軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

477 神をも喰らう

「確かに、この弾力はギロンチと似ているな」

リック料理長が、手にしたフォークで魚の身の弾力を確かめていた。

ギロンチが何か知らないが、この世界かこの国では案外ポピュラーな魚なのかもしれない。

「"ギロンチ"って何?」

「え?」

「ギロンチ」

「あぁ、ハミンチュに似た魚だよ」

「"ハミンチュ"??」

さらに訳が分からなくなったぞ?

ギロンチと似た魚がハミンチュ。だが、そのハミンチュすら分からない。莉奈は首が斜めに曲がるばかりである。

「ギロンチはないけど、ハミンチュならあるよ」

「うっわ……派手だね」

莉奈が知らなそうだと思ったリリアンが、冷蔵庫から現物を持って来てくれた。

バットに入ったハミンチュと言う魚は、蛍光ピンクと蛍光緑のマダラ模様のド派手な魚だった。

魚の形的には、鯛に似ている。熱帯魚みたいなド派手なカラーの鯛、といったところだ。

「オスのハミンチュはド派手なんだよ。メスのハミンチュは黒っぽい」

「あぁ、そう」

なら、想像するにオスはメスに求愛するために、こんなにド派手なんだろう。……にしても、派手過ぎて目に痛い。

「味は?」

「白身だから、淡白だね」

バターソテーにする事が多い魚だと、リック料理長が教えてくれた。

なら、今味見した魚と一緒に丼ものに入れてもイイなと、莉奈は考える。

「この魚も白身っぽいけど、脂がのっていて美味しいな」

「でしょう?」

そう教えてくれながら、薄水色の魚の切り身を食べたリック料理長は、意外な美味しさに目を見張っていた。

「皆も食べてみなよ。美味しいから」

リック料理長や他の料理人が口にすれば、毒味でも終わったかのような安心感でもあるのか、1人また1人と莉奈から切り身を受け取り口にしていた。

「ん!? 焼き魚とは全然違う」

「生臭いかと思ってたのに、スゴい美味しい!!」

「醤油をつけると、風味が加わってさらに美味しいな!!」

「生なんてって思っていたけど、脂がのってて旨い」

「パンにも合うのかな?」

クセの少ない白身魚のおかげか、刺身初心者でも抵抗感は少なく美味しく食べられた様だ。

旨い旨いと、皆の手が自然と切り身ののった皿に次々と伸びていた。

生でも平気なら、海鮮丼もありだよね。酢飯は苦手な人もいるかもしれないから、そこは普通の白飯で。

「ところで、この白身魚は何の魚なんだい?」

リック料理長がモグモグと味わいながら、莉奈に訊いた。

シュゼル皇子に渡された 魔法鞄(マジックバッグ) から取り出したのだから、魔物には違いないが何だろうと、ある程度は想像し覚悟はしていた。

覚悟はしていたがーー。

「あぁ、コレ?」

「うん」

「"リヴァイアサン"」

「「「え?」」」

「リヴァイアサン」

「「「え??」」」

「だから、"リヴァイアサン"」

「「「……」」」

実際、莉奈の口から耳にすると、何故か頭が現実を受け入れない。

皆は自分の耳が信じられないのか、莉奈に繰り返し訊いた後、一斉に固まっていた。

魔物だとは思っていたが、コレが神龍リヴァイアサンの切り身だとは思わなかったのだろう。絶句を通り越して、息まで止まっているかの様に動かなくなってしまった。

いつも煩いくらいの料理人達が、もはや石像の様である。

それほどまでに、衝撃だったのだろう。

「リヴァイアサンって、美味しいね?」

「「「……」」」

莉奈は、そんな皆などお構いなしに、もう一切れ口にしニコリと笑った。

リヴァイアサンの身は、色はともかく味はサーモンみたいでスゴく美味しい。

醤油を弾く程の脂。だが、良質なのか後味はスッキリしていてしつこくない。表面を少し炙ったら、香ばしさも増して美味しいだろう。

莉奈は、リヴァイアサンの切り身を薄く削ぎ切りにし、サラダにしようと考えていた。

「「「リヴァイアサン」」」

莉奈が鼻歌交じりに、サクサクとサラダ用に野菜を用意し始めていたが、料理人達は何度も反芻し呆然としていた。

魔物を通り越して"神龍"だ。

魔物は未だに抵抗があるが、リヴァイアサンとなると抵抗がどうとかいうレベルを遥かに超えていた。

今まで見た事もない上に、この先見る事も皆無だろう。しかも、そんな超稀な魔物を今、口にしたのである。

なんだかよく分からないが、手足が驚愕と感動で震えていた。

そして、頭が冷静になってくると、美味しいとか美味しくない以前に思う。

ーーリヴァイアサンって、食べていいのか?

陸地に住む者達は、リヴァイアサンを魔物だと思っているが、海沿いにある村や町の一部では、リヴァイアサンは海の神様と崇め祀られている生き物だ。

だからこその"神龍"リヴァイアサンだ。

そのリヴァイアサンを、今 口にしてしまった。

海神様を食べて、バチは当たらないのだろうか?

そう考えたら、今度は別の意味で身がブルリと震えた皆なのであった。