軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

412 氷の魔術師?

厨房に戻ったら、揚げ物特有の匂いで充満していた。

ニンニク醤油だけでは圧倒的に足りないから、塩や塩ニンニク味も作った様である。

調子の悪い時にこの匂いはキツいけど、健康な時はお腹が減る。

「あ、リナ」

「ニンニク醤油のからあげ、大好評だったよ」

「って言うか、そもそもからあげが大好評なんだけどな」

からあげは皆の好物だから、新しい味のニンニク醤油味は真っ先になくなったそうだ。

分けた醤油も使い切ったとか。元々少なかったから仕方がない。

「リナ、本当にありがとうな」

漁師村育ちの料理人が少し涙目で、リナの手を取った。

「タコだけでなくカチ割りの実まで特産になれば、男達が無理して出稼ぎに行かなくても済むし、村が少しは潤うよ」

自分達がその日に食べるのが精一杯で、余裕がなかった。

だけど、タコや子供達が遊ぶだけのユショウ・ソイが売れれば、家の修繕や服など他にも回す事が出来ると喜んでいる様だった。

「え? でも海にも魔物がいるよね?」

「沖に行き過ぎなきゃ、陸ほど危険な魔物に出くわさないよ。それにウチみたいな漁師村育ちの人間は、万が一を考えて小さい頃から戦う術を教わるから、その辺の冒険者より強いんじゃないかな? 多分」

タコを獲りに海に入るのは平気なのかなと莉奈が訊けば、ダニーはそう言って笑っていた。

どうやら、漁師の村で育つ人達は男も女も関係なく、海の魔物や村を襲う魔物と戦うため、小さい頃から訓練を受けるらしい。

なので、外壁や兵に守ってもらっている大きな街より、小さな村の人達は、必然的に強くなるのだそうだ。

「なら、ダニーも冒険者より強いの?」

随分とヒョロッとしている様に見えるが、こう見えて彼も強いのかと莉奈は思ったのだ。

「いんや」

ダニーはあっけらかんとして、両手を挙げ笑って否定した。

「俺、魔物どころか虫も全然ダメ。だから、街で働き口を見つけるって村を早くに出て来たんだよ」

今は縁があって王宮で働かせてもらえてるけどな、とダニーは頭をポリポリと掻いていた。

両親は自分が王宮で働いている事を、未だに信じてくれないのだそうだ。

「あ〜虫か。私もダメだね〜。タランチュラのからあげなんて、絶対イヤだもん」

レタスに載ったタランチュラのからあげを、TVで観た時にはゾッとしたしね。

莉奈は、その光景を思い出して苦笑いしていた。

「「「"タランチュラのからあげ"」」」

莉奈の漏らした言葉を耳にして、身震いしながら反芻する料理人達。

莉奈は何故、庭とかにいる虫でなく、調理した虫を想像したんだ? と皆は目を丸くさせていた。

普通だったら、誰かが虫が苦手だと言っているのを聞いたら、調理した虫なんか絶対に想像しない。虫は食べるモノだという認識ではないからだ。

なのに、莉奈は何故か食べる事前提で会話をしている。

ーー何故、虫を食べようとする??

莉奈の感覚はどこかオカシイと、皆は顔を見合わせ笑うのであった。

◇◇◇

カチャカチャと莉奈がお酒を用意し始めれば、カクテルだと分かったのか、皆が手を止めて一斉にこっちを見た。

「カクテル作るのか!」

「陛下に頼まれたからね〜」

「グラスは何にする?」

「う〜ん。普通のグラスでいいかな?」

背の低いロックグラスでも、一般的な寸胴面長のオールドファッショングラスでもいい。

居酒屋ならジョッキとかもありだけど、王族に出すからチョッピリ配慮する。

莉奈の返事を聞くと、料理人達は棚からグラスを出し始めていた。

「カクテルと言えば、俺様の出番かな?」

氷魔法が得意になったトーマスが、鼻を得意気に鳴らしながら前に出て来た。

「別になくても大丈夫」

「リナー」

莉奈が間に合ってますと速攻で断れば、トーマスは泣きそうな顔をしていた。

ここは店ではないから氷でかさ増しする必要もないし、 魔法鞄(マジックバッグ) があるから、いつでもキンキンに冷えた状態な物を提供出来る。

まぁ、氷が入った方がカランと響く音は心地良いし、見た目はいいけど。

「はいはい。では、魔法省からスカウトされているトーマス君。カクテル用の氷を出してもらいましょうか?」

「ちぇっ、スカウトなんかされてねぇよ」

嫌味だなとトーマスは口を尖らせつつ、いつも通りステンレスバットに大量の氷を出してくれた。

「ありがとう。トーマス」

と莉奈が素直にお礼を言えば、トーマスはヘラヘラと笑いながら自分の作業に戻って行った。

なんだかんだと莉奈が頼ってくれているのが、嬉しいらしい。

トーマスが氷を出してくれたので、その隣に莉奈は 魔法鞄(マジックバッグ) から寸胴をドスンと取り出した。

「え? リナ、その寸胴に入っているの何?」

「炭酸水」

「「「え? 炭酸水??」」」

どうせ皆も飲みたがるだろうと、フェリクス王は皆用に寸胴にたっぷりと入れてくれたのだ。瓶のは莉奈用。

ちなみにだけど、瓶や寸胴に炭酸水を汲んで用意したのは侍女達である。

「炭酸水って何?」

「炭酸ガスが溶けた水」

「えっと……それって飲んでも大丈夫なの?」

「心配なら飲まなければいい」

「「「……」」」

莉奈にサラッとそう言われた皆は、確かにとウグッと漏らし押し黙っていた。

どうせ作ればお酒の魔力に負けて飲むクセに……と莉奈は笑うのだった。