作品タイトル不明
535 急な試練
「身勝手な願いですが、近くの街まで同行を許してもらえないでしょうか? もちろん、魔物に遭遇した時は自分達の身を優先してもらって構わない」
ダンはシュテームに向かう事を諦め、フェリクス王達が向かうゴルゼンギルまで、同行をと願って出た。
ここで会ったのも奇跡だ。無茶なお願いだが、この機会を逃せば次はない。そうダンは思ったのである。
「お願いします!!」
チャーリーも父同様に頭を下げて、願い出た。
もう、こんな所で怖い思いをするのはイヤだったのだ。
ダン親子がそう願えば、莉奈達は一斉にフェリクス王を見た。
権限があるのは、このパーティを仕切る彼だけである。
「そ、そうだ。ゆ、指輪! この指輪でどうか!!」
フェリクス王が何かを言う前に、ハッとした様に思い出したダン。
ゴソゴソとポケットから何かを取り出し、慌てた様子でフェリクス王の前に差し出した。
それは、先程貰った指輪と同じ……ように見えた。だが、先程の指輪とは型は一緒でも、何だか一回り小さい。
「「「……」」」
莉奈達は何とも言えない表情になってしまった。
だってそれは、ダンの奥さんの結婚指輪ではなかろうか。
ダンの性格からして、返せとは言わなそうだから、別れる時に突き返されたのでは? と思ってしまったのだ。
フェリクス王はそれを手に取ると、何故か一瞬だけ口端を上げた。
「魔馬を喰うような魔物に遭遇した割に、ケガがそれだけの理由はコレか」
その指輪をピンと指で弾き、ローレンに向かって投げた。
見てみろと言う事だろう。
何故? とローレンは思ったが、意味のない事などフェリクス王がする訳がない。何かあるのだと察し、ローレンは指輪をなぞる様に触ってみると、そこから微量の魔法の残滓を感じ取った。
「……え、これってただの結婚指輪じゃなくて、魔導具」
「え? ちょっと見せて」
魔導具と知り、興味が湧いたアーシェスはローレンから指輪を受け取った。
ダンが先に渡した指輪に嵌めてあったのは、ただの小さなダイヤモンドだった。だが、こっちの指輪の石は一見、水晶みたいな石に見えるが、魔法が空になった空石であった。
「嘘。こっちの指輪はダイヤモンドじゃなくて、空石じゃない。しかも、かなり上質の……魔法を失ってもヒビ1つ入っていないなんて」
アーシェスは微細に見るために、わざわざ 魔法鞄(マジックバッグ) から取り出したジュエリールーペで、角度を変えたりして真剣に見ていた。
空石とは、魔法を付与して使える石の事。
空石に魔法を付与した物を主に"魔石"と呼び、日常生活に使ったり武器や防具など、多種多様に使用されている。
その魔石も、何度かの使用により魔法が失われるのだが、元の空石に戻るのは上質な空石だけで、品質が悪いのはヒビが入ったり割れたりするのである。
これは、小さいとはいえ、ヒビ1つ入っていないのだから、かなりの質の良さみたいだ。
「宝石商か何かで?」
ダンはアーシェスがジュエリールーペを取り出したので、驚いていた。
フェリクス王が只者でない事は分かっていた。
だが、同行しているローレンも魔導具だとすぐに判別し、アーシェスまでもがジュエリールーペを取り出して見るとは思わなかった。
ジュエリールーペとはその名の通り、宝石を鑑定するのに不可欠なルーペだ。空石を鑑定する時にも使用するのだが、一般人はまず持っていない。
それを持っているという事は、宝石か空石の鑑定士。アーシェスの風貌から、宝石関係の職業だとダンは思ったのだ。
「ただの武器職人よ」
「武器……職人」
アーシェスがそう返せば、ダンはますます驚愕の表情をしていた。
アーシェスの華やかな見た目は、武器職人にはまったく見えなかったからだ。
「兄上」
シュテームは無理でもゴルゼンギルなら、目的地は同じだ。
こんな所に置き去りになんてしたくない。対価もあるのだから連れて行ってイイだろうと、エギエディルス皇子は兄フェリクスに強い視線を送った。
「エディ。この空石に付与されていた魔法を当ててみろ」
フェリクス王の手に戻された指輪を、今度はエギエディルス皇子に指で弾いて渡した。
「出来たら一緒に、連れて行ってくれるのか!?」
「さてな」
そう真剣な眼差しを送る末弟に、フェリクス王は小さく笑っていた。
その返答にダン親子はソワソワしていたけど、その様子を見た莉奈は安心した。
置き去りにするとは思っていなかったけど、今のフェリクス王の表情でやっぱりと確信したからだ。
「土っぽいけど、微量過ぎて……難しい」
空石の残滓を読み取り、何の魔法か系統は分かったが、何の魔法かまでは確定出来ず、エギエディルス皇子はブツブツと言っている。
「手助けすんなよ?」
それを見守っていた莉奈に、フェリクス王から注意が入った。
たまに、無意識のうちに【鑑定】をしていたのを知っていたらしい。莉奈の【鑑定】なら、何が付与されていたかなんて、一発で分かってしまうからだ。
隠れてヒントを出そうと思っていたダンも、その声に慌てて口を噤んだ。
「土って事しかわっかんねぇ!!」
しばらく、一生懸命に指輪と対峙していたエギエディルス皇子は、疲れたのかグッタリしていた。
残滓を感じ取るのは、ものスゴく難しいみたいである。
「マック」
「え゛」
なら、今度はお前だと、フェリクス王はローレンを見た。
まさか、自分にもやらされると思わなかったローレンは、フェリクス王を二度見した後、ゴクリと唾を飲み込んだ。
己の資質を試されている様だと、緊張感が増した。