軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

349 苺と言えば……。

「さぁ、皆、急ピッチで昼の準備に取り掛かってくれ!」

リック料理長の掛け声とともに、皆は仕事モードに切り替わった。

すでに莉奈が教えた料理だけでなく、各々でアレンジしたり考案したりで、料理のレパートリーはものスゴイ速度で増えている。この様子だと、お役御免になる日も近そうだ。

「デザートには、苺とオレンジか」

見習いが準備しているのを見た莉奈は呟いた。

ティータイム〈おやつ休憩〉があるから、基本的に夕食以外は果物だけしか付かない事が多いみたいだ。

まぁ、そもそもシュゼル皇子は、デザートがあればそれだけでイイとか言ってるけど。

以前、なんとなくラナ女官長に聞いた話だと、過去の王族や貴族達には食事以外にティータイムが沢山あったそうだ。

目が覚めてすぐに飲むのが、アーリーモーニングティー。

朝食には、ブレックファーストティー。

午前11時に飲む、イレブンジス。

昼食には、ランチティー。

午前中だけで、もうこんなにもある。ちなみに、午後はさらにややこしい。

午後4時はミッディー・ティーブレイクって言うんだけど、それが休日や来客時だとアフタヌーンティーと名が変わる。

午後5時もそうだ。単に夕食時だとハイティーだけど、これが夕食までの軽食だとファイブオクロックとなる。

夕食後ならアフターディナーティー。

1日の最後、就寝前に飲むのが、ナイトキャップティー。

覚えるだけで、目が回りそうである。

ちなみに前皇帝時代には、まだこの古い習慣が残っていて、コレを説明してくれたラナ女官長は、ものスゴイ大変だったと涙ながらに語ってくれた。

食事にはたいしてうるさくない貴族達も、紅茶や酒にはこだわっていたらしく、それ故に茶葉や淹れ方、ティーセットには気を遣いそれを覚えるのに一苦労したとか。

体調や気分で、その時に出す茶葉も全く違って、面倒……じゃなかった、気難しかったらしい。

しかも、時間に厳しかった貴族達のために、ティータイム専用の侍女が何人か存在したそうだ。

だから、皇帝から王に変わり、フェリクス王がこの習慣の見直しを提示した時には、侍女達は密かに平伏し涙したと言っていた。

平伏し……なんて、ラナ女官長達は大袈裟に言っていたけど、それだけ大変だったのだろう。

ところで、そんなに飲んでいて胃がお茶でチャポチャポにならなかったのかな? とか、トイレが近そうだとか、そっちが気になったけど。

「あっ!」

「あ?」

莉奈が、何かを思い出した様に小さく呟けば、周りの人達が一斉に振り返った。

莉奈の "あっ" には、2種類あるからだ。

何かレシピを思いついた時の "あっ" と何かやらかした時の"あ" である。

今回の "あ" はどちらだと、莉奈をガン見していた。

「その苺は、そのままでも美味しいけど、シュゼルスペシャルにしちゃおう」

莉奈は腰に両手を当てて、気合いを入れてみたらーー。

「また、ろくでもないモノを作る気ですか」

背後から凍てつく波動……じゃない、冷ややかな声が聞こえた。

「ひっ!!」

執事長(イベール) の突然の登場だった。

音もなく背後に立つのもアレだけど、何故誰も教えてくれないのかな?

昼食を取りに来たのだと思うけど、声の掛け方を間違えていると思う。

「何を作るつもりですか?」

モノによったら、処分しますよ? と目が言っている。

もちろん、処分は作ったモノではなく莉奈に違いない。

「い、苺にかける "練乳" ? "コンデンスミルク" です」

「……」

言われても分からないのか、追及する様に 執事長(イベール) が目を細めた。

「え〜と。甘いソース?」

「何故、シュゼルスペシャルと?」

「ものスゴく甘いから……?」

だって、砂糖を食べるくらいに甘いし。

シュゼル皇子が絶対飛び付くと思ったから、シュゼルスペシャルと勝手に言ってみた。

「 "例のモノ" と語弊があるので、ヤメるように」

「はい」

説明したら、怒られた。

この人に褒められる日が来るのだろうか?

◇◇◇

莉奈が作っている間、執事長イベールは瞬きはどうしました? というくらいに、莉奈の手元をジッと見ていた。

「あの、イベールさん。視線が怖……気が散るので、食堂でお待ちーー」

「そんな繊細な神経は、 自国(アチラ) にすべて置いて来たでしょう?」

「し、失礼極まりない!!」

繊細な神経を日本に置いて来たと、 執事長(イベール) にシレッと揶揄された莉奈は反論しか出ない。

自分を繊細だとは思わないが、その発言は聞き捨てならなかった。

「「「ブッ」」」

文句の1つでも返そうと口を開き掛けた瞬間、周りから失笑する声が漏れていた。

絶対に、皆も同様に思っていたに違いない。

どいつもこいつも、本当に失礼しちゃうよ。

見ていても構わないやと、諦めた莉奈は作業に戻った。

気にならないと言えば嘘になるが、仕方がない。

「ん? それキャラメルと同じだよね?」

莉奈が、小鍋に生クリームと砂糖を入れ、木ベラでかき混ぜながら煮詰めていたら、目敏い女性の料理人が訊いてきた。

そうなのだ。

練乳、いわゆるコンデンスミルクも生キャラメルも、牛乳か生クリームに砂糖を入れて煮詰めたら出来る。

「材料も工程もほぼ一緒だよ。ただ、火の通し方が違うだけ」

「火の通し方?」

「ざっくり言うと、牛乳か生クリーム、それと砂糖を30分くらい火にかけて、トロトロにしたのが練乳。それをさらに煮詰めて作ったのが、生キャラメル。そこから、さらに煮詰めると固めのキャラメルになる」

だから、生キャラメルは練乳缶から作った方が、断然早いし簡単だ。

「さらに、さらに煮詰めたら?」

「焦げる」

ビター味のキャラメルになるのかもしれないけど、多分焦げる。

そんな話をしながら、火を通していたらトロトロになってきたので火を止めた。

「後は軽く冷やして、出来上がり」

ミルクソーサーに入れて冷やしておこう。

ちなみに冷やし過ぎると、固くなって苺の上にかけづらい。

「ブラックベリーは、香りが豊かだし甘いから練乳はいらないけど。一般に売られている苺って、あんまり甘くないし酸っぱくない?」

この王宮の厨房にある苺も、香りはイイのだけど酸味が強め。

リンゴもそうだけど、品種改良がされていないのか、余り甘くはない。だから、そのまま食べるには抵抗があるのだ。

「確かに」

「シュゼル殿下の採って来て下さった、ブラックベリーと比べると遥かに酸味が強いよな」

莉奈がそう訊けば、皆もやはりそう思っていたのか大きく頷く声が聞こえた。

「その苺が、美味しくなる魔法のソースがこの練乳」

莉奈がそう言えば、生唾を飲む音が聞こえた。

まぁ、苺につけて食べてみなよと、シュゼル皇子達の分を取り分けた後、鍋ごと渡した。

執事長のイベールには、味見用のとは別に練乳をかけた苺を後で渡しておいた。

無口な 執事長(イベール) も、この時ばかりはお礼を口にする事があるから、甘いモノは好きなのだろう。