軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

392 莉奈は……。

「結局、ラッシーって何なんだ?」

人の名前ではない事は分かったが、カクテルでもない。

ならば、何だとリック料理長だけが純粋な疑問の声を上げた。

「ヨーグルトドリンクだよ」

ざっくり言うと、それであっているハズ。

「ヨーグルトドリンク?」

「そう。カレーに良く合う飲み物」

「カレーに合う飲み物か」

カレーを頼むと、お店によってはたまにサービスでくれたりする。

粉末状のラッシーの素も売っていたけど、それはラッシーではなくてラッシー風の別の飲み物的な味がした。

だから、莉奈はカレーの時は自分で作る事にしている。

「ラッシーは簡単に出来るよ」

莉奈は説明しながら、まずは混ぜるためのボウルを用意する。

「分量は好みだけど、ヨーグルト1、牛乳1.5で作る。そこにハチミツや砂糖を入れて混ぜる……で」

「で?」

「氷が欲しい」

「うっわ、出たよ。俺、もしかしなくてもリナ専用の製氷機だよ」

氷の魔法を使える数少ない料理人が、自分で口にした"リナ専用"という言葉に満更でもなさそうな表情をしていた。

冷蔵庫や冷凍庫があるのに、莉奈は手っ取り早いとすぐ魔法を使う。おかげで鍛えられているけど、内心複雑だ。

細かい氷が欲しいと言われ、バットの上に渋々という表情で氷を作りながら料理人はチラチラと莉奈を見る。

「俺さぁ、最近気付いたんだけど。リナが俺に氷、氷って言うから作り続けてたら、なんか知らない間に魔力が上がったんだよね? しかも、話しながら魔法を使える 技能(スキル) まで付いたし、アレ? 俺、天才じゃね? ひょっとして魔法省で働けんじゃね? って思うんだけど……どう?」

「どうって、行きたきゃ行けばイイんじゃない?」

そんな苦情や自慢話に興味がない莉奈は、料理人の話をバッサリと切り刻んだ。

魔法省に入りたかったら、転属を希望すればイイのでは? と純粋に思うからだ。

「……」

料理人は、莉奈に自分の凄さをアピールしたつもりだったが、微塵も響かず撃沈だ。

莉奈に、ちょっとでも凄いなと褒めて欲しかったのに、結果ダメージを受けるハメになったのだ。

「リナ……ちょっと褒めてあげて」

「え?」

「褒めると伸びる子だから」

哀れに思った料理人達が、莉奈に優しい言葉を掛ける様にお願いした。

気になる子(莉奈) に、ここまで見向きもされないのは不憫すぎる。

皆に視線で促され、渋々頷いた。

確かにいつもお世話になっているなと、氷を作ってくれるトーマスに向き直る。

そして、莉奈は項垂れているトーマスの右手を握ると、シュゼル皇子を見習い、小首を傾げ渾身の笑顔を作りお礼を言ったのだ。

「いつもありがとう。トーマス」

「ブホッ!」

その瞬間、トーマスの顔はトマトの様に真っ赤になり固まった。

最近特に可愛くなってきた莉奈の笑顔に、撃沈したのである。

「「リナ、やり過ぎ」」

食堂からカウンター越しに覗いていたラナ女官長と侍女のモニカが、なんとも言えない表情で言った。

お礼を言うのはイイけど、誰もそこまでやれとは言っていない。

莉奈は案外、無自覚のタラシなのかもしれないと、ラナ女官長達は思ったのであった。

◇◇◇

皆の複雑そうな視線など、気にもしない莉奈は細かい氷をグラスに入れて、出来たばかりのラッシーを注いだ。

こうなったら、ついでだともう1種類作る事にする。

「まだ、何か作るのか!?」

莉奈はスイッチが一旦入ると、極端だよなとリック料理長は驚く。

エギエディルス皇子の番のお祝いの時も、色々と作っていたし、莉奈のヤル気スイッチはどこにあるのだろう。

そう思いながら、莉奈の作業に魅入っていたのだ。

「バナナラッシーも作ろうと思う」

「「「バナナラッシー」」」

ラッシー自体を飲んだ事もないのに、皆の喉がゴクリと動いていた。

「さっきのラッシーに、濾したバナナを混ぜるだけ」

本当はバナナは凍らせて、ミキサーで混ぜるのがベストだけど、ミキサーがない。莉奈はバナナをザルで適当に濾す事にする。

莉奈的には半解凍くらいで、シェイクにして飲むのが1番美味しいと思う。

「他の果物で作るなら、砂糖水で煮た"コンポート"っていう果物を濾して混ぜると美味しいよ」

それがないから、すぐに出来るバナナで作ったけど。

家で作るなら果物の缶詰を入れて、ミキサーで混ぜれば簡単に出来る。でも、この世界に缶詰なんかないから、コンポートを作るしかないだろう。

「コンポート? ジャムと違うのか?」

「ジャムは砂糖で煮るけど、コンポートは砂糖水で煮る。後は、ジャムみたいに果物の形を崩さないかな?」

「なるほど」

熱心に訊くリック料理長に、莉奈は簡単に説明した。

背後でマテウス副料理長も、なるほどと聞いている。砂糖も貰える事だし、試してみるに違いない。

「ちなみに、その果物を煮た後の砂糖水は、砂糖代わりに調味料として使ってもいいし、紅茶に入れても美味しい」

「それは、無駄がなくていいな」

「まぁ、皆が1番好きそうなのは……」

「「「好きそうなのは?」」」

「お酒に入れて飲む事」

「お酒!! ふぅ〜!!」

「カクテルか」

「酒だ、酒!!」

莉奈がお酒と言った途端に、厨房の熱気が一気に上がった。

まぁ、それが合うのは"ホワイトリカー"や焼酎である。"ブラウンリカー"と呼ばれるウイスキーやブランデーがあるくらいだから、ホワイトリカーはありそうな気がする。

だけど、莉奈の記憶が確かならば、現時点で酒倉になかったハズ。だから、自分達で色々試して合うのを見つければ良いだろう。

「リックさん。後で砂糖をあげるついでに、コンポートの作り方を教えるから、作ってみたら?」

だって、奥さんのラナ女官長の瞳もキラキラしているし、皆も騒ぎ出したし作らないという選択肢はない。

「そうだな」

私も飲みたいし、とリック料理長は顎をひと撫でしていた。