軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

378 計算機

ーーやばいヤバイやばい!!

莉奈は逃げる様に爆走しながら、焦っていた。

どうか誰にも見つかりませんように!!

王竜が朝食の後、散歩でも行ってすぐに鱗を汚しますように!!

莉奈は、転移の間に転がり込んでいた。

とにかく、王竜から離れたいとーー。

「うぇぇ〜〜っ」

そうだった。

考え事をしながら 瞬間移動(テレポート) を使うと、たまに酔うのであった。

莉奈は頭をクラクラさせ【銀海宮】の転移の間から、匍匐前進の様にズリズリと這い出ていた。

「お前は何をやってやがる」

這い出てすぐに、頭上から失笑が落ちて来た。

この声は絶対にフェリクス王に違いない。

チラッと見上げて見れば、莉奈の奇妙な姿に堪えられなかったのか笑っていた。

執務室に向かおうと廊下を歩いていたら、何故か転移の間から莉奈が這い出て来たのだ。唖然というより可笑しい。

「大丈夫かよ?」

莉奈が一向に立ち上がる素振りを見せなかったので、フェリクス王が猫のように莉奈の襟首をヒョイと摘んで持ち上げた。そして、クルリと反転させると自分に顔を向けさせる。

「昨夜ハ、アリガトウゴザイマシタ」

扱いが相変わらず雑なんだよなと思いながら、目を回している莉奈は、昨夜の散歩のお礼を口にした。

眼前にフェリクス王の顔があるが、気持ちが悪くてそれどころではなかった。

「礼を言う姿勢は褒めてやるが、どういう状況で言ってやがる」

フェリクス王は呆れ苦笑いを漏らしながら、グッタリしている莉奈を、今度は右腕に抱え直した。

「捨てて置けば宜しいのでは?」

音もなく現れた執事長イベールが、フェリクス王が右腕に抱える莉奈をチラリと見た。

怪我や病気ではないのだ。誰かに任せるか、その場に捨てて置いておけば、その内に回復する。国王自ら、介抱してやる必要などないのだと、不服申し立てをしていた。

「イベール。リナはゴミではないのですよ?」

「ゴミと言い切れないのが忌々しい」

ほのほのと現れたシュゼル皇子がそう言えば、執事長イベールは舌打ちでもしている表情で呟いた。

不敬な莉奈だが、不可と言えない程度には認めている様だ。

「シュゼル殿下モ、アリガトウゴザイマシタ」

気持ちが悪いので目は開けたくないが、声が聞こえたので気合で莉奈は、お礼を口にした。

「楽しかったですか?」

「ハイ」

「あ、カクテル、甘くて美味しかったですよ」

シュゼル皇子は甘いカクテルのお礼を言いつつ、莉奈の頭を優しく撫でた。

「ん? 少し魔力酔いを起こしていますね」

と莉奈の額にシュゼル皇子が魔力を注げば、莉奈の目眩は驚く程スッと消えてなくなった。

魔力のない者や魔法を使う事が苦手な人は、転移の間で 瞬間移動(テレポート) をしても、その時に受ける強力な魔力により、魔力酔いを起こす事もあるとか。

ちなみに、乗り物酔いをする人は、転移〈 瞬間移動(テレポート) 〉独特のあの空間の歪みに耐えられず、9割方酔うらしい。

「え?」

「治りましたか?」

「え、はい。ありがとう……ございます」

グワングワンと揺れて見えたシュゼル皇子の美貌が、至近距離にあった。

回復魔法ではなさそうだが、自分の魔力を注いで気の乱れを治してくれた様だ。

お礼を言いつつチラッと見れば、いつもは高い位置にあるシュゼル皇子の美貌が同じ高さにあり、莉奈はなんだかドキドキした。

「……っ!?」

堪らずシュゼル皇子から目を逸らせたら、今度はものスゴい近距離のフェリクス王と目がパチリと合った。

そうだった。フェリクス王に抱き抱えられていたのだ。

ーーボン。

目眩で気にもならなかった今の状況が、冷静になればなる程ものスゴく恥ずかしくなっていた。

フェリクス王に抱き抱えられている上に、息のかかりそうな距離感。お腹や背中が異様にムズムズする。どうしてイイのか分からない。

フェリクス王は、莉奈が顔を真っ赤にさせアタフタしている様子を、間近でニヨニヨと見ていた。

