作品タイトル不明
385 カボチャのプリンと濃厚プリン
「とにかく、カボチャを蒸している間に、プリン液を作ろうと思う」
濃厚プリンとカボチャプリン用のプリン液だ。
玉ねぎスライスの勝負中なのに、チラチラと見ているリリアンの視線に気付いた。
自分の番が終わったならともかく、まだなら随分と余裕である。
「カボチャプリンは、ノーマルのプリン液で作るからリックさんお願いします」
「分かった」
久々だし、復習も兼ねてリック料理長にお願いした。
お菓子のレパートリーが増えても、砂糖は相変わらず高価なままだ。自分の給料で買うのもありだが、それでも練習になる程、頻繁には作れない。
砂糖が自由に使える莉奈と作るのは良い機会だった。
「で、濃厚プリンのプリン液は、ノーマルプリンの材料の半分を生クリームと卵黄に変えるだけ」
ざっくり説明すると、普段入れる牛乳300c cの半量を生クリームにし、全卵のところを半分卵黄に変えるだけだ。
何の料理でもそうだけど、このプリンのレシピも一例に過ぎない。自分の好みにあった作り方が一番だと思う。
「ちなみに、プリンも種類が豊富にあるよ。今は作れないけど、抹茶や胡麻、珈琲とか。作り方も焼いたり蒸したり。口当たりもなめらかだったり、こってり濃厚だったり、とろける系だったり」
味については今は、わざと作れない味を口にした。
紅茶やキャラメル味なんて言ったら、すぐに作れると分かるから、皆の視線や圧が怖い。
「プリンも奥が深いんだな」
莉奈が色々な種類があると教えれば、リック料理長が感嘆していた。
遠くで見ているリリアンは、ワクワクしている瞳をしていたけど。
「あ、そうだリックさん。後で砂糖を分けてあげるから、マテウスさんと色々と試してみたらイイよ?」
「え?」
「人に教わるのも大事だけど、自分で試すのも大事でしょう? だから、いつも熱心な2人に少し分けてあげる」
自分で作り出す楽しさもあると知っている莉奈は、研究熱心なリック料理長とマテウス副料理長に砂糖を分けてあげる事にした。
リリアンにあげたら無駄しかないけど、この2人にならあげても無駄にはならないだろう。
練習するには砂糖は高価過ぎて、食料庫のは勝手に使えないからね。
その点、莉奈は自由に使用出来る許可はあるし、他の宮から奪っ……好意で頂いた砂糖が大量にある。
「「マジか!!」」
途端に、リック料理長とマテウス副料理長が驚愕し、嬉しそうな声を上げていた。
お菓子作りも復習や練習もしたかったが、先立つモノがなく練習出来なかったのだ。莉奈に貰えるとなり、練習が出来ると興奮していた。
莉奈は、普段そんな言葉遣いをしないリック料理長が、マジかなんて言うからつい笑ってしまった。
余程、嬉しかったのだろう。
「ま、今はそんな事より、プリンを食べられる事を祈りなよ。マテウスさん」
「そうだな」
莉奈にそう言われ、気合いを入れたマテウス副料理長。
玉ねぎスライスの勝負は、中々のデッドヒートを繰り広げている。完成品を食べられなければ、練習しようが正解が分からないだろう。
「コッチのプリン液も混ぜた卵液に、砂糖を溶かした牛乳と生クリームを入れるだけなんだけど。ちなみに、リックさん。プリン液は最後に布巾で漉すと、舌触りがなめらかになるよ」
「なるほど。ザルじゃなくて布巾か」
莉奈は、自分の作っているプリン液を布巾で漉しながら、リック料理長にも説明した。
家で作るならキッチンペーパーでも構わないけど、ないから布巾である。面倒だけど、このひと手間を加えるだけで、舌触りに差が出るので仕方がない。
食べるのは自分だけじゃないし、シュゼル皇子やエギエディルス皇子に献上するからね。なるべく完璧に仕上げて口にさせたい。
「んで、こっちの濃厚プリン液は、フライパンに入れてオーブンで湯煎焼きにする」
「え? フライパンに?」
「そう、フライパン」
莉奈が出来たプリン液をフライパンに注げば、リック料理長は小分けにしないのかと驚いていた。
1つ1つグラスに入れてもイイけど、カボチャプリン同様に豪快に作りたかったのだ。
「オーブンに入れるんだけど、入れる前に鉄板にいらない紙を敷く。その上にお風呂のお湯だとかなり熱め、だけど熱湯ではないお湯を注ぐ、そこへフライパンを載せて湯煎焼きにする」
「なるほど、人肌よりはかなり熱め、だけど熱湯じゃダメって事だな? 紙は何で敷くんだ?」
「下から入る熱を柔らかくするため」
直接より、油紙とかシートを敷くと間接的になり、火の通りが柔らかくなるらしい。
莉奈は、記憶を頼りに説明した。
「柔らかく……なるほど。湯煎焼きにするためにお湯か。熱湯だと熱が急に入り過ぎるし、水だとゆっくりでムラが出来るんだな?」
「だね」
莉奈の説明でなんとなく理解したリック料理長は、顎をひと撫でして頷いていた。
「あまり熱めのお湯を注ぐと、気泡が出来て見た目も悪いし舌触りが悪くなるんだよ」
「ふむ」
プツプツと気泡が入ったプリンになってしまうのだ。
茶碗蒸しもそうだけど、そうなると食感が非常に悪い。
リック料理長は真剣に聞き、鉄板に入っていたお湯に指を突っ込んで、体感として温度を覚えさせていた。
温度計で計るのも大事だけど、体で覚えるのも大事だと知っている。
「そっちのプリン液には、蒸したカボチャをくり抜いて中身を入れるんだけど、その前に一回程度ザルで漉す」
「なるほど、カボチャは繊維が多いからな」
そう言って莉奈が、ちょうど蒸し上がったカボチャを鍋から取り出し、中身をスプーンでくり抜き始めれば、リック料理長も同じようにやり始める。
皮がもの凄く熱いので布巾で押さえないと、触れない。だけど、アツアツの内にやらないと、身が取りにくくなるしザルで漉せない。
なめらかな舌触りを追求するなら、3回は漉した方が良い。
「カボチャの粗熱がとれたらプリン液に混ぜて、さっきくり抜いたカボチャに戻す。で、コッチは蒸して冷やせば出来上がり」
「コッチは蒸しプリンか。カボチャのプリンはどんな味がするのか、楽しみだな」
蒸し器代わりの鍋に入れたリック料理長が、子供みたいにワクワクした様な表情をさせていた。
仕事なのに、料理作りが楽しそうで何よりである。
「そういえば、カラメルは入れなかったな」
蒸し器に入れたリック料理長が、ハッとした。
以前莉奈が作ったプリンには、もれなく砂糖で作ったカラメルが付いていたハズだ。それに気付いたリック料理長が、莉奈をチラッと見た。
「後がけ」
と莉奈が片付けながら言えば「なるほど」と、リック料理長が手伝いながら笑った。莉奈が忘れる訳ないかと。
「「「よっしゃあぁぁーーっ!!」」」
こちらの片付けがちょうど終わった頃、玉ねぎスライスの競争をしていた3チームの勝敗が決まった様だ。
さて、どこのチームが勝ったのやら。