軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

379 暗算

「うん、便利だよ? え、ひょっとしてソレ、全部計算して確認するの?」

何の書類か分からないが、予算か出入金とか税金関係ではないのかと想像する。

お小遣い帳や家計簿と比べるのはおこがまし過ぎるが、アレでさえ面倒くさいのに国家のお金関係はさらに面倒くさそうだ。

「まぁな」

本来なら、財務省や総務省の算術士や税理士が計算して、書類を作成し管理している。

だが、皇帝からフェリクス王に代替わりし、体制も変えた。上層部も激しく入れ替えしたため、抜け穴も少なからずあるとか。まだまだ内政も落ち着かず、これ幸いと不正を犯す貴族達がいるらしく、金を積めば黙認する者もいて、たまに監査人や自らの目で一部を確認するのだそうだ。

エギエディルス皇子の勉強にもなるため、月に1度ないし2ヶ月に1度、監査や内偵調査をしているとシュゼル皇子が簡単に説明してくれた。

「興味があるのでしたら、少し見てみますか?」

とシュゼル皇子は、手前にあった書類を莉奈の前に滑らせた。

「え?」

「秘匿する程の書類ではないので、見ても構いませんよ?」

チラチラと見ていたのを知っているのか、シュゼル皇子は好きに見て下さいと書類を渡したようだ。

莉奈的には、興味がある……訳ではなかった。ただ、何の書類かな〜と好奇心が湧いただけである。

「あ、はい。では、お言葉に甘えて」

どうぞと言われたら「結構です」とは言えず、渋々書類を手に取る莉奈。オカシイな、そんなつもりはなかったのに何故こうなった。

莉奈は、見るフリくらいはするかとソファに座り直すのだった。

う〜ん、難しい言葉が並んでいると、頭が考えるのを止めるのは何故だろう。

莉奈は頭が痛くなってきたが、数字と計算くらいは分かるので目を止めた。

家計簿ではないけど、何かの出費と支出を記載して、その合計額が書かれてある感じだった。

「あ」

「なんでしょう?」

「え、あ」

パッと見ただけの自分が、口を出して良いのかなと口籠る。

余計な事を言うなと言われたら、嫌だなと。

「"何か"ありました?」

ニコリとシュゼル皇子。

シュゼル皇子の笑みが怖いけど。書類を渡した以上、多少口を出しても怒らないだろうと莉奈は口を開いた。

「えっと、ここの収穫量に対して、経費を差し引いた後の納める税金の額が合っていないな……なんて?」

「あ゛?」

エギエディルス皇子が怪訝な表情をして、莉奈が置いた書類を食い入る様に見た。

莉奈がチラッと見ただけなのに、そんな事を言ったからだ。

適当な事を言ってんじゃないのかと、疑う素振りさえ見えた。

「兄上」

だが、シュゼル皇子はそうは思わなかったのか、エギエディルス皇子が食い入る様に見ていた書類を取ると、何故か下座に座るフェリクス王に書類を手渡した。

フェリクス王は、かったるそうにその書類を見ると、莉奈をチラッと見た。

「訂正」

「え?」

「合算の下に訂正してみろ」

そう言って、莉奈の方に書類を滑らせて来た。

どうやら、莉奈の計算した額を書いて見せろと言う事らしい。

すかさず、シュゼル皇子が赤いインクの付いたガラスペンを莉奈に手渡す。

「私が書いてもいいんですか?」

「構わねぇよ」

大事な書類に訂正などして良いのかと訊いたら、でなければ言わないとフェリクス王は口端を上げていた。

「……」

なんか妙に緊張する。

莉奈は、皆の注目を浴びて思わず手が震え……たりしなかった。

皆の視線で計算を間違え……たりもしなかった。

自分の強靭過ぎる 精神(メンタル) にバンザイである。

莉奈が最後の数字を書き終えるか否かのタイミングで、シュゼル皇子が満足そうな笑みを浮かべていた。

その後、フェリクス王にチラッと目配せし、書き終わると同時に書類をスルリと莉奈から受け取り手渡した。

フェリクス王が見ている斜め後ろで、執事長イベールも視線だけを書類に滑らせていた。

「合ってますね」

リナのクセに……と、執事長イベールの内なる言葉が聞こえてきそうだった。

彼もフェリクス王の斜め後ろから、チラッと見て計算でもした様だ。

「シュゼルといい勝負か」

莉奈が紙に計算式を書く訳でもなく、暗算でしかも短時間でやった事に少し驚きつつ、フェリクス王は苦笑いしていた。

どうやら、フェリクス王も暗算して確かめて見たらしい。

莉奈にしてみたら、そろばんがないこの世界でフェリクス王にしろ、執事長イベールにしろ、チラッと見てすぐ計算が出来る事に感服する。

「ん? あれ? ひょっとしなくても試されました?」

エギエディルス皇子はともかく、シュゼル皇子は初めから、フェリクス王は途中から自分を試したんではないかと思った。

そう思うと、なんだか釈然としない。自然と頬がプクリと膨れた。

「試した事は謝罪します。リナの世界では皆がそうなのですか?」

申し訳なさそうに言ったシュゼル皇子を見て、莉奈はため息を吐いた。

電卓の話を聞いて莉奈を試したというより、純粋に莉奈のいた世界の基準が知りたかっただけなのだろう。

「ん〜、違いますね。私はたまたま幼稚園……幼少の頃に"そろばん"……えっと、計算が早くなる習い事? をしていたからですよ」

とりあえず、祖父が習い事の定番だと父に勧め、習い始めたのがそろばんだ。何年か通ってたけど、その塾の帰り道に 拐(かどわ) かされそうになり、習い事がそろばんから空手道場に変わったのである。

そろばんは弟も習っていて、弟は簡単な暗算どころかあっという間にフラッシュ暗算まで出来ていた。弟の方が素質があったのだと思う。

「"そろばん"?」

案の定、シュゼル皇子達の視線が莉奈に向いた。

どう説明をすれば良いのだろう? と莉奈は首を捻った。

「え〜と、なんだろう? "串団子"みたいなモノを、指で弾いて計算する道具?」

似た様なモノがあれば表現出来るのだけど、悲しい事に莉奈には想像力と説明能力が乏しかった。

「「"くしだんご"」」

莉奈の拙い説明の中、シュゼル皇子とエギエディルス皇子のお菓子レーダーに引っかかってしまった。

――あ――――っ!!

"串団子"!!

だーかーら、何故に食べ物で表現しちゃったかな!?

でも、そろばんなんてどう説明すればいいんだよ!!

莉奈は空笑いが漏れていた。