軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

509 安定のリリアン

「ちなみに、もう1種類作ってみたんだ」

リック料理長がそう言って、もう一つパンを 魔法鞄(マジックバッグ) から取り出し見せてくれた。

焼き立てホカホカのパンは、大きさこそ同じだったが少しだけ、独特な香りがふわりと鼻を掠めた。

焼いてあるので表面は焦茶色。だが、手で軽くちぎってみると中は黒糖パン同様に茶色だった。ほんのり黒糖に似た香りがしたので、莉奈はピンときた。

「あ、モラハラ入りでしょう?」

「「"モラセス"な」」

モラハラとモラセス。どこか似ているが非なるモノだ。モラハラなんてモノ、パンに詰め込めない。

莉奈のうろ覚えに、リック料理長とマテウス副料理長は笑っていた。

「うん。普通のパンと比べたら少しクセがあるけど、ここに生クリームとか苺を挟んだりして"フルーツサンド"にしたらーー」

「「あぁ〜、シュゼル殿下の笑顔が見えるよ」」

莉奈が最後まで言うまでもなく、リック料理長とマテウス副料理長が途端に遠い目をしていた。

文字通り絶対に食い付くパンだろう。

莉奈の頭の中にも、シュゼル皇子の花のような笑顔が浮かんでいた。

苺バターをこんもりのせて食べる彼の事だ。フルーツサンドなんて絶対に好きに決まっている。

莉奈が生暖かい目をしている中、果物や生クリームまで挟むとか、莉奈はよく思い付くなと2人は感服していた。

パンが柔らかくなっただけで、こんなに色々なバリエーションが増えるとは。

まぁ、その柔らかくなるまでが大変だったのだけど……。

リック料理長とマテウス副料理長は、忙しい日々を送りつつ楽しんでいたのであった。

莉奈は莉奈で、そんな2人を見て刺激を受けていた。

なんだか分からないけど、無性に何か作りたくなり始めたのだった。

「そうだ。リックさん、マテウスさん朝食は?」

莉奈はとりあえず食べかけのパンを 魔法鞄(マジックバッグ) にしまい、本能の赴くままに動く事にした。

「「いや、まだだよ」」

「なら、そのパンまだあったら少しちょうだい。何か作ってあげるから」

そう言って莉奈は手を出した。

自分の朝食も作るついでだし、何より2人の功労者に何か作ってあげたくなったのだ。

「「何を作ってくれるんだ!?」」

パンを取り出しつつ、リック料理長とマテウス副料理長の瞳が、キラッと光った。

ついでに何故か周りの料理人達の目も光っていた。

「それは出来てからのお楽しみ」

莉奈はニッコリ笑うと、厨房に併設されている食堂で待つように促した。

だが、何故か2人は一向に動かなかった。

「……いや、だからあっちで待ってなよ」

「「え、だって何を作るのか気になるし」」

「……」

お楽しみの意味とは? 莉奈はため息を吐いていた。

そもそも、ジッと見られているとやりづらい。

「作り方は後で教えるから、あっちで待ってて」

始めから見てたら、楽しみが半減しちゃう。

莉奈は後ろ髪を引かれる2人の背中を押して、厨房から追い出したのだった。

◇◇◇

「まずは、好みの野菜を用意する」

ベビーリーフでもイイし、レタスでもイイ。莉奈的にはアボカドが一番好きなのでアボカドを用意した。

「好み? なら、俺はパセリだな」

「私は大根」

「とうもろこし」

莉奈が"好み"なんて言ったが為に、皆は思い思いの野菜を用意していた。

莉奈の想定外の野菜達に、困惑を隠せない。

そうなのだ。彼等が、莉奈の作ろうとしている料理を知っているならともかく、何を作ろうとしているのかをまったく知らない。だから、好みと言われたら、それに合う野菜ではなく、好きな野菜を出すに決まっていた。

「ゴメン。アボカドか葉野菜にして」

お好み過ぎて、何か違う料理が出来そうだ。

「「「好みとは??」」」

すぐにダメ出しされた料理人達は、手を止め莉奈を見るのであった。

「とりあえず、ベーコンは薄切りにしてカリッカリに焼く」

「焼くだけなら、私がやっとくわ」

「アボカドはーー」

「スライスでイイのか?」

「うん」

「なら、それは俺がやっとく」

簡単な作業は進んでやってくれる皆に感謝しつつ、莉奈は妙な手持ち無沙汰を感じてしまった。

色々とやる事がいっぱいあるのもイヤだけど、何でもかんでもやってくれると何故かしっくりこない。作った感がないというか何というか……贅沢な悩みだなと苦笑いする。

「リックさん達から貰ったパンは、横から半分に切って軽く焼くんだけど……下の部分は陛下達に、上の部分は我々の試食に使う」

下の方が平らで安定しているから、お皿の上に置いても、上に具材をのせても落ちないからだ。

莉奈は、リック料理長達から貰った柔らかいパンを横から包丁で半分に切ると、断面をオーブンで焼くよう頼んでおいた。

もうこうなったら、見ている料理人達は使ってしまおうと考えたのだ。

「で、後は"ポーチドエッグ"を作る」

「「「ポーチドエッグ?」」」

莉奈がそう言って片手鍋を用意していると、食堂のカウンター越しからリック料理長達まで顔を出していた。

気になって仕方がなかったみたいだ。

「ザックリいうと温泉……温玉だよ」

「「「温玉??」」」

「なんだっけ? 聞いた事があったな」

「えっと、半熟卵?」

「あぁ、前にサラダにのっけたヤツだ」

以前、シーザーサラダの上にのっけた半熟卵の事を思い出したらしい。

その時とは作り方が違うので、莉奈は皆にも良く分かる様に説明をしながら作る事にした。

「お鍋にたっぷり沸かした熱湯に塩と酢を入れて、菜箸とかで鍋のお湯をクルクル掻き回して 渦(うず) を作る」

「「「渦?」」」

「うん。ナルトみたいな渦」

「「「"ナルト"って何?」」」

「……」

莉奈の手が思わず止まった。

うどんやラーメンの上にのってる練り物と説明したら、今度はうどんとラーメンとは? となるに決まっている。

鳴門海峡なんて言っても、絶対分からない。ヨシ、無視だ。

「とにかく渦の中心に卵を入れる。この時、小皿に卵を一旦割ってからゆっくり入れるとイイ」

「え? ナルトは?」

「塩はともかく、お酢?」

「お湯を掻き回すの?」

「え? 卵は直じゃダメって事?」

「ナルト〜って何〜!」

若干、ナルトナルトとうるさい人がいるが、完全無視だ。

「酢を入れるのは白身を綺麗に固まらせるため。お湯を掻き回すのは卵を一箇所に留まらせたいから。卵は直より小皿から鍋に入れた方が、綺麗な形に仕上がるんだよ」

「「「なるほど」」」

「ちなみに激しく掻き回すと……あぁなる」

話を聞かないリリアンは、楽しそうにお湯を勢いよく掻き回しているので、卵が割れてぐちゃぐちゃだった。

あれで本当にパン作りが上手いというのだから、世の中不思議過ぎる。