軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

537 ゴールは目前

「さて、お茶会はお開きだ」

フェリクス王が茶化す様に席を立てば、莉奈達もイスから腰を上げた。

「連れて行くんだよな?」

莉奈がイスやテーブルを片付けている中、エギエディルス皇子が兄王に確認していた。

「置いて行く理由がないからな」

「「ありがとうございます!!」」

フェリクス王が面倒くさそうにそう言えば、ダン親子は食い気味に頭を下げていた。

エギエディルス皇子がその言葉にホッとしたのも束の間、兄王の右手が徐にポンと頭にのった。

「エディ」

「何?」

「こういう場所では、己の 許容範囲(キャパシティ) を考えて助けろ。許容を超えれば共倒れになる」

人が人を助けるには限界がある。

己の力を過信して助けに入れば、自身の身を危険に晒すだけでなく、周りにも危険が降りかかるかもしれないのだ。

同情心から、がむしゃらに助けるのではなく、冷静に判断しろ……そうフェリクス王は教えていたのであった。

「……分かった」

幼いエギエディルス皇子でも、兄王の言葉はなんとなく理解出来たのか、小さく頷いていた。

自分が危険になれば、結果兄フェリクスが助ける事になる。

それで、兄王に何かあるとは思えないが、あってからでは遅いのだ。

自分がどの立場にいるか、良く考えて行動しなければいけないのだと、改めて思ったエギエディルス皇子だった。

◇◇◇

「荷物はどうします?」

車輪が壊れて傾いた馬車を見ながら、ローレンが訊いた。

もちろん、置いて行く選択肢もあるが、ローレンはそういうつもりで訊いた訳ではない。皆が 魔法鞄(マジックバッグ) を持参しているから、誰が入れて行くのかと言う相談だ。

「エディ」

フェリクス王がエギエディルス皇子を呼べば、エギエディルス皇子は了解とばかりに、荷物を馬車ごと 魔法鞄(マジックバッグ) にスッポリと収納していた。

「「……」」

その様子を見ていたダン親子は、口をアングリと開けていた。

魔法鞄(マジックバッグ) の存在自体が珍しいのに、その容量の大きさに目も丸くする。荷物を数点ほどお願いして、持って行ってもらえたらラッキーだと思っていたのに、まさかの馬車ごと。

ダン親子は、もう驚く事はないと思っていたのに、まだまだ驚く事ばかりであった。

「ここからゴルゼンギルってすぐですか?」

ここに来るまでも、獣道みたいなものとはいえ、道らしき姿が地面に見えてきていた。

だから、莉奈はもう近いのかなと、フェリクス王に訊いてみた。

「迂回したから、まぁ後、2時間くらいか」

「2時間」

「「……」」

莉奈が頷く一方、アーシェスとローレンは顔を見合わせていた。

魔物に遭遇し、戦い、道を逸れたり休憩を挟んだりを想定し、あの聖木から1日近く掛けてやっと着くのが、国境の街ゴルゼンギルなのだ。

フェリクス王は論外なので、1人なら本当に3時間で着くだろうが、常人は普通に時間が掛かる。

なので、2人はフェリクス王の言った時間などアテにはせず、最低1日は想定していた。なのに、その半分の時間すら経たずに、ゴルゼンギルがもうそこまでになっていた。それがどうにもオカシイ。

この魔物が蔓延るハズの場所でも、フェリクス王といるとただの散策かウォーキングかと勘違いするくらいに何も起きないのだ。

ここからとて普通なら、フェリクス王の言った倍の時間は掛かる事だろう。しかし、これまでの道のりを思い出す限り、彼の言う2時間も全然ありえる。

どうなっているのか、アーシェスとローレンにはサッパリ分からなかった。

「木の上からなら、そろそろゴルゼンギルの時計塔くらいは、見えるんじゃねぇか?」

森や林に遮るものは、同じ高さの木ぐらいだ。

天辺に登れば、木より高いギルドの時計塔なら、僅かに見える可能性はある。フェリクス王は顎をひと撫でしながら、そう言えばーー

「本当!?」

すっかりフェリクス王に懐いたチャーリーが、側で瞳をキラキラさせていた。

その屈託のない笑顔にフェリクス王は微苦笑すると、近くにいたエギエディルス皇子を左腕に、チャーリーを右腕にヒョイっと軽々抱えた。

「「え?」」

何だ? と首を傾げまくる2人をチラッと見るや否や、フェリクス王は地をトンと蹴ったのである。

「うっわ!」

「わ、わぁっ!?」

エギエディルス皇子もチャーリーも、突然の浮遊感に声を上げていた。

「な」

それを見たダンは、顎が外れるんじゃないかってくらいに、アングリと開けていた。

息子達を抱えて何をするのかと見ていれば、自分より遥かに高い所に跳んでいたのだ。

常人は子供2人を両腕に乗せて、跳ぶなんて事は出来ない。それも、ただのジャンプではなく木の上にである。フェリクス王は、どういう身体能力を持っているのだろうか。

目を丸くさせているダンや、呆気に取られている莉奈達をよそに、フェリクス王達はあっという間に、数十メートルはある木の天辺にいたのであった。

「「わぁぁ〜っ!」」

いきなりの出来事に驚きを見せていたチャーリーだったが、目の前に広がる壮大な景色にすぐ心を奪われ、瞳を輝かせていた。

竜から見た景色とはまったく違う視点に、エギエディルス皇子も心が躍っていた。

同じ林でも、上からと下からでは見える景色が違う。

どちらも辺り一面、木だらけではあるが、上から見ると左側には微かに山々が、真正面には林の間から僅かに建築物が見えていた。

「お兄ちゃん、アレが時計塔?」

「そうだ」

チャーリーが指を差した先に、薄らボンヤリと背の高い塔みたいなモノが見えたのだ。

目を細めてやっと豆粒くらいに見える程度だが、建物が見えればそこに街があるのだろうと推測出来た。

道に迷い怯える夜を過ごしていたが、近くに街があったのだと、チャーリーは思うのだった。

「見えるけど2時間は掛かるんだよな?」

「掛かるな」

「うっわ、近そうに見えても、まだ2時間も掛かるのかよ」

「鍛錬だと思え」

竜なら10分くらいで着くのにとボヤく末弟に、フェリクス王は笑っていた。

道のりはずっと直線な訳がない。魔物や障害物を避ける様に迂回して歩けば、そのくらいはゆうに掛かる。見えても先は長いのが、世の常である。