作品タイトル不明
530 傍迷惑なヤツはどこにでも
「良く悪戯だと分かりましたね?」
「道を知っているからな」
フェリクス王がいなければ、気付かず左に行っていたかもしれないなと、ズキズキする頭を撫でながら思う。
「何でこんな事をするんですかね?」
「屑だからじゃねぇの?」
莉奈が何となく訊いてみたら、想像通りの答えだった。
要は"人の不幸は蜜の味"。コレを置いた者の思惑通りに道を進み、困惑する姿を想像して、どこかで楽しんでいるのだろう。まさに屑である。
魔物の糞でも踏んでしまえ。
「 轍(わだち) が新しい」
大木が倒れていなかった逆の道を見ていたフェリクス王は、その土の跡に眉根を寄せた。
馬車の車輪が通ったような跡があるのだが、まだ風化しておらず、まるで最近通った様に見える。
「ですね。陛下、この先って……」
以前は採石場だった場所だ。だが、今は閉鎖してるハズ。そうローレンが眉根を寄せていたら、フェリクス王が頷いていた。
「道に迷ってるんじゃないの? だって、こっち側に街や村なんてあるの?」
「今はない」
ローレンとアーシェスは、間違えて行ったかもしれない者の行く末が気になるのか、フェリクス王と話をしていた。
「以前、この先で空石が採れた時には集落があったが、採石場の閉鎖と共に集落も引き上げてる」
「なら、やっぱり迷ってるんじゃ」
「否定はしねぇが、僅かに残った空石を狙って行った輩の可能性もある」
「割に合いませんけどね」
良質な空石は高額で取り引きされる。だから、閉鎖してもコッソリと来る輩は多いとか。
だが、ここが閉鎖されていようが、鉱業権や採掘権はヴァルタール皇国が持っている。なので、見つかれば当然盗掘の罪で捕まる。
大体、ここは魔物もいる上に採れる保証すらない。しかも、バレたら処罰。そんな場所での採掘など、ハイリスク、ローリターンだ。割に合わないなんてものじゃない。
他国では危険な作業の為、奴隷や重犯罪者にやらせているみたいだが、奴隷制度がないヴァルタール皇国では、普通に職業の1つだ。
しかも、大規模な鉱山や採石場は国が管理しているので、採掘する者は当然国が雇う。
国が雇う以上、手厚い補償がある。なので、魔物に襲われない様に雇われ冒険者や警護兵は随時いるし、万が一ケガをすれば無償で治してくれるのだ。
おまけに、気まぐれな竜がたまに駐屯してくれると言うのだから、万全過ぎる。
だが、それでも危険は伴うので、給金は割と高いらしく人気の職業の一つだった。
「まぁ、腹いせにやった可能性もあるがな」
「「「腹いせ?」」」
「そのおこぼれを狙ったものの、全く採れねぇから、こうやってガキみたいな嫌がらせする屑もいる」
そう言ってフェリクス王が馬鹿にした笑いをするから、莉奈達は驚いていた。
どんな腹いせだ。悪質にも程がある。
「「最悪」」
エギエディルス皇子とアーシェスが、顔を顰めていた。
盗掘しておいて採取出来なかったからと、旅人に不利益を与えるなんて、自己中以外の何ものでもない。
ちなみに、ワザと違う道に誘導させ、旅人の荷を狙う賊の可能性もあると聞き、莉奈はため息が漏れていた。
つまるところ、魔物よりタチが悪いのは人間なのだろう。
「どうしますか?」
「面倒くせぇけど、確認する他ねぇだろ」
ローレンがお伺いを立てたら、フェリクス王はかったるそうにしていた。
ただでさえ、危険? な長旅なのに、余計な仕事が増えたからだ。今は見なかった事にしてもいいが、後々気になっても面倒だと考えた様だ。
「賊だったらどうするんだ?」
盗掘者にしろ賊にしろ、出遭った場合は捕縛するのか斬り捨てるのか、エギエディルス皇子が訊いた。
「大人しく降参するなら、放っておいてもいい」
逆らうなら、とフェリクス王の不穏な言葉が聞こえた様な気がした。
犯罪者は基本的に大人しくする訳がないので、フェリクス王に会ったが最後だろう。最後が"最期"にならない事を祈るしかない。
ーーそして、轍を辿って歩き始めて約20分。
車輪の外れた馬車が1台、道を少し逸れ停まっていたのであった。