作品タイトル不明
512 莉奈は思う。何でも出来ての魔法では?
「俺はマヨネーズが最強だと思っていた訳よ。だけど、今はパンにはこのソースが最高だと思う」
「分かる。分かるが、俺は断然マヨネーズ派だ」
「私はこの……オラ、オランウータンソースかな?」
「「「オランウータンソース」」」
莉奈が厨房に戻ると、皆が試食会を開いていた。
そして、莉奈が適当に言ったオランウータンソースを、口にしては笑っていた。楽しそうで何よりだ。
だが、もうすぐ地獄が訪れる訳だけど。
「で、リナはヒッソリ何を作り始めてるんだ?」
皆がオランデーズソースに沸いている隅で、莉奈は1人静かに作業を始めていたのに、誰ともなく気付いた様だ。
ワイワイと話しながらも食堂から戻って来た莉奈を、しっかりと横目で確認していたらしい。
「シュゼル殿下用のフルーツサンド」
「「「フルーツサンド」」」
食パンではないけれど、モラセス入りの黒いパンで作ろうかと思う。
焦茶色のパンに白い生クリームは映えるし、花を模した果物は綺麗だよね。
「わあっ、生クリームたっぷりでケーキみたいだね」
「えぇ!? 苺は丸ごとパンに入れるの?」
「マスカットも粒のまんま?」
「「「豪快じゃない?」」」
莉奈がパンに生クリームをのせた後、ほとんどの果物を細かく切らずに丸ごと入れていた。
適当な大きさに切るだろうと想像していた料理人達は、目を丸くさせている。
だって食べやすさより、映え重視のフルーツサンドだから、丸ごとは仕方がない。
しかし、毎回料理を作っていると思う事は、料理もセンスが大事だなって事だ。盛り付けなんてお皿選びから食材の配置、ソースの垂らし方、その全てにセンスが必要だと思う。
今作っているフルーツサンドも、パンを半分に切った時に綺麗に見える様、中央に果物を配置するのは意外に難しい。ちゃんと計算しないと中央からもズレるし、包丁で切った時に残念な果物の花が咲く。
頭の中で、ある程度切った後にどう見えるか、想像が出来ないと花にすら見えない。
「パンに生クリームと果物を挟んだら、紙にしっかり包んで一旦冷凍庫か冷蔵庫で冷やす」
生クリームはしっかり冷やした方が綺麗に切れるからだ。
生クリームが柔らかいとグチャグチャな仕上がりになりやすい。
「お前……それシュゼル殿下が作って下さった冷凍庫か」
「だよ? だって、厨房に置いといても誰も使わないんだもん」
リック料理長が驚くのも無理はない。
莉奈が一旦フルーツサンドを冷やすために 魔法鞄(マジックバッグ) から取り出したのは、王宮こと銀海宮であまり使われていない例の冷凍庫だった。
料理に魔法が活用出来ると知った料理人達は、アイスクリームもカクテルも魔法でキンキンに冷やして 魔法鞄(マジックバッグ) にしまうから、冷凍庫の必要がない。
たまに早く冷却したい時に使うくらいで、飾りになっちゃってもったいないから、莉奈は自分専用に貰ったのだった。
「持ち歩いてんのかよ」
莉奈が貰ったのは知っていたが、まさか 魔法鞄(マジックバッグ) に入れて持ち歩いているとは思わなかったらしい。
厨房に戻って来たマテウス副料理長も、目を丸くさせていた。
「だって、シュゼル殿下のアイスクリームを作るのに必要だし」
「お前、魔法を使えたんじゃないのか?」
「氷魔法って想像以上に難しいんだよ。しかも、アイスクリームを作るには一気に凍らせるとダメだから、調節が」
「あぁ、ただ凍らせればって話じゃないもんな」
莉奈が説明したら、マテウス副料理長は苦笑いしていた。
アイスクリームはシャーベットと違って、一気に凍らせて作る氷菓子ではない。
あの滑らかな舌触りにするには、空気を含ませなければならない。なので、ゆっくり凍らせながら撹拌する工程がある。それを怠ると、シャリシャリして舌触りも悪く美味しくないのだ。
莉奈は魔法を使えるが、高度な技は使えない。性格が大雑把なせいか、元から苦手なのか練習不足か、あるいはそのすべてか。とにかく、細かい魔法は苦手だった。
「もぉ、指からアイスクリームが出ればイイのに……」
莉奈は堪らず呟いていた。
願いを叶えてこそ魔法ではないのか?
今欲しい物がパッと手を翳してパッと出てくればイイのにと、莉奈はボヤかずにはいられなかった。
「「「……」」」
その呟きを聞いていたリック料理長達は、顔を見合わせると苦笑を漏らしていた。
莉奈の考える"魔法"の概念が、自分達とは全く違う。
指から食べ物を出そうという発想がまずない。そして、万が一出るとして、それはどう出てくるのか。もし、ニュルッと出てくるのだとしたら、それを口にするのはなんか抵抗感がある。
莉奈の発想力はいつも斜め上なんだよなと、笑う皆なのであった。