軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

517 1人思いを馳せる

「あ〜、やっぱりカツにはソースだ」

莉奈は、揚げたてのロースカツに出来立てのソースをかけて口にした。

やっぱりカツはマヨネーズじゃない。塩や醤油もありだけど、ソースが1番好きだなと莉奈はしみじみ思う。

「醤油と混ぜても美味しいんだよね」

だけど、ニンニクを漬けた醤油を混ぜたソースも好き。

ソースの優しい甘みにフワリと香るニンニクと醤油の塩味が、ソースをキリッと引き締める感じがする。あぁ、そうだ。粒マスタードを付けても堪らない。

このカツのカラッと揚がった食感、噛むと途端に溢れ出す肉汁。そこに、野菜の優しい甘さにスパイスの香り。それらが全て合わさり、肉の旨さを引き立てている。

ただ欲を言えば、カレーもソースも一晩寝かしたいところだ。

スパイス系は出来立てより一晩くらい置いた方が、味が馴染んでまろやかになる気がする。エギエディルス皇子風に言えば、三角が丸になる感じだ。

まぁ、これはこれで美味しいからイイけど。

「ん〜、焦茶色のソースが旨い!!」

「確かにヒレカツはタルタルじゃなくて、このソースだな!!」

「うんうん。絶対ソース。野菜とスパイスって、カレーだけじゃなくて、こんな美味しいソースも出来るのね」

「エビフライはタルタルもイイけど、ソースも堪らない」

「タルタルにソースかけてって、莉奈が言っていた意味が分かった。ソースの塩味がいいアクセントになってる」

「「「ソースが美味し〜い!!」」」

毎回思うけど、味見じゃなくて食事会だよね、コレ。

濾して煮詰めたから、中濃ソースの分量はウスターソースに比べて少ないし、各宮に分けたらあっという間になくなりそうだ。

「生のキャベツにかけても美味しい」

「作るの面倒だけど、食べてみるとカツには絶対ソースだよな」

「分かる。マヨネーズじゃないソースだ」

「ちょこちょこ作って置くか」

「だな」

今日みたいにいっぺんに作るのは大変だと悟った皆は、少しずつ作って保存しておこうと考えた様だった。

マヨネーズより時間がかかるのだから、それは仕方がない。

「リナ、ケチャップを作るのか?」

皆がソースに感動していると、味見を終えた莉奈が、食料庫に向かっていたのだ。

「だね。そんなに手間は掛からないから、作っちゃう」

地獄の様な作業をした後だから、ケチャップなんて全然難しく感じない。

トマトの下処理は少し面倒だけど、今はとりあえずの量しか作らないので楽である。

「「手伝うよ」」

莉奈が気合いを入れていれば、ケチャップに興味があるリック料理長と、1人じゃ大変だと察したマテウス副料理長がありがたい事に声を掛けてくれた。

「本当? なら、お願いしてもイイ?」

「イイはいいけど、お前は何をするんだ?」

例え丸投げだとしても、勉強だからそれでも構わないのだが、莉奈は何をするつもりなのか、マテウス副料理長が疑問に思ったのだ。

「ん? あぁ、さっきの続き。何日行くか分からないから、食材の下準備したり、いっぱい料理を作って持って行こうかと思って」

「そっか、それは大変だな」

「手伝える事があったら言ってくれ」

「ありがとう。だけど、リックさん達の方が大変じゃない? だって、シュゼル殿下、デザートないとご飯食べないし」

「「……」」

あぁ〜とリック料理長達が嘆いていた。

デザートというご褒美があるから、仕方なく食事をしているシュゼル皇子。莉奈がいなくなったら、ダメとは強く言える人がいない。

執事長イベールに任せるしかないだろうが、万が一にでも厨房に直接来られたら、自分達には否とは言える術はないのだ。

ポーション暮らしか、甘味暮らしになる可能性しか見えなかった。

「んじゃ、トマトやタマネギ、後はニンニクを切ってくれる?」

「「了解、ちなみに何個?」」

「ん〜。トマト20、タマネギ4、ニンニク2個?」

「ニンニク2個って、ひと片じゃなくて丸々2個?」

「だね」

「結構入れるな。で、その材料は全部みじん切り?」

「トマトは皮を剥いてざく切り、後はみじん切りだね」

お試し用だから、今はあくまで少なめ。

その内にたくさんの量を作る事になる訳だけど、今出来たソースに比べたら工程も少ないし、大変さも感じないのかもしれない。

「後は?」

「オリーブオイルと塩、胡椒。オレガノとか好みのハーブかな」

「好みのハーブか。なら確かローリエがあったな。ローリエでもイイって事?」

