマは高いが、印判手のコーイマは大量生産なため、割と安いらしい。
その代わりに有名な染付職人によるコーイマだと、100万ギルは軽く超えて取り引きされるとか。以前、フェリクス王に王都に連れて行ってもらった時、乗り合い馬車が300ギルだった。
お金の感覚的には、日本とあまり変わらないと思うから、本物かつ有名な染付職人だと100万はするって事だろう。
「ちなみに庶民向けのお値段は?」
「1万ギルくらい」
「高っ!!」
何が庶民向けだ。
庶民向けと言っても、まったく日常使いに出来る程安値ではなかった。
手が滑って割った日には、衝撃で身体が震える。
「言っとくけど、お前が普段使ってる食器類は、"ロイヤルカープスラーゲン"だからな?」
「え? ロイヤルカー……プレ?」
「ロイヤルカープスラーゲン。王宮御用達の食器」
王宮御用達。
エギエディルス皇子の言葉に、莉奈の思考が停止した。
王宮御用達。
頭の中で反芻する莉奈。
「……た、高いよね?」
そう言ったら、答えの代わりにエギエディルス皇子が、意味深な笑みを浮かべた。
当たり前だろと、言われている気がする。
「ぅわ」
莉奈は変な声が出た。
今まで何も考えないで使ってきたが、冷静になって考えればそうである。
自分が住んでいるのは王宮だ。
その王宮で支給されている食器類が、庶民向けの安い食器な訳がない。超が付く程高いハズだ。莉奈は値段が分かった途端に、使うのが怖くなっていた。
よく今まで落として割らなかったなと、自分を褒めてあげたい。
だが、知った途端に、派手に割る気がするのは何故だろう。もう怖くて使えない。
「あの。すみませんが、行きか帰りのどちらでもよろしいので、庶民向けの食器店とかに寄っていただいても?」
自分専用の超安い食器が、大至急欲しい。割れても叫ばないですむ安いヤツ。
自分専用なんて言い方、烏滸がましいと思うが割るより全然イイ。だって割る可能性しかない。割る。絶対割る!!
急な敬語でそう言った莉奈を見て、何となく理由を察したフェリクス王はクツクツと笑っていた。
こういう変な謙虚さが、実に莉奈らしい。
「割らなきゃイイ話だろうが」
「絶対割る!!」
「割るんじゃねぇよ」
「無理!! 足が滑って回って割れる未来しか見えない!!」
「どんな未来視してやがる」
そう嘆き断言すれば、頭を叩かれた。
"滑る"はともかく"回る"はない。どんな足癖をすれば、滑って回るんだ。滑って回し蹴りをしようとする莉奈に、フェリクス王は呆れ笑いをしていた。