軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

297 王宮でのんびりご飯を……作ることができない

「まぁ、イイ。とりあえず、この肉はブラッドバッファローでイイんだな?」

結局、余計な事を言ったせいだと睨まれたけれど、フェリクス王はため息を吐いて話を戻してくれた。

「はい。【鑑定】でそう出ました」

アンナには何度訊いても、黒牛としか言わなかったけどね。

「……」

莉奈がそう答えれば、フェリクス王は顎に手を置いて何やら考え込んでいた。

「フェル兄?」

エギエディルス皇子がどうしたのだと、訊いた。

「色々な魔物が食えるのはイイが、すぐにでも法の改正と規制を張らねぇと厄介になるな」

「あ〜そっか。金になるから無法地帯になる」

「イベール、シュゼルが……帰城しているハズだ。ヴィルとゲオルグをここへ呼べ、法の改正と規制対象の変更、その他諸々を早急に決める」

「御意に」

ロックバードは食肉として抵抗があるのか、高価だからなのか、まだ一般には浸透してはいない。物珍しさもあって金持ちの贅沢品、珍味品扱いされていた。

だが、他の魔物までもが食肉になると、話は別だ。食肉が増えれば、当然価格の下落が起きる。それだけに変更すべき点が色々とある。

基本的には武器や防具、装飾品になる様な魔物は軍を除き、正式な許可を得た冒険者が狩っている。例外的に害敵として、緊急時は冒険者ではなくとも狩り獲れる制度がある。

だが、この制度を悪用して許可のない者共が、魔物を狩り獲り闇取引しているのも事実である。肉まで食用になり金になるとなれば、許可のない魔物の肉まで出始める事になる。

人体に影響がないのかすべてが謎のまま、出荷されてからでは遅いのである。それでも、闇市場に訳の分からない魔物の肉まで売買されてしまうだろう。

そのためにも、強い規制を張り厳密にして、早急に罰せるようにしておく必要があるのだ。

「リナ」

「はい」

「しばらく、眼を酷使する事になる。悪いが覚悟しておけ」

「……」

フェリクス王にそう言われ、莉奈は頬が引き攣ってしまった。

こうなってしまったのは、自業自得感はある。だが、しばらく色々な魔物の死骸を見る事になる訳だ。ハイ、喜んで! とは言えない。

「あの」

「何だ?」

「鑑定するのは全然構いませんが、グチャグチャとかドロドロ系はなるべく遠慮したいな〜なんて?」

莉奈はおずおずと一応断りを入れた。

だって、狩り獲ってくる訳だから、キレイな姿な方が珍しい。

何かお腹から出てたりして、グロいのは勘弁願いたい。

「考えておこう」

フェリクス王は面白そうに笑った。

度胸のある莉奈が、そんなしおらしい素振りを見せたのが、愉しくて仕方がないらしい。

「いやいやいや、"考えておく" じゃなくて、是非とも配慮する方向でお願いします」

考えたけどダメでしたでは困るのだ。

面白そうにしているフェリクス兄弟に、莉奈はしっかりハッキリ強く言ったのであった。

◇◇◇

「リナ。お腹が空きました」

莉奈が厨房に戻ると、食堂のイスにシュゼル皇子がちょこんと座っていた。

リック料理長達が酷く緊張しながら厨房から覗く姿が見えたけど、そんなのお構いなしとばかりに優雅に紅茶を飲んでいる。

魔竜討伐から、無事に帰って来た様だ。魔竜を無傷でしかもこんなに早く倒せるなんて、この穏やかな外見からは全く想像もつかない。

……あれ?

そういえばさっきフェリクス王が、シュゼル皇子が帰って来ているから、執務室によこせ的な事を言ってなかったっけ?

「あの、陛下には帰城のご報告とか……」

いつからいるのか知らないけど、帰城しているから寄越す様にと言っていたのだから、報告はしていない気がする。

「お腹を満たしてから行きますよ?」

「先の方が宜しいかと」

「私は今、アイスクリームが食べたいです」

シュゼル皇子は、ほのほのとしていた。

いやいや、報告が先でしょう!?

莉奈が呆れていると、入り口から無表情の執事長が現れた。

あ、そうだ。

フェリクス王はさっき、呼べと言っていた。だから、来たのだろう。

「シュゼル殿下。陛下がお呼びです」

「アイスクリームを食べたら行きます」

「ご報告の後でもーー」

「リナ、ククベリーのソースを添えて下さい」

執事長(イベール) がやんわりと催促しているのに、シュゼル皇子はほのほのと、話をスルーしてアイスクリームを要求していた。

出すとも言っていないのに、なんか要望が増えているし。

――グウォォォーーッ!!

そんな時、どこかで何かの咆哮が聞こえた。

まぁ、何かって白竜宮にいる竜だと思うけど。

誰の竜がなんで咆哮を上げているのやら。ただでさえビクビクしているのに、さらに料理人達が怯え始めているよ。

あの声がうちの子ではないと信じたいけど。まだ咆哮だけで判断出来る程の付き合いはないしね。

しかしたまには、王宮でのんびりご飯を作らせてもらえませんかね?

「リナ、どちらへ?」

皆が竜の咆哮に一瞬気が逸れた隙に、逃げようとした莉奈。

バレないハズもなく、シュゼル皇子の笑顔に莉奈は捕まった。だから、莉奈は仕方なく説得してみる事にした。

「あの、シュゼル殿下」

「なんでしょう?」

「アイスクリームは逃げませんので、先に陛下にご報告をなさった方が……」

「ふふっ。それを言うなら兄上も逃げませんよ?」

とニコリ。

ダメだ。話が通じない。

莉奈は天を仰いだ。弟だったら早く行けって頭を叩くのに……。

ドスーーーーッン!!

シュゼル皇子との妙な攻防をしているとーー

突如窓の外側から隕石でも落下してきた様な音と、地響きに似た振動が全身に駆け巡った。

一体何が起きたのか、さっぱりである。

身体はビリビリとはしたものの皆の鼓膜と、窓ガラスは辛うじて無事だった。

「リーーナーーッ!!」

いや、まったく無事ではなかった。

次に起きた咆哮に似た低い声に耐えられず、窓ガラスがパリンと小気味イイ音を放ち一斉に割れた。

この間、修復したばかりなのに、また割れたのだ。なんなら、一部の壁もボロボロに壊れて向こう側が見える。

突然のこの惨状に、常に冷静で無表情の執事長イベールでさえ、珍しく瞠目している。

イベールでさえこうなのだから、当然厨房の皆は恐慌に堪えられず、泡を噴いてバタバタと倒れはじめたけど。

穏やかで静かな、生活はないのかな?

なんでこんなに騒がしいのだろう。

王宮でのんびりした生活を下さい。

莉奈は気絶しない自分のメンタルを、一人嘆いていたのだった。