作品タイトル不明
521 育ちの良さ
「あぁ、チュウノウは中濃か。カツは全部豚か?」
「いいえ、右から"ボア・ランナー""ブラッドバッファロー""ヒュージャーピッグ"の肉にございます」
色々な魔物肉があるのだから、食べ比べの方が楽しいだろうと、一口カツにしてある。
ボア・ランナーはもうお馴染みの魔物肉。
猪系の魔物だが、獣特有の臭みはほとんどなく、豚とは違った味わいがある。
ブラッドバッファローは牛系。脂がのった霜降り部分より、赤身の味が濃いので、肉を食べたい時に食べると満足感が半端ない。
前に食べた時、ヒレ肉はビックリするぐらい柔らかく美味しかったので、もう一度作ってみた。
以前出した時は塩だけだったので、是非ソースで味わって欲しいなと思ったのだ。
後1つは、 魔法鞄(マジックバッグ) にあって食べてなかった魔物肉"ヒュージャーピッグ"。
一応【鑑定】をしたら豚系の魔物だったので、恒例の味見を厨房にいた料理人達としたら美味しかった。
このヒュージャーピッグは、ピッグと言う名が付くだけあって豚肉そのもの。しかも、魔物の肉の割りにクセというクセはなく、肉質も固くなく柔らかい上にものスゴくジューシー。
どんな風貌の魔物か気にならないといったら嘘になるが、見た事もない魔物……いや、見た事がない魔物だからこそ、ただの肉としてすんなり口に出来たのかもしれない。
芋虫の魔物キャリオン・クローラーみたいな姿を先に見たら、絶対口に出来なかった気がする。但し、一部の方を除いて。
とにかく美味しかったので、この魔物の肉もカツにしてみたのだ。
「普通の肉はないのかよ」
豚かと訊いたエギエディルス皇子が、文句と言うより呆れていた。
旨い不味いはともかくとして、仮にも王族の食卓に、魔物の肉がズラリと並んでいるのだから、呆れたくもなる。
「魔物のいない世界から来たわたくしめに言わせれば、これがこの世界の普通かと」
「「「確かに?」」」
妙な説得力を感じたフェリクス王兄弟は、思わず納得してしまった。
「リナの戯言に惑わされないで下さい」
そんな王達を見た執事長イベールが、やんわりと諌めていた。
莉奈が例え魔物のいない世界から来ようが、この世界の普通はこの世界の住民が決めるモノであって、莉奈が決めるモノではない。
そもそも普通の定義など、常に曖昧でないに等しい。なので、魔物を食すのが当たり前だと納得するには、まだ時期尚早だとイベールは思う。
◇◇◇
「白飯」
カツをひと口食べたフェリクス王は、莉奈にご飯を要求した。
やっぱりカツには白いご飯だよね。
莉奈は皿に盛っておいた炊き立てのご飯と箸を、フェリクス王に素早く差し出した。
ご飯が出る時は、大抵の場合フェリクス王は箸を使う事が多い。
ご飯はフォークやスプーンで掬うより、箸を使う方が食べやすいそうだ。
「ん、醤油とはまた違った味わいがあるソースですね。確かにカツに良く合っていて美味しい」
「焦茶色してんから苦いのかと思ったら、醤油と違って少し甘いのな。リナ、エビフライは?」
「もちろんあるよ。エビフライなら、タルタルソースとのコンボも美味しいよ?」
「マジか!」
シュゼル皇子はソースを少しだけ味見し、すぐにかけてひと口カツを食べていたけど、エギエディルス皇子はソースの色が余程に気になったのか、ソースの味を慎重に確かめていた。
だけど、莉奈からエビフライが美味しくなると聞いて、嬉しそうな表情に変わった。
「ん〜!? エビフライがさらにウマくなった!!」
莉奈に言われた食べ方で、早速食べてみたエギエディルス皇子が、口に入れた途端目を丸くさせて喜んでいた。
お気に入りのエビフライが、さらに美味しくなって嬉しい様だ。
フェリクス王は……そんなやり取りの中、ホースラディッシュを付けたり粒マスタードを付けたりして、一通りのカツをすでに食べ終えていた。
「カツに赤ワインは合うが、やっぱり白飯には合わねぇな」
そう呟くと、イベールにホーニン酒を要求していた。
ご飯にはやっぱり、お米の酒の方が合うらしい。
「どのカツが1番でした?」
今後の参考に訊いておこうかなと、フェリクス王に問う。
「どれも特質が違って旨い。ただ、ボア・ランナーは肉に厚みがあると少しクセが出る。嫌なクセじゃねぇが、どうやら 王家(うち) のお坊ちゃん達には合わねぇらしい」
「え?」
フェリクス王の言った 王家(うち) のお坊ちゃんと揶揄した先には、シュゼル皇子とエギエディルス皇子がいた。
どうやら王弟二人は、ボア・ランナーのカツだけは微妙な表情で食べていた様である。
「むぅ」
「申し訳ありませんね? 陛下と違って、育ちの良さが味覚にまで滲み出てしまう様で」
エギエディルス皇子は兄王にお坊ちゃんと言われ、ちょっと不服な感じだが、シュゼル皇子はほのほのと嫌味を嫌味で返していた。
「何が育ちだ。ポーションドリンカーが」
フェリクス王は鼻であしらっていた。
味覚に育ちが出る出ない以前に、ポーションは食事代わりに飲む物ではない。
「兄上。ポーションも料理と同じで、作り手によって味が変わるんですよ?」
「知りたくもねぇ」
シュゼル皇子曰く、ポーションに限らず魔法薬など基本的な配合は同じでも、作る人により苦味が強かったり弱かったりと、味が変わるらしい。
そんな話をシュゼル皇子は説明していたのだが、そもそもポーションは掛ける物で飲む物だと思っていないフェリクス王は、話を面倒くさそうに聞き流していた。
真面目なエギエディルス皇子は、次兄の説明を真剣に聞いていたけど。
「美味しく出来ないのかな?」
ちなみに莉奈のこの呟きは、ボア・ランナーの事ではなく、ポーションの事である。
ボア・ランナーは薄くすれば臭みはほとんど気にならない。だから、カツやステーキの様な厚くする必要のある料理にしなければいい。それかスパイスで誤魔化せるカレーの具材にすれば、まったく気にならないだろう。
ただ、ポーションは薬と同じで何かと混ぜては飲まない。むしろ混ぜるな危険だと思う。
掛けた事はあるが飲んだ事はないので、どんな味かさっぱり分からないが、美味しいに越した事はない。
なら、美味しく出来ないかなと、莉奈は斜め上に発想を飛ばし呟いていたのだった。
◇◇◇
ーーそれから数日の間。
莉奈は出張時、なるべく楽しく過ごせる様に準備をしていた。
食事はもちろんのこと、フェリクス王達に何かあってはと、タール長官やゲオルグ師団長に相談して、ポーションやエーテルの用意。
旅先で疲れを癒せる様な物を考えたり、莉奈はいつになく忙しかった。
ーーそして。
あっという間に、公務当日の朝を迎えたのである。