「だよ?」

ハーブと聞いて棚を漁っていた料理人が、棚の中からローリエの入っている瓶を取り出してくれた。

「そういや、ローリエで思い出したけど……俺はコッチに来た時、初めローリエって何の事か分からなくてさ。でも見たらローレルで驚いたんだよな」

「「ローレル?」」

「そう、俺のいた地方では、ローリエはローレルって呼んでたんだよ」

「へぇ、そうなんだ。確かに、国や地方によって全然名前が違うよな」

「ね、そういうのって結構あるわよね。イブッチャーも地方によっては、タバンとか呼ばれてるし」

「ニンニクはガーリックだったりな」

各々の作業をしながら、国や地域で呼び名が変化するのが、面白いと笑っていた。

どうやら聞いていると、食材だけでなく、動物や魔物も国や地域によって呼び名が変わるそうだ。

ーーっと、話を聞いていて忘れるところだった。

「トマトは種も取ってからみじん切りにして」

トマトの種を取らないで使ってもイイが、食感が悪くなる。自分だけ食べるならそのままだけど、王族も口にするから、食感は大事だよね。

「取った種は?」

「マヨネーズに入れると、食感が面白いドレッシングになるよ」

「え? 捨てないのか!?」

さすがに取り出した種は捨てると思っていた。そうだと分かっていても訊いたのは、ただの冗談のつもりだった。なのに、莉奈から返ってきたのは、まさかのドレッシングへの活用方法であった。

それを聞いた料理人達は、想定外の返答に驚愕するのだった。

「後は何にしようかな」

莉奈は自分の作業をしつつ、リック料理長達の作業を見ていると、もう食材のみじん切りが終わりそうだった。

ならばと、莉奈はケチャップ作りの工程を説明する事にする。

「材料が揃ったところで、まずはフライパンにニンニクとオリーブオイルを入れて、弱火で焦がさないように熱する。香りが立ったらタマネギを加えて、さらに弱火でじっくり炒めといて」

「タマネギは、カレーの時みたいに茶色まで炒めるのか?」

「そこまで炒めなくて平気」

説明を聞きながらリック料理長が、手際よく作業をしてくれた。

実際に作った方が、見聞きするより身につくと、リック料理長は基本的に自分で作る事が多い。メモも大事だが、実践はもっと大事だと知っているからだろう。

「ある程度炒まったら、そこにざく切りしたトマトを加えて軽く混ぜる。んで、塩、コショウ、お好みのハーブを加えたら、後はフタをしないで中火で10分くらい煮込めば"ケチャップ"の出来上がり」

「ソースに比べたら、簡単だな」

「でしょう? あ、そうだ。煮てると泡みたいな灰汁が出てくるけど、取っても取らなくてもどっちでもイイよ?」

「え? どっちでもイイ?」

「うん。個人的には気になるから少し取りたいけど、灰汁は取らない方が美味しいって話もある。だから、気になるなら〜くらいの程度で?」

「コンソメと違って気にしなくてもいいのか」

「だね」

コンソメは鶏だから、灰汁は鶏特有の臭みがあるが、トマトの灰汁は臭みとは少し違う。だから、必死に取る必要はない。あくまでも好みというか、作り手の好みな気がする。

「ついでに説明すると、トマトソースは、今作ったケチャップの材料と工程はほとんど同じ。ただ、トマトを入れる段階で、トマトとさっき出た絞りカスを入れるとトマトソースになる」

「なるほど」

「そっちは絞りカスを入れる分、味が濃いめになるから、ピザソースにしたり炒めた挽き肉と合わせて"ミートソース"にするとスゴく美味しい」

「「「"ミートソース"!!」」」

「そのミートソースを茹でたジャガイモの上にのせて、さらにその上にチーズをのせて焼くとーー」

「「「もっと美味しい!!」」」

ソース作りから、さらに進化して色々なソースや料理に発展し、皆はザワつきどころか歓喜の雄叫びを上げていた。

今日は色んなソースのお祭りだと。

頑張った分だけ、美味しい料理が出来た。

ミートソースが出来るから、スパゲッティが食べたいけど、スパゲッティの材料であるデュラムなんとか粉はまだ見た事がない。

小麦粉があるからうどんでもイイけど、今からはさすがにもう何も作りたくない。それに、もしうどんを小麦粉で1から作るなら、ミートソースじゃなくて普通のをまず食べたい。

釜玉、ぶっかけ、肉うどんが食べたい。

出汁がないから、生卵に醤油をちょっとかけて、ズルッと啜りたい。

あぁぁァァ〜、うどんが食べた〜い!!

ソースだケチャップだと騒ぐ皆をよそに、莉奈は1人うどんに思いを馳せていたのであった。