作品タイトル不明
536 結界の強さ
「分からねぇの?」
5分くらい経過しても、指輪を握ったまま固まっているローレンに、フェリクス王は面白そうに笑っていた。
分からないと答えても、笑って流してくれそうな感じだが、ローレン的にはそれはイヤなのだろうなと莉奈は思った。
「つ、土の"結界"」
「あ゛?」
「け、結界魔法が付与されていたのかと!!」
自信なさそうにボソリと言ったのだが、フェリクス王に目を眇められ、ローレンは背筋を伸ばし改めて言えば、フェリクス王は数時、黙ってローレンを見ていた。
「……時間は掛かったが正解だ」
フェリクス王がそう言えば、ローレンの表情が途端に明るくなっていた。
良く分かったなと、褒められたみたいで嬉しそうである。
「結界……そうか。だから足のケガぐらいで済んだのか」
ローレンに当てられ悔しいものの、謎が解けてエギエディルス皇子は納得していた。
冒険者に逃げられた後も、この結界魔法のおかげで、魔物から身を守る事が出来たのだろう。しかし、使い切っていたのだから、魔物にやられるのは時間の問題だった。
「あなた達、本当……」
魔導具だと分かったり魔法の残滓を感じ取ったり、常人ではなさそうな雰囲気で、「何者なんだ?」と訊きたかったダンだったが……すぐに口を噤んだ。
余計な事を訊いて、助けてくれなくなるのは困る。なら、無理に訊く必要も、知る必要もない。一時の探究心で訊かないのが賢明だ。
「……」
ダンがフェリクス王達に驚愕している中、莉奈はさらに複雑な表情をしていた。
だって、"結界"魔法だ。
ダンは奥さんの身を案じてダイヤモンドではなく、結界魔法を付与した魔石付きの結婚指輪にしたのだろう。なのに、その気持ちも含め、無下に突き返されたのだから、何も言えない。
「フェル兄?」
兄王はその指輪をローレンから受け取ると、テーブルに置き軽く手を押し付ける仕草を見せたのだ。
その行動に、エギエディルス皇子だけでなく、莉奈達もフェリクス王に目を向けた。
指輪を押し付け何をするのだろうと、莉奈達がその手元に釘付けとなった時ーー
ーーポォ。
フェリクス王の押し付けた手の平が、オレンジ色に輝いたのだ。
しかし、それも一瞬の事。小さなランプ程に輝いた光は、瞬く間に消えたのであった。
「「「……」」」
「まぁ、こんなものか」
皆が唖然としていれば、指輪を手にしたフェリクス王が、空石の部分をなぞる様に触って呟いていた。
「ぇ??」
バチリとフェリクス王と目が合ったチャーリーは、反射的にビクリと身体が跳ねた。
だが、何故、見られたのか疑問に感じる間もなく、さらに身体が跳ね上がる事になった。
フェリクス王は「チャーリー」と名を呼ぶや否や、その指輪を彼に向かって弾き飛ばしたのである。
「うわ、わ、わぁっ!?」
弧を描くように飛んで来る指輪。
チャーリーは慌てて椅子から身を浮かせ、それを両手で受け取ろうと手を伸ばしていた。
突然の事で上手く取れず、何度か手の平で指輪が踊っていたが、なんとか落とさずに受け取れた様だった。
「何をしたの?」
チャーリーの手元を見ていたが、指輪に何をしたのか見えなかったのか、アーシェスがいち早く訊いていた。
「な、コレは!!」
だが、アーシェスの疑問に対する答えは、チャーリーの隣で見ていたダンから息を飲む声で遮られた。
チャーリーの手元を、身を乗り出すように見ていたダンが、誰よりも先に気付いたのである。
「……」
コレは、の後にダンは驚愕したまま固まっていた。
莉奈には手元が見えない為、フェリクス王が指輪に何をしたのか分からない。
「うっそぉ。魔法を付与したの!?」
気になって仕方がなかったアーシェスは、身を乗り出す様にチャーリーの手元を見た途端に、目を見張っていた。
透明だった空石が、宝石のインペリアルトパーズみたいな綺麗なオレンジ色に変化していた。
フェリクス王はどうやら、空石に戻った石に再び魔法を注ぎ、魔石に戻した様だった。
「空石なんて魔力が入ってなければ、ただのゴミだろ?」
「ゴミじゃないわよ」
フェリクス王の言葉に、アーシェスが唖然としながらも、ツッコミを入れていた。
宝石と同等の価値があるのが、空石だ。しかも、魔力を注げば、魔石となる石。ゴミな訳がない。
なのに、それを興味なさげにゴミと言い放つフェリクス王に、皆は再び唖然である。
「だけど、まぁ。いとも簡単に"空石"を"魔石"にしてくれちゃって」
「それ、ひょっとして結界っすか? ……うっわ、しかも複合とか……すげぇ」
空石に魔力を注ぐ事は、容易ではない。
アーシェスが感嘆する横で、同じく指輪を覗き込んでいたローレンが、フェリクス王の凄さに素に戻っていた。
大抵、空石に魔力を注ぐと火は赤。水は青、土は黄、風は水色となる。普通の結界魔法なら、土の魔法で構築する。だから、黄色に変化するハズ。
しかし、フェリクス王が魔石にした空石の色は、土魔法の黄色ではなく"オレンジ"。
その色が意味するのは、"土"と何かの"複合"だという事。
複合魔法は使うのも難しいが、それを空石に付与するのはさらに難しく、こんなに綺麗な魔石にならない。透明度が高ければ高いほど魔石は上質だと言われている。
フェリクス王が付与した魔石は、宝石と間違えそうなくらいに輝いていた。
その魔石は、色から察するに"土"と"火"だろうとローレンは思ったのだった。
「お兄ちゃん……スゴい人だったんだ」
「有限だから、上手く使え」
そうフェリクス王が忠告していたが、瞳をキラキラさせていたチャーリーの耳に、入っているかどうかは謎である。
隣にいるダンはダンで、指輪を見たまま微動だにしていなかった。
空石を魔石にするのは難しい事を良く知っている。なのに、簡単にやってのけたフェリクス王の凄さと、付与される瞬間を初めて見た衝撃、色んな感情がいっぺんに湧き混乱状態だったのだ。
「それなら、竜に踏まれても耐えられる」
「「マジか」」
フェリクス王がサラッと言えば、莉奈とローレンの驚愕の声が重なった。
竜を知る2人だからこそ、踏まれた時の衝撃は想像出来た。アレを防げるなんて鬼に金棒ではないか。
「あ、じゃあ。コレにも付与をお願いします!!」
莉奈は素早くフェリクス王の下にススっと寄り、以前フェリクス王に貰った空石を 魔法鞄(マジックバッグ) から取り出し、頭を下げて両手で差し出した。
ガサツな竜達といると、命がいくつあっても全然足りない。
この世に未練はないが、壮絶な死に方だけはしたくないなと、莉奈は思い始めたのだ。
「「「……」」」
莉奈が何故、そんな上質な空石や 魔法鞄(マジックバッグ) を持つのか、ダンはめちゃくちゃ気になったが、もう考える事を止めた。
チャーリーは結界魔法が付与された指輪を見ながら、まだ瞳をキラキラさせていた。
エギエディルス皇子は、莉奈の貪欲さに唖然となり、アーシェスとローレンからは苦笑いが漏れていた。
ーーそして。
下げた莉奈の頭には、フェリクス王の手刀が1つ、落ちてきたのであった。