作品タイトル不明
511 お貴族様のハムエッグ? "エッグベネディクト"
「さて、ソースが出来たので、後は用意した具材を順にお皿にのせていこう」
莉奈は早速、棚から平たいお皿を手に取った。
だが、センスが斜め上のリリアンは、お椀型のスープ皿を用意した。お椀なんてあり得ない。斬新を通り越してどうかしている。
「まずは軽く焼いたパン。その上にカリカリのベーコン、ポーチドエッグ」
「卵がぐしゃぐしゃだけど、まぁ口にしちゃえば同じ同じ」
何が同じなのかとリリアンの盛り付けを横目で見れば、失敗したポーチドエッグがベーコンの上にデロンとのっていた。
それはたぶん、残念なかき玉だと思う。
「で、今作ったオランウータンソースを多めにかけてーー」
「たっぷり、たっぷり〜」
「リリアン、お前……スープじゃないんだぞ?」
莉奈は、リリアンの盛り付けが気になってしょうがなかった。
多めって限度があるよね? たっぷりどころかヒタヒタって言うんだよ。リリアン。
「その脇にアボカドとアスパラガス、ベビーリーフを添えれば、"エッグベネディクト"の出来上がり」
「アボカドは潰した方が食べやすいーー」
「リリアン、アボカドを握り潰すな。汚いから!!」
結局リリアンは、それは責任持って自分で食べろと怒られていた。
リリアンの作ったエッグベネディクトは、オランデーズソースの湖に、少し焦げたパンが浸り、その上にグチャデロのかき玉モドキ。さらにその上や周りに握り潰されたアボカドが、ベチャッと散らばっていた。
盛り付けは自由だと思うけど、センスの欠片もない。
莉奈はそれを見て、改めて料理は視覚、嗅覚、味覚を感じて食べる物なんだなってつくづく思った。
作りながらソースの名前を思い出そうと努力したけど、リリアンが気になって"オランデーズソース"の名を思い出せなかった。
もう今日は思い出せる気がしない。しばらく、コレはオランウータンソースでイイやと、開き直った莉奈だった。
「「「これが、エッグ……ベネディクト」」」
リリアンのはともかく、莉奈の作った方はオシャレで美味しそうな料理だ。
この新作のソースもオランウータンソースが正式名称じゃなさそうだけど、どんな味がするのだろう。
皆はマヨネーズとはどう違うのかと、スゴい気になっていた。
「なんか、名前からして庶民的な料理じゃなさそうだな」
「ハムエッグが庶民的なら、コレはお貴族様って感じ」
「ソースの味が気になる」
騒めく皆の分のオランウータンソースことオランデーズソースを残し、莉奈はフェリクス王達の分と、リック料理長達の分を手早く盛り付けし、食堂に向かった。
リック料理長とマテウス副料理長は、待っている間手持ち無沙汰だったのか、メモ帳を取り出して何か話をしていた。
どうやら、最近試作している料理のレシピの情報を、交換している様だった。
リック料理長は言わずもがなだけど、一見チャラそうに見えるマテウス副料理長もかなりの勉強家である。
「お待たせ」
莉奈が来た事を察した2人は、パッと嬉しそうな表情に変わった。
そわそわとしながら、莉奈が目の前に出してくれる料理を忠犬のように、待っている。
平たい白いお皿に、自分達が新しく作ったモラセス入りの茶色いパン。その上にカリカリのベーコン、半熟のポーチドエッグ。そして、マヨネーズより少し濃い黄色のソースがトロリとかかっていた。
マヨネーズに似て見えるが、マヨネーズではない。だが、何のソースなのだろうと2人はソースに釘付けだった。
「「コレは?」」
「"エッグベネディクト"」
本来なら、イングリッシュマフィンで作るんだけどないから、モラセス入りの焦茶色のパンで作ったのだが、どうなんだろう?
モラセス入りのパンは少しクセがある。だけど、ふんわり甘めだし塩気のあるベーコンとオランデーズソースを引き立てるのでは? と勝手に想像する。
ーーあれ?
良く考えたらモラセス入りは少し甘いし、フェリクス王には不評ではないのかな?
フルーツサンドを作るついでに、柔らかめの普通のパンで作っておこうと莉奈は思うのだった。
「この少し黄色がかったソースは?」
「オランウータンソース」
「「オラ……絶対に違うな」」
莉奈がシレッと適当な事を言えば、リック料理長とマテウス副料理長は笑っていた。
正式名称など知らないが、2人にもしっかりそれは違うと直感が働いていた。
「さっきからずっと考えてるんだけど、全く思い出せないんだよね」
味噌汁とか肉じゃがとか、日常的に食卓に載っていれば覚えているんだけど、普段あまり作らない料理は記憶がうろ覚えだ。
レシピは頭に浮かぶのに、名称が浮かばないなんてもう笑うしかない。
「もう、リックさん達が名付けちゃえば?」
この世界に同じモノがないなら、好きに付けちゃえばイイ。
莉奈はそう思ったのだがーー
「思い出したら教えてくれ」
速攻でリック料理長に却下されてしまった。
適当だと、モヤッとするそうだ。
莉奈もそれは何となく分かる気がするので、強く返さなかったのだった。
◇◇◇
「「んっ!?」」
リック料理長とマテウス副料理長は、まずはソースだとエッグベネディクトの脇に添えてあるアスパラガスに、オランデーズソースを付けて口にした。
見た目はマヨネーズに似ているが、口に含んだ途端にバターの香りが鼻から抜ける。そして、次に口に広がるバターの濃厚な味とコク。
これだけバターをふんだんに使っているのにも関わらず、脂っこくないのは卵黄とレモン汁のおかげだろう。卵黄がバターの濃厚な味をまろやかにさせ、レモン汁のほのかな酸味が、バターソースを引き立てるだけでなく、サッパリさせていた。
マヨネーズが最高なら、コッチのバターソースは最強ではなかろうか。
「パンをナイフとフォークで食べるなんて、考えた事もなかったな」
「ですよね。んん! このソース、半熟卵を軽く混ぜてパンに付けると、パンがものスゴくウマい」
「パンだけじゃないぞ? アスパラガスにも付けてみてくれ。アスパラガスってこんなに美味かったっけ? ってなぐらいに美味しいぞ」
「んんっ! 本当だ。アスパラガスが凄いウマい。普通のパンでも試してみたいですね」
「だな。後はじゃがいも」
オランウータンソースは概ね高評価な様だ。
となると、後は名称を思い出すだけだ。だけど、考えるとすぐ頭に鼻の下が長い"オランウータン"が浮かんじゃって、微塵も思い出せないんだよね。
美味しい美味しいと、ソースの分析をしながら食べているリック料理長達を見ながら、莉奈はしばらく考えていたが……やはり思い出せない。
「まっ、しばらくはオランウータンでいいか」
その内に思い出すでしょうと、莉奈の切り替え……いや、諦めは早かった。