軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

498 地獄の始まり

「相変わらず酔ったんだね」

時短のため、 瞬間移動(テレポート) の間の許可を得てからサイルは行ったらしく、それを使って来たリック料理長とマテウス副料理長の顔が真っ青だった。

莉奈は全然酔わないが、アレを使うと大抵の人はこうなる。

気分を一新させるため、2人にククベリーの炭酸割りを出してあげたら、炭酸水の様に弾ける笑顔に変わった。

「うっまぁ!! ククベリーってホント美味しいですよね?」

「あぁ。今まで見向きもしなかったのにな」

「今まで身近にあり過ぎて、興味が薄れていたんでしょうね」

身近にあったが、見向きもしなかったククベリーの価値を改めたらしく、最近はククベリーの栽培を始める農家も多くなったとか。

このまま定着すればイイけど、庭になる果実って、意外と食べなくなるんだよね。また、そうならなきゃイイけど。

「何か新しい調味料? を作るとかって聞いたけど?」

気分がスッキリしたリック料理長が、気を取り直して訊いた。

「え? あぁ、"地獄の調味料"の事?」

「「え??」」

「「じ、地獄の調味料??」」

莉奈が乾いた笑いを漏らしながら言えば、リック料理長だけでなく、聞いていた皆が時を止めていた。

そんな事さっきは言ってなかったのに、何だそれは。"地獄"とは穏やかではないではないかと。

「カ、カロリーが高いのか!?」

「使うと太るのか!?」

厨房が一気にザワついた。

罪悪のパンを思い出したのか、リック料理長は咄嗟にお腹を押さえていた。

「太るかはしらんけど、工程が地獄なんだよ」

だって、便利道具がないんだもん。ミキサー、フードプロセッサー、電子レンジ。

それらがあれば、何作るにも手間が吹き飛ぶのに、ないから全部手作業だ。面倒を通り越して地獄だよね?

「「「あ〜そっちの地獄」」」

まだ工程を教えてもいないのに、皆の顔から表情が抜けていた。

料理好きだとしても、何でも1からなんて嫌になる。物事には限度があると思う皆だった。

「さてと」

莉奈は周りを見渡した。

リック料理長やマテウス副料理長だけでなく、銀海宮と黒狼宮からそれなりの人数が来た様だ。

となれば、やるべき事は1つ。

「と言う事で"第3回玉ねぎスライス競争"を開催したいと思います!!」

「「「えーーーーっ!?」」」

莉奈がそう宣言した途端、皆の絶叫が厨房に響き渡っていた。

あの地獄、再びである。

玉ねぎスライスだけで終わる訳がない。絶対にその後、地獄の罰ゲームが待ち構えている。想像でもしたのか、皆の魂が抜け始めていた。

「まぁ、今回も優勝者にはデザートでもーー」

「「「デザート!!」」」

莉奈が作ってあげようと言うまでもなく、現金な皆は速攻食い付いていた。

キミ達のそういう所、嫌いじゃないよ?

「玉ねぎは、今日は少なめの100いってみようか!」

「「「いってらっしゃいませーー!!」」」

アレ? 一瞬少ないぞと思ったが、これから誰かがやるだろう罰ゲームの大変さを想像したら、口から出たのは訳の分からない返事だった。

そんな料理人達の返答に、莉奈は目を丸くさせるのであった。

◇◇◇

ーーコンコンコン。

「グスッ。頑張ってーっ!」

「目がぁ〜っ」

「負けるなぁ! ひっく」

白竜宮の厨房では異様な光景が広がっていた。

玉ねぎを切れば、もれなく付いてくるのが涙だ。

勝ちたくて必死だが、その必死さに泣きが入っているから、作業をする料理人達の表情が可笑しな事になっている。

毎回笑っちゃいけないなと思いつつ、つい面白くて笑っちゃう。

玉ねぎを切っても涙が出ない方法って、包丁の切れ味がいいと涙が出にくいとか、舌を出しながら切るといいとか聞いた事はあるけど、眉唾物が多いんだよね。

莉奈的には、電子レンジで温めちゃうのが一番だと思うけど、ないから気合いで頑張れとしか言いようがない。

「リナ、お前は何をしてるんだ?」

莉奈の行動を不審に思った料理人の1人が、莉奈に声を掛けてきた。

何故なら、そんな皆をよそに、莉奈は冷蔵庫をカパカパ開けたり、食料庫を見に行ったりしていたからだ。

「ご褒美のデザートは何にしようかなと?」

断じて遊んでいる訳ではない。

「あぁ!! 何にするの?」

莉奈が説明すれば、納得したようだ。

だが、次に気になるのは何にするのかという好奇心だ。

「……決めてない」

一瞬、例の黒糖タピオカでイイかな? と思ったのだが、エギエディルス皇子にあげる分も、ついでに作ってあげたいなと頭を過ったのだ。

なら、スライムはダメだ。だって牢屋行きだから。

「簡単で美味しい物がイイよね」

莉奈は何にしようかなと、エギエディルス皇子の喜ぶ顔を想像しながら、考えるのであった。