作品タイトル不明
514 準備と言われても
「少々お待ち下さい」
紅茶でひと息吐いていたシュゼル皇子に、ニッコリと微笑まれ、莉奈は慌てて 魔法鞄(マジックバッグ) からデザートを取り出した。
新作のデザートがない時は、大抵の場合アイスクリームだ。
だって、アイスクリーム皇子だもん。
「あ、フルーツサンドを作りましたけどーー」
「いただきます」
食後のデザートには多いかなと、莉奈は一応言おうとしたのだが、説明すらさせてもらえなかった。
とりあえず出せという事だろう。まぁ出しますけど。
「「……!」」
紙に包んで半分に切ってあるフルーツサンドを見て、シュゼル皇子とエギエディルス皇子が目を見張っていた。
焦茶色のパンと生クリームの白のコントラスト。そこに、苺やキウイ、バナナなど色々な果物で模した花。見た目はスゴく華やかである。
「何だコレ。パンが茶色い」
「あぁ、花は果物ですか。可愛いですね」
「……」
弟達が楽しそうにしている横で、兄王は眉根に皺を寄せていた。
生クリームと果物なんて、フェリクス王の嫌いな物だものね。
ちなみに、エッグベネディクトのパンは皆、普通のパンにした。フルーツサンドとかぶっちゃうのはと、思ったからだ。
「何故、パンが茶色なんですか?」
「お前、何か変なの入れたか?」
シュゼル皇子はともかく、エギエディルス皇子は失礼なんだけど?
「入れてない。生地にモラセスが入ってるんですよ」
「モラセス? 何だそれ?」
「廃蜜糖の?」
「そうです。少しクセはありますけど、美味しいですよ?」
エギエディルス皇子はモラセスが分からず、シュゼル皇子に訊いていた。
「ん。モラセス特有の風味がしますが、生クリームと合いますね」
少し食べづらいと苦戦しながら、シュゼル皇子は上品にフルーツサンドに齧り付いていた。
苺のブラックベリーは粒が大きいから食べづらいが、マスカットの方はそれに比べれば食べやすい。だからか、そちらを先に食べていた。
「シュゼ兄。よく食うな」
エギエディルス皇子が唖然としていた。
自分はお腹が一杯なのに、少食だと思っていた次兄が、デザートにしては量のあるフルーツサンドを口にしている。
莉奈が来るまで、ポーションしか口にしていなかったのは一体何だったのか。エギエディルス皇子は首を傾げたくなっていた。
しかも、しっかりと食事を摂るようになったおかげで肌艶もよくなり、元より良かった美貌が、さらに磨きが掛かっている気がするのだ。
「デザートは別腹ですからね」
ほのほのと微笑むシュゼル皇子を横目に、エギエディルス皇子は後で食べると 魔法鞄(マジックバッグ) にしまっていた。
さすがに朝食をしっかり摂った後に、フルーツサンドは多いからね。
「練乳入りの苺ミルクあるけど?」
「飲む!!」
ならばと、甘々の苺ミルクはどうするか訊けば、嬉しそうな返事が返ってきた。
シュゼル皇子はキラッとした輝かしい笑顔だったけど。
「甘くて酸っぱくて、ウマ〜い!」
「ん〜、口が幸せ」
練乳入りの苺ミルクを飲んだエギエディルス皇子も、シュゼル皇子もスゴく満足そうだ。
それを見ていたフェリクス王は、朝からゲンナリなご様子だった。
◇◇◇
食べ終えた後の片付けは、侍女達の仕事なので、莉奈はリック料理長達が待つ白竜宮に帰ろうと踵を返したらーー
フェリクス王から声が掛かった。
思わず肩がビクリとしたのはご愛嬌だ。断じて後ろめたい事がある訳ではない。
「来週、ウクスナに向かう」
「はぁ……?」
莉奈は思わず首を傾げた。
ウクスナがどこかよく分からない上に、そこへ向かう事を、何故自分に伝えるのか理解不明だったのだ。莉奈に報告する義務などないのだから。
「カカオ豆探しですよ。リナ」
「……」
首を傾げていたら、シュゼル皇子から嬉しそうな声が掛かった。
カカオ豆探し。この世界ではカカ王と呼ばれるモノを探す旅。いや、出張?
なら、フェリクス王だけでなく 莉奈(じぶん) もという事だろう。しかし、マジで自分も行かねばならないのかな? と莉奈は思わずフェリクス王を見た。
「お前に支度が必要とは思えねぇが、準備しとけ」
助けを求めて見たのだが、フェリクス王から返ってきたのは、ただの悪口でありディスりだった。
確かに、令嬢ではない莉奈に大した準備は必要ないが、ものスゴくバカにされた感じがする。
「乙女の端くれとして、準備しておきます」
だが、文句を言ったところで今度は執事長イベールの説教が始まるだろう。それに、出向する事に否と言えなさそうなので、とりあえずキリッと言ってみた。
「端が遠くて見えねぇ」
「エド?」
エギエディルス皇子が笑いながらボソリと何か言っていたので、莉奈は睨んでおく。
よく聞こえなかったが、絶対に失礼極まりない事だ。だって、フェリクス王達が笑っているのだから。
「エギエディルスも準備しとけ」
「了解」
カカ王探しはイヤだなと思っている莉奈だったが、エギエディルス皇子は真逆で嬉しそうだ。
いつも王城に置いてけぼりだから、一緒に行けて素直に嬉しいのだろう。
だけど、ウクスナってどこだっけ?
記憶にない莉奈は、後で誰かに訊いておこうかなと、思うのであった。