作品タイトル不明
386 勝敗の行方
「お前がよそ見なんかしてるから!!」
「え〜? マテウスさんもよそ見してたじゃん」
「俺はちゃんとやってたさ」
「リナばっか見てたよ〜」
「リナじゃない、プリンだ!!」
「ほら、見てた〜」
「なっ!」
「「「2人の責任だよ!!」」」
マテウス副料理長とリリアンが揉めていたら、同じチームの人達からブーイングが起きていた。
どうやら、よそ見しまくりの銀海宮チームは負けたらしい。
勝ったのは魔法省の黒狼宮チームだった。隅の方で大人しめにハイタッチしている。
「はいは〜い。最下位チームは玉ねぎスライスを焦げ茶色になるまで炒めてね〜」
莉奈はニッコリ笑って罰ゲームのお知らせをした。
今更、何を言おうと負けは負け。最下位は、地獄の玉ねぎ炒めが待っているのだ。
「げっ、そうだった」
「俺、前回も負けて玉ねぎ炒めた気がするんだけど」
「楽に炒められる方法ないのかな?」
「あれば、面倒くさがりのリナがやってんじゃね?」
「「「だよねぇ」」」
負けた皆は諦め、ブツブツと言いながら玉ねぎを炒める作業に入った。
最後の言葉は少し失礼な気がするけど、確かに面倒くさいから楽な方法があればイイよね。
電子レンジとか、炒める機械があったら便利だけど、さすがにないみたいだし。
「うわ」
玉ねぎを炒める前に、ニンニクとホースラディッシュを入れて貰おうと声を掛けようとしたら、負けたチームがスープを作る巨大な鍋に玉ねぎスライスをドバドバと全部突っ込んでいた。
軍部から、1つ貰ったというあのスープ鍋である。
確かに、小さなフライパンで皆でやる必要はない。一気に何百人分も作れる巨大鍋があるのだから、それでやれば簡単に出来る。それは非常に便利かもしれない。
だけど、それで玉ねぎスライスを炒めるのはどうなんだろう? と微妙な表情をしてしまった。
これが機械でやる工場なら全然アリだ。時間が掛かっても疲れないから。
だって、それは鍋が大きいだけで自動ではなく人力。飴色玉ねぎって、玉ねぎの水分を炒めて飛ばし、凝縮させたモノだと思う。
大鍋にあんな大量の玉ねぎを入れたら、玉ねぎ同士が重なって水分が蒸発するのに時間が掛かる気が……。
結果的に小分けで、皆でやった方が早い気がするし、大きなヘラでずっと炒めるのは苦痛ではないのかな。
まぁ、順番を決めて交代で炒めるのだろうけど、かなりの重労働だなと、他人事なので莉奈は笑っていた。
「リナ、リナ! プリン」
「まだまだ、時間が掛かるよ。夕食の時間くらいには出来るから、楽しみに待っててよ」
勝った黒狼宮チームが、キラキラとした瞳で寄って来た。
ご褒美のプリンが待ち遠しい様で、莉奈は苦笑いを返す。
プリンはまだ、蒸してる最中だからね。そこから、粗熱をとってから冷蔵庫で冷やすのだ。
手っ取り早く魔法で冷やすのもアリなんだろうけど、加減を間違えて凍ったら食感が絶対に変わると思う。プリンアイスになってしまうよ。
それでは目的が違うので、お待ち下さいと皆に伝えた。
「「「了解〜!」」」
貰えると分かった黒狼宮チームは大人しく引き下がり、ゾロゾロと昼食を食べに来た王宮の人達に、昼食を出すのであった。
プリンは両方とも冷やすだけとなり、リック料理長に粗熱が取れたら冷蔵庫に入れておいてとお願いしておく。
「さて、玉ねぎが炒まるまで時間が掛かるから、ちょっと一休みしよ」
莉奈は 魔法鞄(マジックバッグ) の中から枕を取り出し、よいしょとスライムのゴミ箱の上に乗った。
昨夜は、初めて竜に乗れたのではしゃぎ過ぎて、眠かったのだ。
この厨房の忙しい時間の喧騒な感じの空気感は、何も考えずに済むから安心する。
目を瞑るとすぐに眠気が落ちて来た。
「だから、何故、ゴミ箱の上で寝る」
「蓋が割れたらどうすんだよ」
