軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

524 王竜は莉奈を通して、遠い未来を視る

「さっきから魔物が全然いないけど、普段からこんな感じなのかな?」

かれこれ2時間近く飛行している訳だけど、斜め前方にフェリクス王達が乗る王竜がいるだけで、辺りには何もいない。

高さのせいか速さのせいか、周りに鳥さえ飛んでこない。

以前、夜の散歩に連れて行ってもらった時に、遠くでワイバーンが飛んでいたのだから、飛行系の魔物は絶対いるハズ。なのに、ワイバーンどころか魔物らしき存在をまったく見かけないのだ。

莉奈は王城外の日常が、どんな感じなのかを知らないので、これがこの国の正常なのか非日常なのか分からなかった。

『違いますよ』

キョロキョロしながら呟いた莉奈に、碧空の君が 念話(テレパシー) で答えてくれた。

『他国に比べたら断然少ないですけど、普段はそれなりにいますよ』

「んじゃなんで?」

『前を見れば分かるでしょう?』

「え? あぁ〜」

碧空の君にそう言われ、莉奈は思い出した。

そう、斜め前方には"魔王様"がいたのだ。ただでさえ、王竜に近寄る魔物は少ないというのに、我らが魔王が騎乗していれば、もはや無敵状態だ。そんな彼に近寄る魔物など、いる訳がない。

鬼に金棒とは言うけれど、フェリクス王の場合はまさに"竜に翼を得たる如し"じゃないのかな?

『竜は元より翼を持っていますよ?』

莉奈のボヤキは声に出ていたらしく、ことわざを知らない碧空の君が可愛らしく首を傾げていた。

「無敵だという例えだよ」

鬼に金棒と同じ意味だけど、こっちの方が実にしっくりくる言葉だ。

莉奈はフェリクス王を見ながら、そのことわざは彼の為にある言葉の様な気がしていた。

莉奈と碧空の君がそんなやり取りをしていると、フェリクス王が軽く左手を挙げた。

何だと莉奈が思っていれば、碧空の君は王竜に続くようにして速度を落とし、緩やかに下降し始めたのである。

……という事は、今のは合図。

そして、下降しているのならそろそろ目的地なのかなと、莉奈は下を見た。

のだが……下に街や村などなく、所々木や草が生い茂っているような場所しかない。何故こんな所に降りようとしているのだろうか?

