軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

459 無味無臭

「さすがはリナだ」

私が見込んだだけの事はあると、ゲオルグ師団長は高らかに笑っていた。

過去、男だけが番の竜を持ててきた中、その制約を根本から変えただけでなく、女性初の竜騎士になったのが莉奈である。

ゲオルグ師団長は、想像以上の莉奈の戦いに大満足であった。

「「「……」」」

ゲオルグ師団長の笑いに驚いたのか、莉奈を見て戦意喪失したのか、スライムだけでなく、辺りにいたであろう魔物の気配が一斉になくなるのを警備兵達は感じていた。

木の陰にいた他の色ナシスライム達も、城壁に叩きつけられた仲間だったモノに唖然としていたが、仲間を一撃で倒した莉奈がこちらを見ているのに気付き、身をゾワリと震わせていた。

莉奈にロックオンされたと勘違いしたスライム達は、示し合わせたかの様に一斉に逃走したのである。

そして、魔物の気配は莉奈の周りからなくなったのだった。

「あれ? スライムがどっかに行っちゃった」

原因が自分にあると微塵も思わないのか、莉奈は首を傾げている。

鍛錬を積んだ兵士や戦士ならともかく、莉奈を見て逃げたのであれば、魔物は莉奈の恐ろしさに、本能で気付いていると言う事だ。

「どっかに行ったんじゃなくて……」

「「「逃げたんだよ」」」

何故かスライムの心情が手に取るように分かった警備兵達は、果敢に莉奈に立ち向かい潰されたスライムに、憐みの目を向けるのであった。

◇◇◇

「なんか、クラゲみたいだね?」

城壁の側で、莉奈に倒された色ナシスライムが、平たくなっていた。

生きている時は張りがあり、ポヨンとしていたが、死んでしまうと平べったくなる様だ。

その辺に落ちていた木の棒で突っつくと、表皮が固くて触手のないクラゲみたいに見える。

「確かにクラゲみたいだな」

言われてみればクラゲに見えるなと、ゲオルグ師団長が顎を撫でていた。

【スライム】

地面のある所であれば、どこにでも生息している無色透明のスライム。

別名"色ナシ"と呼ばれる。

雑食で草花から、魔物の死骸や人も食べる魔物。

顔に目がけて臭い体液を吐いたり、飛んで来たりして窒息させる。

〈用途〉

核を取り出し特殊な液体で培養が可能。

その培養スライムに攻撃性はなく、何かを食べさせる事が出来る。

核や消化器官を取り除いたスライムは、温めたり冷やす事で保温剤や保冷剤として使用可能。

但し、何回か繰り返すと腐る。

薄くスライスして、1度乾燥させたスライムを化粧水やローションで戻すと、美容パックになる。

〈その他〉

核や消化器官は食べられないが、表皮を取り除いた身は食用可。

だが、無味無臭で食感がイカに似ている。

「……味のしないイカ」

興味本位で【鑑定】を掛けて視たら、まさかの食用であった。

無味無臭なら、美味しくも不味くもないのだろう。

微妙な表記に、莉奈は思わずガッカリしてしまった。

「スライムなんか鑑定してんじゃねぇよ」

「色ナシじゃなくて、味ナシか」

「人の話を聞けや。お前、スライムまで食う方向に考えるのはヤメろ」

どうかしていると呆れた声が聞こえた。

莉奈がアレ? と振り返れば、エギエディルス皇子がそこにいた。莉奈がまた何かするといけないので、監視も含めて再び探しに来たのである。

来たら来たでスライムを蹴り倒しているし、スライムに鑑定を掛けているしで、エギエディルス皇子は何からツッコんでいいのか分からなかった。

【表皮を取り除いた身】

水で良く洗い、1度乾燥させてから水で戻すと弾力を楽しめる。

砂糖水で戻すと、より美味しい。

とある世界のナタデココに食感が似ている。

「ナタデココ」

エギエディルス皇子の話を無視し、さらに【検索】を掛けて視た莉奈は目を見張った。

確かに、ナタデココはイカの食感に似ている。

無味無臭なら、砂糖水で戻せばデザートとして楽しめるのも頷ける。処理が気持ち悪そうだが、アリといえばアリかもしれない。

「は? ナタデ……? とにかく、何でもかんでも食べる方向に考えるのはヤメろ。スライムなんか誰も食わねぇから」

「エド、とりあえず解体してよ」

「お前っ……だから話を聞け! とりあえず解体しろってなんだよ」

「解体」

「……」

「分解」

「……」

莉奈がそんな事を言うものだから、エギエディルス皇子は頬を引き攣らせながら、器用に笑っていた。

解体しろなんて、絶対に碌な事を考えていないと、察したのだ。

「リナ。一応、何故と訊いても?」

同じく頬を引き攣らせていた警備兵が、黙るエギエディルス皇子の代わりに訊く。

なんだか、食べる方向に考えている様な気がするが、まさかなと皆は思っていたのだ。

「砂糖漬けにすると、アラ不思議。スライムが簡単デザートに?」

「「「……」」」

ナタデココに食感が似ているなら、砂糖シロップに漬ければ、ナタデココ風になるのでは? と莉奈は考える。

莉奈がニコリと伝えれば、皆はやっぱりと思うと同時に、驚愕と困惑の表情が入り混じっていた。

「バカじゃねぇの? あんなモノまで食おうとすんじゃねぇよ。気持ち悪ぃ」

エギエディルス皇子の頬は、引き攣りまくりだった。

先程まで、ポヨポヨとしていたスライムを【鑑定】で食べられるからと、食おうとしているのだ。

あのスライムをである。

エギエディルス皇子の眉根は、お爺ちゃん顔負けのシワが寄っていた。

「廃棄しとけ」

拾いに行こうとした莉奈の袖を、エギエディルス皇子は慌てて引っ張り、ゲオルグ師団長達に処分する様に言った。

「えぇ〜っ!? なんで〜」

「なんでじゃねぇつーの!」

「アレ、保冷剤にもなるのに〜!!」

莉奈が嘆くようにそう言えば、エギエディルス皇子の手がピタリと止まった。