作品タイトル不明
295 実食。ブラッドバッファロー
なんだかんだとやっている内に、もうお昼だ。
1日が本当に忙しくて、時間が経つのが早い。
そして、ふと思う事がある。
私は異世界で何をやっているのだろうか?
莉奈はそんな事を考えながら、白竜宮の転移の間から、エギエディルス皇子のいる緋空宮に 瞬間移動(テレポート) した。
「うおぇっ」
着いた瞬間から、世界が回っていた。
そう、初めての 瞬間移動(テレポート) 酔いである。
考えながらするモノではないらしい。完全に酔ってしまった。天井と床、壁までグルグル回っている。立てない。
気持ちが悪くて動きたくない。目が回る。
「……何やってんだよ?」
四つん這いで呻いていたら、頭上から呆れた声がした。たぶん、エギエディルス皇子の声だ。
どこかへ行くのか、ちょうど転移の間に来たらしい。スレ違いにならなくて良かった。
「酔った」
「ほぉ。お前でも酔う事があるのか。魔物でも降らなきゃイイが」
ヒドイ言い様だ。
……って言うか、さっきと違う声だ。低い声だし。
ん? エギエディルス皇子じゃないぞ?
莉奈はグルグル回る頭に喝を入れて、見上げてみた。
「気持ち悪っ」
何か漆黒の物体がチラッと見えたけれど、目が回ってそれどころではなかった。
吐きそうになり口を押さえた。
「お前、人の顔見て気持ち悪いとか言うなよな。王族に対する不敬罪で極刑もんだぞ?」
「極刑でもイイから酔わない魔法プリーズ」
「極刑でもイイって、イカれてやがる」
エギエディルス皇子の声に混じり、呆れ声が聞こえた。チラッと見たら、やはりフェリクス王だった。
末の弟皇子の所にいた様だ。仲がよろしい事で。
「陛下は弟君とご一緒ですか。相変わらずラブラブですな」
酔いが醒めてきた莉奈はフラフラと立ち上がった。
「ラブラブ……」
エギエディルス皇子とフェリクス王は顔を見合わせ、互いにものスゴく嫌そうな顔をした。
「気持ち悪……っ痛ぇ!」
と口を押さえてエギエディルス皇子が言った。
その頭を兄フェリクス王が叩いていた。お前が言うなって事だろう。
「あっ。ちょっ、陛下待って下さい!!」
弟の宮に来たのだから、自分に用はないだろうと帰ろうとしていたので、莉奈はそれを慌てて止めた。
「あ゛ぁ?」
「昼食は召し上がられましたか?」
「そんな時間か」
莉奈が何しに来たのか、何となく察したフェリクス王。
もう昼時になっていたと、今気付いた様子だった。
「今日の昼飯は何?」
エギエディルス皇子が嬉しそうに訊いた。
莉奈がわざわざ来ると言うのだから、新作の料理に違いないと。
「フッフッフッ、それは食べてからのお楽しみ」
「「……」」
莉奈の口を押さえた意味深な笑いに、フェリクス王とエギエディルス皇子は再び顔を見合わせ、苦笑いしていたのだった。
◇◇◇
フェリクス王とエギエディルス皇子には、銀海宮にある王族の食堂で待っていてもらう事にした。
食堂では色々な意味で注目されて、食べづらいだろうしね。
莉奈はと言えば、厨房に向かっているであろう執事長イベールを捜しに行った。
王達の食事は必要ないとか、彼にも賄賂……じゃなかった昼食はあると伝えるためだ。
「あっ! イベールさん!!」
転移の間から出て向かうと、ちょうど厨房で料理を受け取ろうとしていた執事長イベールがいた。
「陛下とエドの食事だったら用意したので、大丈夫ですよ」
「何を作ったんだ?」
「どこで作ったんだよ」
莉奈がそう言えば、執事長のイベールではなく、リック料理長達が食い付いてきた。