「あ」

不思議に思っていた莉奈だが、下降していく内に徐々に何かが見えてきた。

何もないと思っていたその場所には、見覚えのある木が優美に生えている。

ただ、莉奈の記憶に新しいのは、しおれまくっていた姿。警備兵アンナの問題児、ポンポコちゃんがぶっこ抜いてきた状態だが。

もちろん、今、目の前に生えている聖木は、幹は太く穴など空いてはいないし、枝は張りがあって逞しい。葉も青々と生い茂っている。

そして、何より神秘的に薄っすら青白く光っていた。

こんな聖木を、ポンポコは強引に抜いてきたのだ。やった事は最悪だけど、ポンポコの怪力に思わず感心してしまった。

「よっと」

フェリクス王達が王竜から降りたのを見て、莉奈もヒラリと地に降りた。

2時間くらい竜に乗っていたせいで、お尻と太ももが痛い。1人で乗るのが初めてだから、変な所に力が入っていた様である。

「アレ?」

碧空の君から降りて見上げれば、聖木の側に見た事のない濃い青色の竜が鎮座していた。

碧空の君より深い青色の竜で、日の光に当たると鱗がキラキラと光っている。

王竜の黒曜石、碧空の君のアクアマリン、そしてこのサファイア。並んでいると、竜は動く宝石とも呼ばれる由縁が良く分かる。

「リナ、久しぶりね」

竜や聖木の姿に圧倒されていれば、どこかで聞いた様な声が降ってきた。

「あ、アー」

「アンディじゃないわよ?」

アーシェスと言おうとした莉奈の言葉に、鋭いツッコミが入った。

そうなのだ。何故かローレン補佐官の側に、武器職人のお姉様ことアーシェスがいたのだ。

莉奈は思わず辺りをキョロキョロと。

「師匠は?」

「あのね、リナ。別にあの人と私はコンビじゃないのよ?」

いつも一緒にいる師匠バーツの姿がないなと、莉奈が探していれば、アーシェスが呆れていた。

莉奈と会う時には、もれなく2人でいる事が多いが、いつも一緒にいる訳ではないのだと。

「こんな辺鄙な所で何をしていたんですか?」

「何って待ち合わせに決まってるでしょう?」

「え、待ち合わせ? ココで?」

「そうよ」

「こんな何もない所で?」

莉奈の知る待ち合わせとは、こんな辺鄙な場所でやらない。

確かに目印にはなるが、魔物が蔓延る世界で、防壁の外側で待ち合わせるなんてあり得なかった。

いくら聖木があろうが、魔物が100%来ない訳ではなかったハズ。

なら、待ち合わせている間に、魔物に喰われてしまうではないか。

「文句ならコイツに言ってやって」

そう言ってアーシェスが指を差した先には、王竜と話をしているフェリクス王がいた。

「あ゛?」

思わず見れば、何か文句があるのかと睨まれてしまった。

いえ、文句ではなくただの疑問です。

「ここで何をするんですか?」

目的のウクスナがどの辺りにあるか知らないが、ここでない事は確かだ。

だけど、わざわざ待ち合わせ場所に指定するくらいだから、何かあるのだろうと莉奈は思ったのだ。

「何もしねぇよ」

「え? じゃあ何故ここで待ち合わせなんか?」

ウクスナとやらに現地集合でイイではないかと、莉奈は思ったのだ。

聖木があろうが、魔物が来る可能性がある。こんな所で待ち合わせするなんて、危険極まりない。

「コイツ等を連れていたら、目立つだろうが」

「……」

フェリクス王がコイツ等と示す先には、存在感しかない竜達がいた。

王都ではわざと目立つ行為をしたが、それ以外の場所では一般人に紛れたいらしい。だから、服装も冒険者風の軽装なのだろう。

それもそうだよね。国王陛下だと分かれば、誰も本音は話さないし態度が違う。調査など何も出来やしない。

だから、直接に現地には向かわず一旦ここで降りて、後は徒歩で行く予定の様だった。フェリクス王の事だから、ついでに探索も兼ねているのだろう。

「アーシェスさんがいるのは?」

武器職人だから、何かの仕入れかなと莉奈は思っていた。

フェリクス王がいたら安全だし、武器を安くする代わりに連れて行って欲しいと願ったのだろうか?

「コイツもウクスナに用があるんでな」

「なるほど?」

なら、フェリクス王が行くと聞き、彼をタクシー代わりに使ったという事か。

確かに歩けば何日掛かるか分からない距離だし、生きて行ける保証もない。だが、竜ならひとっ飛びだし安全だろう。世界一贅沢な足と言っても過言ではない。

「あ、そうだ、碧ちゃん。お金が欲しくなったら、タクシー代わりになれば稼げるんじゃない?」

アーシェスを見て莉奈はふと思った。

番以外の人を背に乗せたくなくとも、気球みたいな籠的な物に人を乗せて運ぶなら嫌じゃないハズ。なんなら、竜は言葉を理解するくらい知能が高いのだから、 魔法鞄(マジックバッグ) を持たせれば輸出入関連の仕事や、宅配便事業も出来るのでは?

「あなたの言うタクシーなるモノが何かよく分かりませんが、私が人のお金を稼いでどうしろと?」

そんな話を莉奈が唐突に言えば、碧空の君は眉間に皺を寄せていた。

貨幣を使うのは人間だけで、竜も魔物もそんな物は使わない。莉奈は何を言い出すのだと王竜達も聞き耳を立てていた。

「部屋の装飾品はタダじゃないんだよ?」

「魔物や素材と物々交換しているではないですか」

「魔物がいなくなれば、その交換自体が出来なくなるでしょう?」

今は魔物という交換材料があるが、その内にいなくなる事もあるかもしれない。なら、手に職があった方がいいのではと莉奈は考えたのだ。

「「……」」

「お主は面白い事を考えおるな」

莉奈の突拍子もない考えに、碧空の君とローレン補佐官の竜は唖然としていたが、王竜だけは愉快だと笑っていた。

莉奈と出会ってから、竜の生活や考え方はガラッと変わったからだ。

雌の竜達は人と同じ様に部屋を装飾し、身綺麗にし始めた。雌が変われば、その雌に気に入られようと雄の竜も変わってきた。

何より、何かが欲しくて人と魔物で物々交換し始めたのも驚きだったが、働いて小銭を稼ぐという発想はさらに驚きである。

何故なら、竜に働くという概念などないからだ。ヴァルタール皇国を護っているのも仕事ではなく、先人から続く信頼関係や番のため。

まぁ野竜が従うのは、フェリクス王が怖いのひと言だけど。

そもそも、人に命令されるのを嫌う竜が、番以外の人の為に何かするのは想像出来ない。だが、莉奈が口にすると、いつかそんな未来もあるかもと思えるから不思議だ。

王竜は、莉奈の考えを頭ごなしに一蹴したりせず話を聞き、ずっと感心して聞いていた。他の竜なら考えもしないだろうが、王竜だけはそんな人との共存のあり方もあるかもしれないと、莉奈を優しい眼差しで見守るのであった。