作品タイトル不明
451 寝言注意
朝日が登り始めた頃、調べものをし終えたフェリクス王は一旦シュゼル皇子と共に、聖樹の所へと戻って来た。
聖樹は朝日を浴びているせいか、夜程の光を放ってはいない様に見える。
エギエディルス皇子は兄達が再び来るまでの間、暇だからとぼ〜っとしていたりせず、ゲオルグ師団長に剣の稽古をしてもらっていた。
頑張る末弟に温かい目を向けながら、莉奈を探せば……ガゼボにある長椅子でスヤスヤと寝ていた。
「「……」」
これには、フェリクス王も仮眠をとったシュゼル皇子も唖然である。
国どころか、世界を震撼させる様な事をやらかしておいて、当人はその重大性を全く理解していないのだ。
でなければ、こんな事をやった後、何事もなかった様に寝たりしないハズ。
傍にいたタール長官は、フェリクス王を見て会釈した後、苦笑いしていた。
フェリクス王が何を言いたいのか良く分かるのだろう。
「この強靭な 精神(メンタル) は、もはや称賛ものですね」
ひっそりと現れた執事長イベールが、呆れた声を出していた。
だが、その声色に感服している様な声が混じっている。ただの馬鹿という可能性も否定は出来ないが、ここまで来るとその強靭さを褒め称えるレベルになるらしかった。
「……チョ……レ」
皆に見られていると知らない莉奈は、むにゃむにゃと口を動かしていた。
「寝言」
鍛錬を止めたエギエディルス皇子が、莉奈の寝言に笑っていると、その寝言に何故かシュゼル皇子が目を光らせた。
「"チョレ"とは何ですか?」
フェリクス王達が呆れている中、むにゃと寝ている莉奈にゆっくり歩み寄り、その耳元にそっと質問を。
「チョコ……フォンデュ」
「"チョコフォンデュ"?」
「むにゃ……苺は……ホワイトチョコ」
「……っ! "ホワイトチョコ"とは!?」
「……ん」
「んではありません。リナ"ホワイトチョコ"とは!」
寝言に尋問までするシュゼル皇子の行動に、フェリクス王達は完全に呆れていた。
食い物の夢を見る莉奈も莉奈だが、その夢に尋問するシュゼル皇子もシュゼル皇子である。
「ルビー……むにゃ」
「ルビー? リナ、チョコレートはどうしましたか?」
「……」
「リナ?」
「……むにゃ」
「リナ〜」
再び寝入ってしまった莉奈の頬をツンツンとするシュゼル皇子。
だが、莉奈はむにゃむにゃ言うだけである。
「あぁぁ〜。チョコレート」
未知なる甘味の存在を口にしたまま、それに応えず寝る莉奈にシュゼル皇子は、嘆きの声が漏れてしまった。
「……チョ……コ?」
その嘆く声に反応したかの様に、莉奈は夢から現実に戻って来た。
目を擦りつつぼんやりと声のする方に顔を向ければ、目の前に美貌のシュゼル皇子。その背後に呆れ顔のフェリクス王が見え、さすがの莉奈でもバッチリと目が覚めた。
だが、目が覚めたら覚めたでシュゼル皇子の猛追が。
「リナ"ホワイトチョコ"とは!?」
「……ふぇ?」
「チョコレートには"ホワイト"なるモノがあるのですか?」
「……??」
「"チョコフォンデュ"なるモノは!?」
「……」
「リナ!」
「……」
「リナ〜!!」
目が覚めたばかりの莉奈は、何が何だか分からず唖然呆然である。
フェリクス王達がいつからいたのかも分からないが、シュゼル皇子が何故か興奮した様子でチョコレートの話をしている。しかし、寝ていた莉奈にはサッパリであった。
◇◇◇
「……ね、寝言??」
大抵は起きた瞬間に、夢の事など忘れるものだ。
莉奈も目が覚めた時に忘れていたし、むしろシュゼル皇子の顔がある衝撃が強過ぎて、自分がどういう状況なのかも混乱中である。
「リナ」
「はい?」
「チョコレートには、ホワイトとかチョコフォンデュとか色々あるのですね?」
「……ぇ?」
なんの話をしているのかな? シュゼル皇子は。
「ルビーなるモノも、チョコレートと関係があるのですか?」
ルビー? え、まさか……ルビーチョコの事?
「惚ける気ですか?」
いや、惚けているのではなく、まったく記憶にございません。
と言うか、本当に寝言を言っていたのかも半信半疑なんだけど。
「エド?」
「リナ、あなたは今、私と話をしているのですよ?」
エギエディルス皇子に助けを求めたら、シュゼル皇子に肩をガッチリとホールドされた。
逃す気など微塵もない様だ。莉奈には危機しかない。
「シュゼル」
「陛下。尋問の最中ですので、今暫くお静かに」
見兼ねたフェリクス王が間に入れば、シュゼル皇子はサラッと受け流した。
「「尋問」」
フェリクス王とエギエディルス皇子はシュゼル皇子の言動に、完全に呆れていた。
何が尋問なモノか。ただの私欲の権化である。
「リナ」
「いや、あの? 一体何の話を」
「リナが言っていたのですよ? "チョコフォンデュ"を作ると」
シュゼル皇子がそう真剣に言っている背後で、エギエディルス皇子が"ナイナイ"と手を左右に振っていた。
どうやら、何も知らない莉奈を誘導しようとしているらしい。
たぶん、"チョコフォンデュ"とはチョコレートフォンデュの事だとは思うけど、料理名か食材または冗談かも分からない 言葉(ねごと) を、シュゼル皇子は料理名だと直感で判断した様だ。恐ろしい。
シュゼル皇子に隠しているカカオ豆の存在が、夢に出るまで負担になっていたとは……莉奈はゾッとする。
しかし、どこまで口に漏らしたかまったく覚えていない。
チラッとエギエディルス皇子が視界に入り、彼の表情で寝言でそんなに詳しく言っていない様だなと、判断した莉奈。
なら、シュゼル皇子の口車にのったら負けだ。ここは気合いが必要だと腹に力を入れた。
ーーぎゅるる〜。
途端に莉奈のお腹が小さく鳴った。