軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

452 魔王、改め魔神

「「腹」」

フェリクス王達は相変わらずの莉奈に、失笑していた。

何をやらかそうが、莉奈は莉奈である。良くも悪くも変わらない。だが、それが何故か安心するから不思議だ。

「リナ、それでーーった!」

チョコフォンデュやホワイトチョコは?

とまだ諦めないシュゼル皇子の頭に、フェリクス王のゲンコツが落ちていた。

甘味に興味ゼロなフェリクス王。

それどころではないだろうと、長弟を諫めた。

「んなモノより"コレ"だろうが」

背後にそびえ立つ聖樹にチラリと視線を向けた。

チョコレートなどより、世界を揺るがす聖樹の方が大事に決まっている。そんな下らない話は、今は置いておけとひと睨み。

「いいえ? 聖樹は逃げませんよ。それよりーー」

「"それより"だと?」

「これが"お酒"なら、兄上だって……」

「あ゛ぁ?」

何を言われ様とお構いなしのシュゼル皇子は、ブツブツ文句を言ってフェリクス王に睨まれていた。

シュゼル皇子のベクトルは世界を揺るがす聖樹より、自分を揺るがしているチョコレートらしい。

莉奈と違った意味でマイペースである。

しかし、兄王に何度も叱責され諦めたのか、真面目な顔をしてこう言った。

「では陛下。この聖樹に鑑定通りの効力があるのかどうか確かめる為、"カカオ豆"を探す旅へ大至急向かって下さい」

ーーガシ。

「黙れ」

私欲の塊しかない提案を出したシュゼル皇子の顔面を、フェリクス王が鷲掴みにしていた。

もう、叩くだけでは怒りが収まらなかった様である。

「兄上、私は至極真面目に言っているのですよ?」

顔面を鷲掴みにされたシュゼル皇子はまだ言っていたが、フェリクス王の手が顔から腰の剣に動いた途端に、莉奈の後ろにササッと素早く隠れた。

「え!? ちょ、シュゼル殿下!?」

眉間に皺の寄った半ギレ状態のフェリクス王に、莉奈を差し出すシュゼル皇子。莉奈は逃げたくてもシュゼル皇子に押さえられ、どこにも行けない。

細腕に見えてシュゼル皇子は鍛えているのか、莉奈が動こうにもビクともしなかった。

ーーコレは生贄である。

「……」

莉奈はもう諦める事にした。

莉奈はガチギレ寸前のフェリクス王に、シュゼル皇子の代わりに差し出され動けないからだ。

フェリクス王がさらに睨めば、シュゼル皇子は莉奈を盾にしてほのほのと言う。

「いいですか、陛下。現時点で分かるのは、聖樹が魔物を寄せ付けない効力がある……かもという可能性だけです」

「……」

「【鑑定】は稀に誤表示する事もあります。なので、聖樹の効力が本物か否か確かめる必要があるのですよ?」

「で?」

「陛下。カカオ探しの旅に出て下さい」

冒頭に戻る……と言う訳だった。

フェリクス王には長弟の言葉が理解出来ず、目を眇めていた。

鑑定の正誤を確かめるのはともかく、何故、王である自分がどこかへ行く必要があるのか、まして弟の欲しがるカカオ豆を探しに、わざわざ行かなければならない理由とは。

「シュゼル殿下。この際カカオ豆の事は省いて、陛下にご説明をなさって下さい」

口を挟むのもと躊躇ったものの、このままではフェリクス王がマジギレするのは間違いない。横からタール長官が渋々、僭越ながらと言った感じで入った。

どちらが本題か分からないくらい、シュゼル皇子がすましてカカオ豆探しを提案するからややこしい事になるのだ。普通に話をして欲しいと、タール長官は終始苦笑いしていた。

「ん?」

省く必要はありますか? とタール長官に首を傾げて見せれば、タール長官は返事の代わりに肩を竦めて見せた。

仕方がないとばかりに盛大なため息を一つ吐き、シュゼル皇子は説明をし始めた。

「魔物を寄せ付けない効力があるか否か、兄上が 王城(ここ) にいらっしゃる限り分からないのですよ」

「あ゛ぁ?」

「"兄上"の存在そのものが"聖樹"みたいなモノなので、兄上がいらっしゃるとそれが"聖樹の力"なのか"兄上の存在"のおかげなのか、まったく分かりません」

「は?」

「兄上は頑なにお認めになりませんが、兄上の存在自体が魔物の脅威。聖樹と同等だとお考え下さい」

「んな訳ーー」

「「「あるんですよ」」」

あるかと紡ぐ予定だったフェリクス王の言葉を、シュゼル皇子だけでなくゲオルグ師団長、タール長官も切った。

フェリクス王は周りがどれだけ評価しようが、自分を卑下し過小評価している。

普通は魔物が寄り付かない人間などいない。むしろ、餌や敵と認識され寄せ付けるモノなのだ。なのに、たまたま出遭わないとか臆病な魔物が逃げ回っているだけ……と誤認識している節さえある。

信じたくないのか信じられないのか、自分がいかに規格外の能力の持ち主か全く認めない。

「……っ!」

エギエディルス皇子は、皆の言葉に身体が震えていた。

確かに兄であるフェリクス王といると、魔物が逃げ出す気がした。

だが、それはたまたま居合わせた魔物が、臆病なのだと思っていた。でも今、次兄達の話を聞いていると、臆病という理由だけでなく兄王の存在そのものが、魔物を寄せ付けないのだとエギエディルス皇子は初めて知ったのだ。

「兄上は……"聖王"だったのか」

「いやイヤいや、どう考えても"魔王"でしょ」

純粋なエギエディルス皇子は、兄が伝説の"聖王"だったのかと歓喜に震えていたが、その横で莉奈は思わずツッコミを入れていた。

莉奈に言わせれば、聖王ではなく魔王。いや、もはや魔王を通り越して"魔神"かもしれない。

ーーガシ。

莉奈の顔面が鷲掴みされたのは、言うまでもなかった。