軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

531 与えるだけが、助けではない

だが、馬車はあるがそれを牽く馬がいない。どうしたのかなと辺りを見ていると、人の気配を感じた。

「お、お父さん!! 見て。人だよ、人だよ!!」

相手もこちらの気配に気付き、一瞬驚き声を上げた。

車輪が外れ少し斜めになっている馬車の脇から、エギエディルス皇子より少し幼い子供が出て来たのだ。

その子供の慌てる声を聞き、出て来たのは30代の男性だ。ただ、怪我を負っているらしく、痛そうに右足を引きずっていた。

「大丈夫か?」

エギエディルス皇子が声を掛けると、警戒を見せていた父親らしき人も、賊の類でないと安堵の表情を見せた。

「シュテームに向かう途中だったんだが、魔物に襲われて」

「シュテーム? 随分と方向が外れましたね」

「え?」

「この先にあるのは閉鎖した採石場。一番近い街ならゴルゼンギルですね」

「ゴルゼン……ギル」

「お父さん!!」

ローレンに現在地を教えてもらった父親は、愕然としたのか、膝から崩れ落ちていた。

あまりの衝撃に呆然としながら、父親がポツポツと話してくれた事情によれば、2人は親子で自分はダン、息子はチャーリー。10日程前にブルガという小さな町で冒険者を2名ほど雇い、シュテームに向かっていたそうだ。

シュテームというのは、莉奈がローレン補佐官達と合流した"聖木"より南南東にある街で、ゴルゼンギルは聖木から東北東に位置している国境の街だ。

東という点では一緒であるが、北と南じゃ大分離れてしまっている。

初めは順調に向かっていたらしいのだが、何度も魔物に襲われていく内に方角は見失い、挙げ句に護衛として雇っていた冒険者は、 依頼人(ダンおやこ) を放り出し逃げて行ったとか。それから二日の間、まったく動けずここにいたそうだ。

魔馬がいないのは、魔物に喰われたからだった。

「散々よねぇ」

「でも、我々に会えたのは幸運だったのかもしれませんね」

「だな。じゃなきゃ魔物の餌だったかもな」

アーシェスが親子の処遇を憂いていると、ローレンとエギエディルス皇子は自分達に出会えた運に苦笑いしていた。

誰の仕業か分からないが、あの大木がなければ、素通りした可能性もある。

「どうしたら……」

人に出会えた安堵感からか、ダンはギリギリ保っていた気力が切れた様で、気を失い倒れてしまったのだった。

「ここに寝かせてあげて下さい」

ローレンが近くの草むらに、気を失った父ダンを寝かせようとしていたので、莉奈は慌てて 魔法鞄(マジックバッグ) からとあるモノを取り出した。

「長椅子」

莉奈の取り出したのは、木で出来た簡易的な長椅子だった。

ローレンは目を丸くさせていたが、それはフェリクス王達も同じだ。何故、 魔法鞄(マジックバッグ) にそんなモノを入れて来たのか分からない。

「リナ」

とりあえずケガを治さねばと、寝かされた父親の足に莉奈がポーションを掛けようとしたところで、フェリクス王に止められた。

「同情心からポーションを掛けるのはイイが、一時の優しさは次の厳しさにも繋がる。ほどほどにしとけ」

「……」

次の厳しさ。

その言葉に一瞬、莉奈が 躊躇(ためら) いを見せていると、横からエギエディルス皇子が疑問の声を上げた。

「人助けだろ?」

「人助け自体は悪い事じゃねぇよ。だが、 魔法薬(ポーション) は道端に生えた草とは違う。そう簡単にやっていい物じゃねぇ」

「……」

「イイか、エディ。コイツらがこんな事になったのは、雇う相手を間違え、自ら戦う事もケガを治す術もないからだ」

「……なら……このまま、放っておくのかよ!!」

「そうは言ってねぇ。だが、自分が施せる立場であるからこそ、手心が必要なんだよ」

「……」

フェリクス王はそう言って、エギエディルス皇子の頭にポンと手を置いた。

兄王の言いたい事を、なんとなく理解したエギエディルス皇子。

しかし、頭では理解しても了承出来るものではない。自分だけでは、何も出来ないのだと知り、悔しさが滲む。

「た、助けてくれないの!?」

フェリクス王達のやり取りに、チャーリーは不安な様子を見せていた。

フェリクス王達が現れ助かったと思ったのに、長椅子に乗せるだけで、一向に父を治してくれない。それどころか、何か揉めている様にさえ見えたからだ。

「タダではな?」

その言葉に、魔王の名に相応しいくらいな、笑みを浮かべたフェリクス王。

チャーリーがビクッとして萎縮した。

「対価か見返りが必要だ」

「た、対価か見返り?」

フェリクス王にそう言われ、救いを求める様に莉奈達を見たが、困った表情を返すだけで何もしてくれない。

チャーリーはギリッと唇を噛んだ。

「人が困っているのに、なんで助けてくれないんだよ!!」

「慈善事業じゃねぇからだ」

「……っ!!」

チャーリーはフェリクス王の言葉に、愕然とし怒りさえ覚えた。

父はケガを負い馬車は故障し、自分達を守ってくれるハズの冒険者は、とうに逃げていない。こんなに困っているのに、何故助けてくれないのだと、チャーリーはフェリクス王達を睨む。

「いいか、チャーリー。お前達がこうなったのは、己の責任だ。その父に貴重なポーションを使ったために、俺の仲間が助からなかったらどうする? それは仕方がないとでも?」

「……そ……れは」

「逆の立場で考えてみろ。お前は良かれと思って、今、俺を助けたとする。その後、父親が大怪我を負った時、ポーションがなくて死んだら? 仕方がないと言えるのか? あの時、俺を助けなければとは考えないのか?」

「……っ!」

フェリクス王に分かりやすく諭され、チャーリーはハッとした。

自分達を助ける事で、これから失う命もあるかもしれない事実に。

「俺達は別に、人助けの旅に来ている訳じゃない。それは俺達だけでなく、大抵の旅人もそうだ。なるべく身軽にと、必要なモノしか持たない。お前だって、そうだろう? そこに荷物はたくさんあるが、それは自分達の荷物で、他人を助ける為の道具や薬じゃねぇだろう?」

「……」

「それはコッチも同じだ。自分の 命綱(ポーション) を無償で渡す訳にはいかない。分かるな? チャーリー」

だから、欲しいのなら、対価を寄越せと言うフェリクス王。

チャーリーは拳を握り締め、ずっと下を向いて聞いていた。チャーリーはやっとフェリクス王の言わんとしている事が分かったからだ。

街や村ならまだしも、ここは魔物がいる場所だ。自分の身は自分でどうにかするのが当たり前の世界だった。

まぁ実際には、ローレン補佐官にしろエギエディルス皇子にしろ、何かしら余分に持参している。莉奈に至っては、必要最低限どころか必要のないモノで、 魔法鞄(マジックバッグ) は溢れ返っている。

だが、フェリクス王が言わんとしている事を理解していた莉奈は、余計な口は挟まず大人しく黙っていた。

「分かった」

意地悪で言われているのではないと分かったチャーリーは、馬車に走り寄ると、荷をゴソゴソとあさり始めたのだった。