軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

515 地獄がやってきた

「ウクスナ?」

「ウクスナってどこだっけ?」

「何か聞いた事があった様な」

白竜宮の厨房に戻って皆に訊いてみたら、皆聞いた覚えはあるけど、分からないとの事だった。

やっぱり遠慮せずに、フェリクス王に訊けば良かったのか。莉奈がそう肩を落とした時、カウンター越しに答えが降ってきた。

「最近、グルテニア王国から離脱して、国を興した公国ですよ」

誰かと思ったら、油断すると地が出るゲオルグ師団長の補佐官、マック=ローレンだった。

「あぁ、シュゼル殿下が最近そんな話をしていたかも」

莉奈は何となく思い出してきた。

グルテニア王国と何があったか記憶にないが、国が分かれた様な話をしていたなと。

「現地調査も兼ねて向かうみたいですね」

「偵察の間違いじゃ」

ローレン補佐官がワザと間接的に言ってくれたのだが、莉奈は思わずツッコんでしまった。許可も取ってないだろうし、まして他国なのだから、現地調査でも何でもない。ただの偵察だ。

そう言ったら、ローレン補佐官はニッコリと微笑み返された。

皆まで言うなって事だろう。

「あれ?」

フェリクス王が冒険者紛いの事をやっていたのは、もしかして趣味と実益を兼ね備えた行動なのでは? と莉奈は今更ながらに気付き、背筋がゾクリとした。

普通なら、身分もあるし危険も多いから旅も冒険も、単身では難しい。だが、フェリクス王は国王である前に魔王だ。何にも恐れず諸国漫遊が出来る事だろう。

しかも、自家用ジェットの竜までいるし、行こうと思えば世界の隅々まで行ける。冒険者同士のネットワークも持っている。

フェリクス王って、ひょっとしなくても他国の王すら知らない、情勢まで知っている……のかもしれない。

そう考えたら、莉奈の背筋がさらに冷えた。

世の中知らない方がイイ事が多いよね。莉奈は深く考えるのをヤメた。

「国が不安定な場所は、魔物も多く凶暴になりがちですから気を付けましょうね?」

「……気を付けましょうね?」

莉奈はローレン補佐官の言った言葉に違和感を感じて、思わず眉根を寄せていた。

"気を付けて下さい"なら分かるけど、"気を付けましょうね"だ。

莉奈の勘違いでないなら、それはお互いに気を付けましょうって事だと思う。

「私も同行する事になりました」

「え?」

「陛下の足手纏いにならないか、今から緊張で吐きそうなんだけど」

本当に緊張しているのか、莉奈の前だからか地が出ていた。

莉奈は勝手に、フェリクス王とエギエディルス皇子と3人かと思っていたら、ローレン補佐官も一緒らしい。そう言ったローレン補佐官の顔色は、あまり良くない。

ただでさえ、王と一緒の空間にいれば緊張するのに、公務に同行ともなれば、さらに肌がヒリつくとか。

フェリクス王の剣技や討伐を、間近で見られる好機だと嬉しい反面、足手纏いになりそうで怖いそうだ。

「楽しんじゃったモノ勝ちでは?」

フェリクス王は、自分を護って欲しくてローレン補佐官を連れて行く訳ではないだろう。

なら、普段絶対に見られないフェリクス王の戦いを、砂かぶり席で見られるのだと純粋に喜んで楽しんじゃえばイイと思う。

「私は繊細なんですよ」

「……」

あなたと違ってという言葉が聞こえたんですが、今サラッとディスられました?

思わずジト目で見たら、ローレン補佐官が目を逸らせた。やっぱり、今の言葉には含みがあったに違いない。

「リナ、ウクスナに行くの?」

ローレン補佐官との会話を聞いていた料理人達が、ザワついていた。

莉奈が王城外に出る事が稀だからだろう。

莉奈も許可さえ得れば、城の外に行けるんだろうけど、もし出掛けて戻って来た時に、自分の居場所がなくなったらって考えたら不安だったのだ。

だって、 莉奈(じぶん) はこの王城の居候であって、ここは我が家じゃない。

いつも「おかえり」と迎えてくれる保証なんて、どこにもないのだ。それが無性に不安で怖い。

「何日くらい行くんだ?」

「しらん」

リック料理長に訊かれて、日程も何も訊いていなかったなと、莉奈は今気付いた。

「しらんって、誰と行くんだい?」

「……フェリクス王とか?」

「「「……」」」

空笑いでそう言えば、皆は固まってしまった。

莉奈1人だとは考えなかったが、まさか連れがフェリクス王とは想像しなかったらしい。

「お前、大人しくしろよ?」

「ご迷惑を掛けるなよ?」

「物を破壊するなよ?」

「「「いいか。くれぐれもお淑やかに」」」

「「「他国では迷惑を掛けないように!!」」」

何故、何かする事を前提として言ってくるのかな?

まだ出掛けてもいないのに、莉奈が何かする事は決定事項なのか、皆に強く念を押されたのであった。

◇◇◇

「さて、昨日のソース作りの続きだけど……」

悲しいかなミキサーがない。

莉奈から深いため息が漏れていた。

「ザルとフキンで濾していくよ」

「カボチャのプリンを作ったみたいにか?」

リック料理長が、咄嗟に似たような工程をした料理を思い出した様だ。

確かにカボチャのプリンも、カボチャを濾したりしたよね。量は大量だけど、その工程に近いかもしれない。

「だね。昨日煮た野菜とかをまずはザルでザッと潰して、その後フキンで濾す。その絞り汁を使って作るんだけど、とにかく最後の一滴まで濾して濾して濾しまくる」

「マジかー」

「この大量のスープをか」

「リナが昨日言っていた意味が分かったよ」

「「「まさに地獄だ」」」

莉奈がこれからやる工程を説明したら、料理人達がやる前から青褪めていた。

濾すと少なくなるから、大鍋でいっぱい作ったし、気力と体力の勝負だ。

手伝いたいけど、ウクスナに行く準備があるので、頑張りたまえ。