作品タイトル不明
365 おにぎり? おむすび?
「リナ、このくらいでどう?」
話しながらもリック料理長は、手を止めたりせず玄米を炒ってくれていた。ありがたい事だ。
ちなみに、白米でも良かったのだが、皆には初めての玄米茶だから玄米にしてみた。
「うん。ちょうどイイ感じ」
黄土色や薄茶色になっていて、香ばしい匂いがする。
ハゼ割れているのもあるけど、それで全然構わない。
「ココに、緑茶っていう茶葉をブレンドするとなお良いんだけど、ないのでこのまま熱いお湯を注いで、30秒くらい待って出来上がり」
玄米までを味わいたいなら、一回しっかりと蒸したり、水を入れて少し蒸したりという一手間を加えるとイイ。
そうしたら、この玄米も一緒に食べられるんだけど、面倒くさくて工程を少し飛ばしたから、食べるにはポリポリと少し固い。
「ん、懐かしい味がする」
湯呑みがないので、ティーカップに注いでまずは一口。
香ばしい匂いと、口いっぱいに広がる懐かしい味に、莉奈は口が緩んでいた。
「んっ、香りがいいな」
「わ、うまっ! スゴいサッパリしてる」
「本当だ! 苦くないし、私、紅茶より好きかも」
試飲して貰ったら、皆は驚きの声を上げていた。
玄米をただ炒るだけのお茶なのに、香ばしくてサッパリしていると好評だ。
紅茶が苦くて好きじゃない人もいたからね。これは、渋みはないし概ね好評だった。
「さっ、そろそろお米を炊かなくちゃ」
莉奈は、水に浸しておいたお米を炊く事にした。
鍋にキッチリ蓋をして、強火にかける。
「お米をしばらく浸水させていたのは何故なのかい?」
リック料理長が不思議そうに訊いてきた。
初めて見る工程に、疑問しか浮かばない。
「ふっくら甘い美味しいご飯にするため。別にやらなくてもいいけど、風味や食感が違うよ?」
比べなければ分からない、と言われたらそこまでだけど。
「なるほど。パンの生地も馴染ませるためにおくから、発酵ではないけど似たようなものかな?」
「うん? そうだね」
適当に頷きながら、そうなのか? と莉奈は内心首を傾げていた。
だけど、大まかに伝われば、細かい事はどうでもいいかと納得した。
「たくさん炊くから、20分くらい掛かるけど、少量なら10分くらいで大丈夫」
2合だとそのくらいだ。
炊飯器と違って早く炊けるのは、鍋やフライパンの良い所である。
「水が沸騰するまでは強火、後は弱火でパチパチ音がしてきたら、火を止めて蓋をしたまま数分蒸らして出来上がりかな?」
最近は、お米は炊飯器でしか炊かないから、うろ覚えである。
「難しい事はないんだな?」
「火加減さえ気をつければね? ちなみに最後に少し強火でやると底が少し焦げて美味しい。まっ、好みだけどね」
炊き込みご飯の時やパエリアは、おコゲがあると香ばしくて堪らないけど、今はおコゲな気分じゃない。
「わぁっ! リリアン、蓋は開けないで!」
「えー?」
「炊き上がるまで、開けちゃダメ!!」
見習いリリアンが、中が気になるのか蓋を開けようとしていたので、莉奈は慌てて止めた。
鍋の温度が下がって米に芯が残ってしまうからね。
「リリアン、パンだって焼いている途中でオーブン開けたりしないだろう?」
「……」
「お前、開けてるな!?」
マテウス副料理長が、パンで例えて説明した途端にリリアンは、あからさまに目を逸らした。
絶対に開けたり閉めたりしていたに違いない。
リリアンには、厳重注意となったのだった。
◇◇◇
「わぁ、初めて嗅ぐけど、スゴい良い匂い」
「パンとは違うけど、なんか優しい香りだな」
鍋の蓋を開けると、炊き上がったご飯から甘い匂いがした。
その匂いに、料理人達がスンスンと鼻を動かしている。
「しゃもじがないから木ベラで軽く混ぜて……ヨシ"おにぎり" にしよう」
本来なら、お櫃に入れておくのが良いのだが、そんな物はないからね。ボウルでは鍋と変わらないし。
「おにぎり?」
「"おむすび" ともいう。炊いたご飯を三角形に握る。それが "おむすび"とか"おにぎり" っていう」
基本はどちらでも使う言葉だ。
諸説、西日本がおむすび、東日本がおにぎりと呼ぶなんて事も言われているが、明確な記述はない。
だけど、おむすびは主に三角形。おにぎりは俵型でも三角形でも言うような気がする。莉奈的にはどちらでも良いと思うが、こだわる人もいるのかも。
「炊いたお米を手で握るのか」
熱そうだなと、マテウス副料理長が呟いた。
「熱いよ。だけど、アツアツの内に握った方がお米の水分が逃げなくて、冷めても美味しい気がする」
莉奈はまずは手を洗い、ボウルに水を注ぎ、小皿には塩を用意した。
お皿に盛ってそのまま食べてもイイけど、白米をダイレクトに食べるなら、ここはやっぱりおにぎりでしょう。
「手に塩を付けて、このお米をのせて、後は三角形に握る」
やっぱり、おにぎりは三角形だと思う。
日本って感じがしてイイよね?
莉奈は、手に塩を付けて擦り、茶碗一杯分のご飯を握り始めた。
このアツアツご飯の感触さえも懐かしい。
「あっつ、あっつ!! 握れないよ。リナ、お前、手の皮まで厚いのかよ!?」
「どういう事だ。サイル」
「あっつ、あっつ!!」
まるで面の皮まで厚いと言われたみたいで、莉奈がサイルを睨めば、目を逸らして誤魔化していた。失礼極まりない。