「騒がしい厨房でよく寝られるな」
「とうとう枕持参かよ」
「うっわぁ〜。その内にベッドを持って来るんじゃないの?」
「いえてる〜」
「「「てか、マジ寝してるし!!」」」
スヤスヤと寝息まで聞こえるから、料理人達が呆れ返るのであった。
◇◇◇
昼の忙しい時間が過ぎて厨房が一旦落ち着く頃、玉ねぎは綺麗な焦げ茶色になっていた。
大鍋で交代しながら炒めていたため、意外と疲れず楽しかったらしい。ただ、1人がサボってしまうと全部焦げちゃうから、リリアンにやらせる時は監視していた様だ。
「綺麗に出来たね」
のんびりと起きて来た莉奈は、早速大鍋を覗いた。
あんなに大量にあった玉ねぎが、半分もない。1人では無理な作業である。
「やっと起きたのかよ」
近くにいた料理人が笑っていた。
「ちょっと寝足りないけど、起きない訳にはいかないからね」
「寝足りないのかよ」
1時間以上も寝れば充分だろうと、料理人達は苦笑いしていた。
「それをどうするんだ?」
リック料理長が興味津々に莉奈の隣に来た。
炒めた玉ねぎをどうすると、カレーとやらになるのかまったく想像が付かない。
「 香辛料(スパイス) と炒めるんだけどーー」
「だけど?」
「プリンを食べよう」
だって、ちょうどいい感じに冷えただろうし。
莉奈がそう言うと、勝ち組達は莉奈の方に勢いよく顔をグルリと向けた。
やっと、ご褒美だとワクワクしていたのだ。
「上にかけるカラメルを作るから、ちょっと待っーー」
なんとなくカウンターを見たら、ラナ女官長と目がパチリと合った。
ものスゴいタイミングで、侍女のモニカと一緒に来たなと莉奈は苦笑が漏れた。
「カラメル」
「プリン」
どこから聞いていたのか、ラナ女官長とモニカがニッコリ微笑んでいた。
笑顔って怖いよね?
「どうしたの?」
莉奈はとりあえず、プリンの事は無視した。
なんだか、一悶着ありそうな予感しかない。
「ローヤルゼリーとハチミツを買って来たのよ」
「ついでに、侍女達と相談して出し合ったお金で砂糖もね」
ラナ女官長とモニカが、カウンターの上にローヤルゼリーの入った瓶と、ハチミツの入った瓶の木箱をドンと置いた。
その横に、砂糖の入った大きな瓶も。
そう言えば、探して買って来ると言っていたなと、莉奈は思い出す。
「"美容液"忘れてなかったんだ」
「「忘れる訳がないでしょう!?」」
莉奈が笑って言えば、2人に鼻息荒く返されてしまった。
それもそうか。あんなに張り切っていたのだから。
「こっちのハチミツは、例のカクテル用で皆の分もあげるわよ。こっちのハチミツとローヤルゼリーと砂糖はリナの分」
「ポーションも買って来たわ」
「スゴいね」
ラナ女官長とモニカが仕分けして、莉奈に差し出した。
想像以上に量がある。砂糖はともかくとして、あまり市場に出ないローヤルゼリーは買い占めたのかもしれない。
「これで、美容液は女性の分は出来るわよね?」
「……う、うん」
圧が強いラナ女官長に、若干引きながら莉奈は頷いた。
そもそも、ポーションに対してローヤルゼリーは微量だ。パッと見ただけでも問題ないくらいに量はあるだろう。
「で? プリンって何かしら?」
とラナ女官長。
話のすげ替えは上手くいかなかった様だ。
バレてしまっては仕方がない。莉奈は苦笑しながら説明する。
「さっき、カボチャプリンと濃厚プリンを作ったんだよ」
「カボチャプリン!!」
「濃厚プリン!!」
「ローヤルゼリーや砂糖、ハチミツも貰った事だし分けてあげる。そこのテーブルに座って待っててよ。今、取り分けるから」
「「やったぁ!!」」
莉奈は厨房の出入り口に近いテーブルで待つ様に勧めた。
昼食後なので、今食堂には誰もいない。
ハチミツを貰う予定の料理人達は、さすがに関係ないとは言えず、席に座る2人を恨めしそうに見ていた。