軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

534 散々な目とは、この人の為の言葉では?

チャーリーがザックリ話した事を要約するとーー

ダンはとある骨董品屋の一人娘と恋に落ち、婿養子になったそうだ。だが、義父が趣味から始めた骨董品屋は全く繁盛しておらず、その日の生活がやっとだった。

このままではと考えていた時、妻がチャーリーを妊娠。子供の為にも生活をどうにかしなければと、ダンは一念発起。伝手を使って、店で空石も扱うようになった様だ。

空石は冒険者だけでなく、一般市民にも重宝されている石。火の魔法を注げば暖房装置やコンロ代わりに、水の魔法を注げば水回りが一気に楽になる。両方を使えばこの世界のお風呂、 蒸し風呂(ハマム) になるのだ。

ダンのその決断は功を奏したらしく、徐々に店は繁盛していったそうだ。

繁盛すると妻やその両親は一転。

真面目に働くダンを尻目に、贅沢三昧をするようになった。金は降って来る訳ではないと、いくらダンが苦言を呈したところで、婿養子の話など右から左だった。

息子の為にとずっと我慢していたが、チャーリーの面倒さえも疎かになった妻を強く叱れば、逆に出て行けと追い出されてしまったそうだ。

繁盛店になった店に、口煩いダンはもういらないと考えたらしい。ダンはあっという間に離縁され、家を放り出されたのである。

チャーリーはそんな母を見限り、父ダンに付いて来た様だった。

「立て直したのに酷いわねぇ」

アーシェスはお茶を飲みながら改めて、ダンの悲運を嘆いていた。

儲かり始めたから、夫は用無しだなんて可哀想過ぎる。

「馬車から見える箱は?」

量は少ないが、普通は旅の邪魔だから持参する事はない。余程な理由でもあるのかとアーシェスは思った。

「何も持たずに追い出されそうだったんで……さすがに、まぁその、法に訴える素振りを見せたんですよ。そしたら、店の物なら空石以外持って行ってイイと言うんで、慰謝料代わりに売れそうなモノを少しばかり」

「でも邪魔だし、ブルガーーってそうか。ブルガで売れないから店が潰れかけてたんだっけ」

町を出る前に売り払って支度金に、とエギエディルス皇子は思ったが、売れないから店が潰れかけていた事を思い出した。

旅には邪魔だけど、他の街で運良くお金になれば、仕事を探すまでの生活費くらいになる。骨董品を持っている意味は、そういう理由だった様だ。

「でも、良く空石なんて仕入れられましたね?」

アーシェスがどこか探る様な視線を、ダンに送っていた。

空石は、宝石と同じくらいに価値のある鉱物で、山や海、川など様々な所で発掘されているが、そんな簡単に手に入らない代物だ。

しかも、ヴァルタール皇国では、大きな鉱山や採石場はほとんどが国が管理しているので、そこで採れた空石は、国が認定した店でしか卸せない。

国が管理していない場所や、稀に鉱物系の魔物から獲れる空石もあるが、それを取り扱う店も大抵は専門店だ。

モグリで扱う者もいるが、ダンがモグリなら、こんなに堂々とは言わないだろう。

どちらにせよ、価値があるが故に宝石同様に偽物も多く、 技能(スキル) や目利きが必要である。

様々な魔法を付与された空石を魔石と呼び、その魔石も含め主に武器防具店が取り扱ってる事が多く、骨董品屋で売られているケースはほとんどなかった。

「あぁ、ブルガは冒険者の町なんで、伝手があったんですよ」

久々の温かい食事に落ち着きを取り戻したのか、ダンは先程とは打って変わり態度が柔らかくなっていた。

「余程の伝手ですね」

「ギルドには?」

ローレンが空石を手に出来る伝手に感心し、アーシェスは空石が売買出来る環境から、ギルド所属なのかと訊いた。

商人の全てがギルドに所属する義務はないため、しない人も多い。だが、入会するには厳しい審査があるだけあって、持っていると信頼性が高い。

高給与の仕事も斡旋してもらえるし、店を持っているなら、仕入れのルートの幅が広がる。

オマケに、商人ギルドが低い利子率でお金も貸してくれるから、店も開きやすいのである。なので、商売をするつもりなら断然入っていた方がイイ。

「一応」

そう言ってダンは、ゴソゴソとショルダーバッグから、商人ギルドカードを出して見せた。

赤の他人に大事な身分証明書を見せたのだから、フェリクス王達を信用したのだろう。

莉奈の冒険者カードの右上には、剣と盾の刻印があったが、ダンの商人カードには箱と麻袋の刻印がある。

アーシェスが教えてくれた様に、コレで冒険者か商人か分かる仕組みらしい。

「 銀(シルバー) だから……」

「Cランクだな」

莉奈が指折り数えていれば、エギエディルス皇子が先に答えてくれた。

Cランクがどのくらいスゴいのか、莉奈にはまったく分からない。空石を取り扱うには、ランクが必要かどうかも分からなかった。

「なら、店で空石を仕入れていたのはご主人が?」

「ですね」

「あら〜。なら、ご主人を手放した奥様達、すぐに後悔するでしょうね」

アーシェスは苦笑いしていた。

アーシェスも武器屋で働いているからこそ、知っている事がある。

まったくの素人が空石なんて、まず仕入れられない。仮に、どうにかこうにか仕入れ先を見つけたとして、それが上質な空石か見極められなければ、質の悪い物や偽物を掴まされる可能性もある。

そして、買い付け交渉までいっても、果たして正規の値段で売ってもらえるのか……アーシェスは骨董品屋の潰れる未来しか視えなかった。

「あぁ、だから町を?」

今後、空石を仕入れられないとなれば、追い出したダンを再び利用しようと呼び戻すだろう。だから、寄生される前に逃げたのかなとローレンは思ったのだ。

「え? あ、いえ、そこまでは……」

ダンは頭をポリポリと掻きながら、笑っていた。

ダンは、別れた妻や家族に会うと気まずくなるのが嫌で、町を出ただけ。そこまで深く考えていなかった。

チャーリーが町に残りたいと言っていたなら、町で仕事を探していた事だろう。言われてみれば、町を出て正解だったのかもしれないなと、ダンはお茶を飲むのであった。