だが、莉奈はフェリクス王が面白がっているのを知らない。ただ、いつまでも降ろしてくれない状況に、暴れるより先に頭がショートしてしまった。

降ろしてと言えば良いのだろうけれど、莉奈は混乱し過ぎて口から滑り落ちた言葉がコレだった。

「オ元気ソウデ何ヨリデシタ」

ーープッ。

途端にフェリクス王と、シュゼル皇子の吹き出す声が間近に聞こえた。

莉奈が顔を真っ赤にさせて、訳の分からない事を言ってきたので、面白かったのだ。

そんな様子を少し離れた所で見ていた執事長イベールは、深い溜め息を吐いていた。

◇◇◇

結局、抱っこされて来た莉奈は、フェリクス王の執務室のソファにポスリと降ろされた。

上座の1人掛けソファに降ろしたのだから、揶揄っているに違いない。

「で? 何か用かよ」

王のいる階に転移して来たのだから、何か自分に用があるのだろうとフェリクス王は訊いた。

「用など、ありません」

「あ゛ぁ?」

「飛ぶ場所を間違えました」

そうなのである。

王竜の鱗をキラキラにしてしまった莉奈は、早く逃げなきゃと慌てたため、1階と5階を間違えてしまったのである。

「なんだそりゃ」

フェリクス王は完全に呆れ顔をしていた。

間違えた挙げ句、酔ったのだ。これを呆れなくて何を呆れる。

「寝ぼけてますか?」

シュゼル皇子は2人掛けのソファに腰を落としながら、わざとらしくそう言って笑っていた。

莉奈は、なんだかいたたまれなくなり帰ろうかなと、腰を上げ様とした時、エギエディルス皇子が入室して来た。

そして、真っ先に目についた莉奈を見るなり、吹き出したのだ。

「え? お前、何様?」

王のいる執務室のソファで、王が立ち莉奈が上座に座っていればそれはそうなるだろう。

「お一人様」

莉奈は説明するのをやめて、空笑いしながら立ち上がった。

「なんだよ、お一人様って」

エギエディルス皇子が笑っていた。

今日は朝から、3人〔イベール合わせると4人〕で何をするのだろう。

仕事だとは思うけど、莉奈の中ではエギエディルス皇子はともかく、フェリクス王とシュゼル皇子が仲良く仕事するイメージがない。

莉奈が帰るタイミングを逃していると、エギエディルス皇子はシュゼル皇子の前に座り、目の前のテーブルに何やら機械をドンと置いたのだ。

魔法鞄(マジックバッグ) で何かを持って来たようだ。

A4サイズくらいの見た事のない機械だ。一見オルゴールっぽいけど、良く見ると数字が並んでるし、訳の分からないレバーもある。

「ん? 何それ」

口など出さずにさっさと帰れば良かったのかもしれないが、初めて見る機械に思わず漏れた。

「あ? あぁ、計算機」

エギエディルス皇子が書類を広げながら教えてくれた。

「計算機?」

「暗算でもイイんだけど、苦手なんだよ」

「へぇ〜。計算機ってそんな感じなんだ」

エギエディルス皇子は暗算が苦手だと、莉奈に悔しそうに言っていた。

莉奈は初めて見る計算機に夢中で気付かなかったが、エギエディルス皇子は莉奈に弱い所は見せたくないらしい。

「リナの国の計算機はどんな感じなのですか?」

シュゼル皇子が、同じく書類を広げながら訊いてきた。

他の世界の計算機に興味がある様だ。

「え〜と、電卓って言われるモノで、電池とかソーラーパネルで動いてて……ボタンを押すと答えが出る?」

「電池?」

「ソーラーパネル?」

エギエディルス皇子とシュゼル皇子が、仲良く疑問を返していた。

「……聞かれても、私が作った訳ではないので、説明が出来ません」

電池の作り方なんて知らないし、ソーラーパネルの構造も良く分からない。説明しようがなかった。

「計算したい数字と記号を押すと、パッと表示されるんですよ」

としか言いようがない。

莉奈は捻りに捻っても、上手く説明が出来なかった。やはり、説明が上手くなる 技能(スキル) が欲しい。

「なんか良く分からねぇけど、便利そうだな」

ザックリと理解したエギエディルス皇子が、小さく頷いていた。