作品タイトル不明
538 結局、甘い
——バサバサバサ。
下で待っている莉奈達は放って、しばし景色を堪能していれば、ここから大分離れた場所で木が揺れているのが見えた。だが、風ではないのか、揺れていたのは一画の木だけ。
「フェル兄」
「魔物がいるんだろ」
エギエディルス皇子が目を向ければ、フェリクス王は興味なさそうに言っていた。
「魔物」
チャーリーは一瞬、怯えた表情を見せ、フェリクス王の肩を強く握った。
魔物に遭遇して、こういう目に遭ったのだ。怯えて当然である。
「さっきやった"御護り"があれば、怖くないだろう?」
「 指輪(おまもり) 」
フェリクス王に言われ、チャーリーは手に持っていた指輪を見た。
無色透明だった空石が、今は光を浴びてオレンジ色に光っている。それを手にしていると、チャーリーはなんだか勇気が湧くのだった。
「色が薄くなったら、注意しろ」
「うん」
何度も使えるといっても、永遠に使える訳ではない。何回か使えば、徐々に色が薄まり使えなくなるのだ。
なのに、加護がいつまでもあると過信し過ぎて、いざとなった時に発動しなければ終わりである。命に関わる事なので、フェリクス王はもう一度忠告したのだった。
◇◇◇
「「んわぁぁ〜っ!!」」
上に上がる浮遊感より、下に降りた時の内臓がゾワリとする感じが、どうにも気持ち悪いみたいで、フェリクス王の腕に抱えられていたエギエディルス皇子とチャーリーは、仲良く叫んで降りて来た。
「お腹がブワッとした! ブワッと!!」
降りて来れば降りて来たで、それさえも楽しかったのか、チャーリーは興奮したように身振り手振りで言っていた。
遊園地にあるフリーフォールみたいで、楽しかったのかもしれない。
フェリクス王はそんなチャーリーの頭を、クシャクシャと優しく撫でていた。
エギエディルス皇子と同じ様な年だから、可愛いのだろう。
「あの……指輪を貰ってもイイんですか?」
そんな息子をチラッと見た後、ダンはものスゴく恐縮そうに訊ねた。
指輪は言わば依頼料みたいな物である。なのに、ただ返されるだけでなく、それを魔法まで付与されて、返されては申し訳なかったのだ。
「構わねぇよ」
「でも、魔法まで付与していただいて……」
「空石なんて、魔力ありきの石だろ」
「で、ですが……」
タダで魔法を付与して貰っただけでなく、近くの街まで無償で、しかも全ての荷物まで運んで貰えるだなんて、ありがた過ぎてダンは身体が震えた。
「売れば——」
「えぇっ、売らないよ!? だって僕の御護りだもん!」
イイお金になりそうだなと、ローレンが呟けば、チャーリーがビックリしていた。
これからダンとチャーリー、親子2人の生活が始まるが、まだ住む場所も働く場所も決まってない。
骨董品がすぐ売れるとは限らないし、これから色々と入り用だろうとフェリクス王なりの配慮なのではと、ローレンは思ったのだ。だから、つい高く売れそうだと口から漏れたのだが、チャーリーは手放す気はない様だ。
「す、すみません」
渡さないぞとばかりに指輪を隠すチャーリーに、ダンは汗を拭っていた。
「チャーリー、親父を守る為にも使えよ?」
「うん!!」
大事にするのはイイが、肝心なところで使用しないのでは意味がない。
売らないのであれば自分の為だけではなく、父もそれで守れとエギエディルス皇子が伝えていた。
「結局、甘いのよねぇ」
フェリクス王の後ろを歩いていたアーシェスが、ため息を吐いていた。
魔法を使える人が少ない上に、空石に魔法を付与するのには技術がいる。その為、付与師は貴重で高給。
空石や、それに魔力を注ぐ付与師に金がかかる。故に、魔石は高額で取引きされている。
要するに、その魔石は高額で売却出来る……という訳である。
チャーリーは売る気はなさそうだが、それを売れば、しばらく働かなくても済むのだ。
「足は大丈夫ですか?」
「え、あぁ、掛けて貰ったポーションのおかげで……」
歩き始めた頃、莉奈はダンの足が気になり訊いてみた。
莉奈の持っているポーションのほとんどは、1番下の低級である。ダンの怪我にしっかりと効いたのか、確認しておきたかったのだ。
痛がる素振りもなく歩いているので、本当に大丈夫そうである。
しかし、そんな父など気にもならないのか、息子のチャーリーはフェリクス王にベッタリである。
お兄ちゃんお兄ちゃんと、先頭に歩くフェリクス王の隣で楽しそうにしていた。
「お兄ちゃん取られちゃったね?」
なんだかちょっぴり不満顔なエギエディルス皇子に、莉奈は苦笑いしていた。
「取られてねぇし」
拗ねているエギエディルス皇子が可愛い。
そう言ってそっぽを向いたエギエディルス皇子に、莉奈とアーシェスが生暖かい目を向けていたのであった。