軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

381 ククベリーワインと苺ワイン

ーーそれから、十数分後。

莉奈は、当初の目的だったいつもの厨房に来ていた。

シュゼル皇子は莉奈が腹を鳴らした事と、蛆虫チーズの話で串団子の事はとりあえず、頭から吹き飛んだらしい。

いや、一先ず置いてくれただけかもしれないが。

とにかく、莉奈が朝食をまだ食べていないと聞き、解放してくれたのであった。

「おはよう、リナ」

「やっほぉ〜リナ」

厨房に顔を見せると、皆が元気に挨拶をしてくれた。

最近は、ここに来るとホッとする。いつもの人達がイヤな顔一つ見せないで笑顔で迎えてくれる。それが、本当に嬉しい。

「何作るの?」

「カクテルか?」

「カクテルだな!?」

厨房に入るなり莉奈が果物やお酒を用意し始めたので、料理人達がチラッと覗き込んだ。

お酒を出せばカクテルカクテルと……それは、もはや願望だよね。

「カクテルじゃないよ。ラナ達がハチミツを買って来てくれるって言ってたから、お礼に簡単な飲み物でも作ってあげようかと」

「ほとんど、私欲のためなのに優しいな」

それを聞いていたリック料理長が苦笑いしていた。

ラナ女官長達は美容液に必要なローヤルゼリーのついでに、ハチミツを買って来るだけであって、莉奈のためではないのだ。

なのに、お礼を考える莉奈は優しいとリック料理長は思ったのだ。

「ラナには色々お世話になっているしね」

莉奈は平たいバットに、ククベリーやブラックベリーを並べていた。

ラナは、コチラのお母さんみたいな存在で傍にいてくれるだけで、なんだか温かい気持ちになれる。

「氷の魔法を使える人〜」

「もはや、氷魔法は調理の定番だな」

莉奈が挙手を求めれば、笑いながら1人の料理人がやって来た。

魔石を使った調理機材はあるけれど、魔法を料理に使うなんて発想、莉奈が来なかったら考えもしなかった。

「果物を凍らせてどうすんだ?」

「ククベリーワインと苺ワインを作ろうかなと」

簡単だし、見た目も可愛いから喜んでくれるだろう。

莉奈はバタバタと棚を開け、入れ物を探した。

「ククベリーワイン」

「苺ワイン」

女性の瞳がキラキラしていた。

なんとなくオシャレに聞こえるし、お酒だからだろう。

「何探してんだ?」

あちこちの棚を開けている莉奈に、マテウス副料理長が訊いた。

「ん? なんかワインを入れる入れ物が欲しいなと」

グラスではなく、まるっと1瓶分入りそうな入れ物。

莉奈がそう伝えると、マテウス副料理長が奥の棚から何かを持って来てくれた。

「コレならいいんじゃないか?」

「あ! ちょうど良い」

お礼を言って受け取った莉奈。

マテウス副料理長が持って来てくれたのは、底が潰れた大きな丸型フラスコみたいなガラスの瓶だった。

「この入れ物って、何に使うの?」

初めて見る形の瓶に、莉奈は不思議な顔をしていた。

紅茶はこんな形の瓶に入れないし、入れるなら絶対にお酒っぽい。

「え? "デキャンタ"だよ。リナ知らないの?」

「え? 知らないよ?」

当然の様に言ってきたので、莉奈はキョトンとしてしまった。

マテウス副料理長は、莉奈の事だから絶対に知っていると思ったようで、驚いていた。

「ワインを入れる瓶だよ」

「ワイン?」

「熟成したワインは、1度このデキャンタに移してから飲むんだよ」

「ん? なんで?」

「マジで知らないんだな。熟成したワインは濁りや澱とか雑味があるから、コレに一時入れて不純物を沈殿させてから、上澄みの美味しい部分だけを注ぐんだ」

「ふぅん?」

莉奈が本気で知らないと分かると、マテウス副料理長が詳しく教えてくれた。

熟成ワインは澱とか雑味がある。どうやらソレを、除くために一旦このデキャンタに入れ、不純物を沈殿させてからグラスに注ぐらしい。

自分達では使わないが、王族とか身分の高い人達には高いワインを提供するから、このデキャンタを使用するそうだ。

なら、家にある訳がない。

だって、沈殿させなくてはならない程、熟成の年数のある高級ワインなんてないからね。デキャンタなんて使わず、瓶から直接グラスに注いでいた。

「デキャンタなんてどうするんだ?」

リック料理長が興味しかない表情で見ていた。

「さっき、凍らせて貰った苺をデキャンタに入れて、その上から白ワインを注ぐ。後はコレを、5時間くらい冷蔵庫に入れて置くと苺ワインの出来上がり」

ククベリーはそんなに大きくないから、フォークで穴を開けて白ワインの瓶にポチャポチャッと入れればいい。

こちらも同じように、冷蔵庫にしばらく置いたら出来上がりである。1日漬けてもイイけど、いつまでも果物を入れっぱなしだと傷むから注意は必要だ。

凍った果物がゆっくりと溶けていく内に、自然に風味や香りが白ワインに移り、カクテルとはまた違った味わいのお酒になるのである。いわゆる果実酒。

「へぇ〜。面白いし可愛いな」

「ラナが喜びそうだ」

マテウス副料理長とリック料理長が、莉奈の手伝いをしながら楽しそうに言っていた。

「でも、凍らせたのはなんで?」

追加のデキャンタを持って来てくれた女性の料理人が、不思議そうに訊いた。

そのままではなく、何故凍らせる必要があったのか疑問の様だ。

「その方がたぶん、早く果汁が出る? しらんけど」

ゆっくり寝かせて作る果実酒も勿論あるが、何ヶ月何年も待ってられない。だから、コレは簡単で時短な作り方。

想像だけど、凍らせると果実の細胞が破壊されて、味が出やすいんだと思う……が事実は知らない。

「知らないのかよ」

それを聞いていたマテウス副料理長達が笑っていた。

理由など知らないで作っている料理なんか、たくさんあるしね。

「ちなみに、白ワインの代わりにホワイト・ラム、甘みが欲しかったら砂糖を足しても美味しいらしい」

莉奈は他の果実でやるのもアリだし、アレンジ方法も教えておいた。

後は皆で楽しみながら、ワイワイと色々と試してみるに違いない。

果実酒といえば、家では毎年梅酒を作っていた。お酒の飲めない莉奈と弟には梅シロップ。梅シロップにはお酢を入れて作るのが、家の定番。

暑い夏には炭酸水で割ると、炭酸の刺激と爽やかな酸味が堪らなく美味しい。青梅、完熟梅、小梅で全く味わいが違うから、毎年作るのは楽しかった。

ちなみに莉奈は、完熟梅が好きだった。

青梅とは香りが全然違い、口に含むと鼻に抜けるアプリコットみたいな香りが堪らなかった。小梅はお酢と氷砂糖で漬けると赤くなって、駄菓子屋のスモモみたいな味わいがある。

本当は、砂糖ではなくて氷砂糖があったらコクが出るんだけど、ないからそこは残念だ。

莉奈が懐かしがりながら作っていると、隣から楽しそうな声がした。

「よし、ホワイト・ラムバージョンも作ろう」

マテウス副料理長が、手の空いている料理人を集めていたのだ。

作り方は簡単だから、見習いでもすぐに作れるだろう。