作品タイトル不明
341 争いの予感
「何だ、コレ」
侍女達の歓喜も収まり、テーブルの上には朝食が並んだ。
ニンニクの匂いがするバーニャカウダを見て、エギエディルス皇子が不思議そうに訊いてきた。
「この間作るって約束したバーニャカウダだよ」
明日作ると言った後、色々ありすっかり忘れてしまったモノである。
「あぁ、明日って言ったのに白いのと戦って忘れてたヤツか」
「あの真珠姫に圧勝だったとか」
莉奈がバーニャカウダの説明をすると、エギエディルス皇子とシュゼル皇子が吹き出していた。
どうやら兄王に事情を聞いていたらしい。
「…………」
圧勝って語弊があるよね?
フェリクス王をジト目で見た莉奈。
どうして、誇張して言うのですか? と。
そんな目で見ていたら、フェリクス王がくつくつと笑いながら、こんな事を言ってきた。
「 竜殺し(ドラゴンキラー) 」
「え?」
「お前、あの一件でそう呼ばれてるらしいぞ?」
あの一件って一昨日の事だとは思うけど、そう呼ばれてるらしいって、どういう事?
その言葉に莉奈は、眉根に深いシワを寄せた。
「誰にですか?」
「竜に決まってるだろうが」
「……」
ーー決まってるのかよ!!
莉奈は絶句である。
竜喰らいだの、人喰らいだの色々付いていたけど、何ソレ。
" 竜殺し(ドラゴンキラー) " って何ーーっ!?
竜を食べてもないし、殺した事もないんですけど!?
「お前、称号だけはムダに付いていくのな」
「贅肉は減ったがな」
エギエディルス皇子がお腹を抱えて笑っていると、フェリクス王が面白そうに付け足した。
「余計なお世話だ。アホーーっ!!」
堪らず莉奈が叫べば、執事長イベールに絶対零度の目で睨まれた。
この瞬間、2時間説教コースが確定したのである。
◇◇◇
シュゼル皇子は、人と会う時は匂いが気になると言っていたけど、概ねバーニャカウダは好評だった。
フェリクス王は、ブラッドバッファローのステーキに付けたら旨そうだと、提案していた。
確かにソレは美味しそうだ。
夕食はピザの予定だけど、ステーキも用意しておくかと莉奈は考えていた。執事長イベールの説教中に。
「はぁァァ」
本日の説教もなかなか厳しかったと、莉奈は深い溜め息を吐いた。
ピザも作らなければだけど、美容液も作らないといけない。
明日でイイやと後回しにしていると、また竜がやって来るかもしれない。
莉奈はトボトボと、 黒狼宮(こくろうきゅう) に向かった。
黒狼宮は、魔法省の管轄でタール長官がいる所だ。
美容液はポーションを使う予定なので、シュゼル皇子が何かあってはと、そこで作る様にと言われたからだ。
「で、サリーはなんで付いて来るのかな?」
莉奈が黒狼宮に行くと聞いた侍女のサリーが、コバンザメの様にくっ付いて来た。
魔導具があるけど運動不足になるからと、 瞬間移動(テレポート) を使わなかったせいだ。
「美容液に興味がある。と言うか興味しかない。グフっ」
あの場にいたのか、サリーは不気味な笑いを漏らしていた。
モニカが腹を壊してから、良く来る様になった侍女だ。度の強い眼鏡を掛けているから、表情も良く分からず不気味である。
彼女も女性だし、美容に興味があるのだろう。
「ポーションもローヤルゼリーも限りがあるし、皆に渡せる数は作れないよ」
ポーションは少しだけ使ってイイと許可は得たけど、ローヤルゼリーは手持ちしかない。
作った事もないから、分量も分からない。配れる程の量は絶対に作れないと思う。
だからと言って、特定の人に渡せば波乱というか、暴動が起きそうだ。
「美人は遠慮する様に、と言えばイイ」
そうすれば、プライドの高い人は欲しがらないとサリーが怪しげに言った。
私はブサイクなので貰うけど……とサリーはグフっと笑いを漏らした。
「……」
確かにそこまで言われて欲しいと挙手すれば、自分が不美人だと認定する様なモノである。
だが、そんな事を言うのは怖過ぎる。
莉奈はサリーの言葉で色んな事を想像し、身体がブルリと震えた。
「骨肉の争いが起きるね」
そんな莉奈をよそに、面白そうだと笑うサリーだった。