莉奈がどこで何を作ったのかが、皆は気になるのだろう。
「白竜宮で、美味しいモノを作ってきた」
「俺達には?」
「ない」
集られる前に去るべし。莉奈は一言だけ言い残してさっさと踵を返した。
「味見くらいさせろよ〜!」
「何を作ったんだよ〜」
「夕食には出るのかよ!?」
その背に、皆の懇願する様な叫び声が聞こえたが、莉奈は振り返りもせず足早に去るのであった。
◇◇◇
王族に料理を出す事になって、来る様にはなったけど、庶民な莉奈に言わせれば落ち着かない。
調度品は高そうだし、頭上のシャンデリアは怖いし、何か知らないけどキラキラしてるしで苦手だ。
やはり、いつもの食堂が安心する。
「で、何を作ってきたんだよ?」
期待しかない表情のエギエディルス皇子。
笑顔が可愛過ぎてメロメロだよ。
「まずはメイン。手前からサーロインステーキとカルビ。それとモモ肉の一口カツ。後はブロッコリーとニンジンのピリ辛ガーリック炒め。タマネギのサラダです」
「「「…………」」」
その料理を見たフェリクス王、エギエディルス皇子、執事長イベールは色々な意味で眉根を寄せた。
まず、率直に美味しそうである。
肉汁滴る牛のステーキに、堪らず喉が鳴る。
たが、この牛肉らしきモノは何の肉だと。
「リナ、コレ何の肉なんだ?」
皆の代弁の様にエギエディルス皇子が、当然の疑問を投げ掛けた。
残念ながらこの国は、牛といえばほぼ乳牛しかいない。豚も少なく王族とて、月に一回口に出来れば良い方だ。
なのに、牛らしき肉がここにある。謎と言うより不安しかない。
「美味しいよ?」
「答えになってねぇ」
エギエディルス皇子が眉根を寄せた。
「とにかく、食べてみなって。味見も毒味も全部私達がしたから」
「 "私達が" って誰だよ?」
「私と白竜宮の一部の人」
莉奈はニコリと笑った。
「「「…………」」」
味見か毒味かは知らないが、また軍部のヤツ等が先に食べたのかと、フェリクス王達は複雑な顔をしていた。
魔物にあまり抵抗感がなくなってきたフェリクス王達は、目の前の料理を食べてみる事にした。
本来なら、まず目の前で毒味をするのが通例だが、もはや今更。
目の前だろうが他でだろうが、入っている時は如何なる時も入っている。大体莉奈が入れる訳がない。
「なんだコレ。うっまっ!!」
不審そうにしつつ、エギエディルス皇子がサーロインステーキをパクリと一口。
途端に目を見張り歓喜の声を上げた。
「からあげも旨いけど、このステーキ柔らかくて旨いなフェル兄」
エギエディルス皇子の美味しさの基準は、からあげありきらしい。
「リナ」
サーロインステーキを食べていたフェリクス王が、水の入っているワイングラスを人差し指でコンと鳴らした。
「あ、お水ですね?」
「肉と言ったらーー」
「あぁ、粒マスタードとホースラディッシュですね? もちろん御用意してあります」
絶対に水のおかわりとかではなく、酒〈赤ワイン〉をくれと言っているのだと分かった。
そう感じた莉奈は、粒マスタード等の小皿を用意しつつ、被せ気味に言葉を挟んだ。
「……」
そうじゃねぇ、とフェリクス王は睨んでいた。
だが、まったく気にしない莉奈はニコリと微笑み返した。昼からお酒なんてあげませんよ?
執事長イベールは無言で、その攻防を見ていた。
フェリクス王の言葉を途中で切るなど、不敬だと莉奈を叱責したい処。しかし、お酒を出す訳にはいかない。
莉奈以外、シレッと無視出来ないだろう。だからこそ、見て見ぬ振りをしていたのだ。
弟エギエディルス皇子は、苦笑いしていただけだったけど。