作品タイトル不明
387 莉奈はエノキ茸? を手に入れた
サクッと作ったカラメルを、氷水で軽く冷やして粗熱をとり、カボチャプリン用と濃厚プリン用で、別々のミルクピッチャーに移しておく。
濃厚プリンは念のためにフライパンを揺らし、くっついていないか確かめた。フッ素樹脂加工のフライパンではないが、揺らすと動いたので余りくっつかずに出来た様だ。
なので、大皿をフライパンに被せた後、ダイナミックにひっくり返すとチーズケーキのように濃厚なプリンが出来上がりだ。
これは、揺らしてもプルンとはならない。ケーキみたいにナイフで取り分けられるくらいに、濃厚なのである。
「ナイフで切り分けられるんだな」
リック料理長が横で興味深げに見ていた。
莉奈がナイフで切っても、まったく崩れないのだ。
「それくらい濃厚って事、カボチャのプリンは器ごと食べられるよ」
そのために、皮は丁寧に洗って固い部分は少し削いで、柔らかく蒸しておいたのだ。
まぁ、外側の皮は無理して食べる必要はないけれど。
「ダイナミックなプリンだな」
マテウス副料理長も背後から見ていた。
負けたから目は死んでるけど。
「リックさんと、マテウスさんもあっちで、ラナ達と一緒に味見しなよ」
「「え!?」」
莉奈がラナ女官長達の席に2人を促せば、リック料理長とマテウス副料理長は一瞬驚き、すぐに口が緩んでいた。
「その代わり砂糖あげるから、ハチミツをくれた侍女達にプリンを作ってあげて。練習にもなると思うよ? だから、2つのプリンがどんなモノか、ラナ達と一緒にどうぞ」
まぁ、実際には味見なんか必要ないけどね。
だって、このプリンの作り方に難しい事はないから、2人は味見なんかしなくてもすぐに作れるハズ。
でも、味を知らないより知っていた方がいいだろう。
ついでに復習と練習も兼ねて、ハチミツをくれた侍女達に作ってあげたらいいと、莉奈は提案する。
リック料理長とマテウス副料理長は顔を見合わせ、喜んでいた。
いた……が、負けたチームからは剣呑な視線が向けられる。
リック料理長は、砂糖やハチミツをくれたラナ女官長の旦那様なので許す。だが、マテウス副料理長がよそ見をして負けたのだ。銀海宮チームから、ものスゴい視線が突き刺さっていた。
マテウス副料理長は、その異様な視線に気付き莉奈の背に隠れた。
まぁ、確かにズルいかもしれないなと、思った莉奈は皆に提案する。
「ビーズ・キッスのカクテルをあげなきゃイイんじゃない?」
「なっ」
ハチミツを貰ってから厨房の皆に作る予定だったので、まだ作ってないし飲んでない。なら、マテウス副料理長は、そちらを飲めなくすれば相殺で良いかなと。
莉奈がそう提案すれば、背後から絶句する声が聞こえた。
しかし、負けたチームの溜飲は下がった。
「……」
背後にいたマテウス副料理長は何か言いたげだったけど、皆の雰囲気を読み反論を諦め、すごすごと食堂に向かった。ハチミツくらい自分で用意して作ればいいかなと、考えた様だ。
「あ」
「「「……っ」」」
莉奈の"あ"で、リック料理長達がビクリとしていた。
プリンの前に何があるのかと構える。
「お酒で思い出したけど……さっき、苺ワインとククベリーワインを作ったから、ラナ、モニカ。夕食時に侍女達皆で飲んでみて?」
砂糖とハチミツのお礼だと伝えた。
たぶん、夕食時までには出来ていると思う。忘れない内に伝えておかないと、飲む前に傷んじゃうからね。
「苺ワイン!!」
「ククベリーワイン!! 何ソレ!?」
ラナ女官長とモニカがさらに嬉しそうな表情をしていた。
プリンだけじゃないのかと。
「フレーバードワインだよ」
「「フレーバードワイン!!」」
2人とも、実に嬉しそうに顔を見合わせていた。
甘味もお酒もイケる口だなんて、実に羨ましい。
「んじゃ、ワインは夕食の楽しみに、まずはカボチャーー」
プリンをテーブルに並べ、リック料理長達に勧めようと促した瞬間、キラッと可愛い瞳をしたエギエディルス皇子と目がバチリと合った。
誰かに用でもあるのか、食堂の出入り口にいたのだ。
「なんだ、それ!!」
プリンにロックオンしたエギエディルス皇子は、足早に歩み寄って来た。
こういう時に走らないのが、莉奈と皇子の違いだろう。
「新作のプリンだよ。シュゼル殿下はまだ陛下の執務室にいるの?」
「いるよ」
「なら、皆でオヤツにしようか?」
「する!!」
ちょうど15時くらいの時間だ。オヤツにはもってこいだ。
フェリクス王向けには、とりあえず何か 魔法鞄(マジックバッグ) に入っている食べ物でいいかなと考えた。食べるかも分からないし、今から作るのは時間がかかるし、待ってるエギエディルス皇子が可哀想だもん。
ラナ女官長達に2種類のプリンを出し、莉奈は食堂を後にした。
「エド、なんか用があったんじゃないの?」
誰かに用があって来たハズなのに、自分に付いて来るから笑ってしまった。
「あ? あぁ、お前に用があっただけだし」
「私に?」
エギエディルス皇子は 魔法鞄(マジックバッグ) をゴソゴソとあさっていた。
何か渡す物でもあるのかなと、莉奈が注目していると、エギエディルス皇子は最近見た物に似た何かを取り出した。
「お前にコレをやろうと思ってな」
「なんだコレ?」
エギエディルス皇子が取り出して見せたのは、手の平くらいの大きさのエノキ茸であった。
いや、正確にはエノキ茸みたいなモノであって、エノキではない。
「なんだと思う?」
エギエディルス皇子が意味深に笑った。
莉奈はなんだろうと思いながら、受け取り角度を変え質感を見て、なんか似たようなモノを見た事があると感じた。
「あ、え? これって、まさか脱皮!?」
そうなのだ。
質感は、フェリクス王から貰った首のトゲの脱皮の皮に似ていたのだ。だから、コレも脱皮の皮なのだろう。
ただ、どの部分か分からない。
「良く分かったな。それ、昨日屋上に転がってたから持って来た」
「え? いいの!? だって、エドの竜のでしょう? エドが貰った方が」
屋上と言うのだから、エギエディルス皇子の番の竜に違いない。
しかし、くれるのはものスゴく嬉しいけど、さすがの莉奈も遠慮していた。
成長が早い竜は、個体により半年程で成体になると聞いた覚えがある。
竜騎士団の竜は勿論成体だし、莉奈の竜も成体だ。なら、幼い頃の脱皮の皮なんて希少だろう。
なら、番であるエギエディルス皇子が持っていた方がと、莉奈は思ったのである。
「脱皮の皮なんかいらねぇよ」
念願の竜とはいえ、脱皮の皮を部屋に飾りたいとは思わない。
それに、1つくらいあげてもエギエディルス皇子の竜は幼体なので、まだまだ脱皮を繰り返す。手にも入り易いのだ。
コレを上手く加工して武具にしてもいいが、エギエディルス皇子自身はさほど興味はなかったので、莉奈にあげたいなと考えたのだ。
「えぇ〜貴重なのに」
「お前、ちなみにこの皮、どこの部分だか分かってるのかよ?」
「え? どこだろう?」
エギエディルス皇子にそんな事を言われ、こんなエノキ茸みたいなモノの部位が竜にあったかな? と莉奈は首を傾げた。
首のトゲは、仔竜だろうと成体だろうとフェリクス王がくれたみたいな、三角コーンの形をしているハズ。でも、身体のなら鱗の模様が出ると思う。
良く見たら、キノコの傘の部分の天辺はポッコリと凹んでいて、真ん中に穴が空いている。柄の部分の中は筒みたいに空洞なので、覗くと向こう側にエギエディルス皇子が見えた。
エノキえのきエノキ……まったく分からない。
莉奈の悩んでいる様子に、エギエディルス皇子は小さく笑っていた。
そのエノキ茸モドキの穴から莉奈は覗き、反対側に見えるエギエディルス皇子にどこの部分だと問う。
「"鼻"だよ」
「鼻ぁ〜!?」
莉奈は予想もしていなかった答えに驚愕した。
そして、答えを聞いてもまったく想像出来なかった。鼻の脱皮が何故、エノキ茸みたいなのか。
それを見越した様にエギエディルス皇子が説明してくれた。
「丸い頭の部分が鼻の穴の先、細長い部分が鼻の穴の中の部分になるんだよ」
「えぇぇぇぇーーっ!? 鼻の中も脱皮すんの!?」
外皮オンリーだと思っていた莉奈は、驚きを隠せなかった。
なるほど、だから空洞なのか。
……という事は、莉奈が持っているエノキ茸の柄の部分は、鼻の穴に入っていたモノである。
「するんだよ。面白いだろ?」
「エノキみたいで面白い」
でも、なんか汚いなと微妙な表情をしてしまった。
「微妙な顔すんな。ちゃんと浄化魔法を掛けてある」
莉奈が何を考えていたのか分かったのか、エギエディルス皇子は部位が部位だから、しっかり"浄化魔法"を掛けておいたと笑っていた。
「エノキくれるの?」
と莉奈が、鼻の穴の脱皮の皮をクルクルと回せば、エギエディルス皇子は複雑な表情をしていた。
「エノキ……お前なぁエノキエノキって言うなよ。俺まで、もうデカいエノキにしか見えなくなるだろ」
莉奈がエノキエノキと言うから、脱皮の皮なのにエギエディルス皇子も、もはやエノキ茸にしか見えなくなってしまったのであった。