軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

282 リヨンのお菓子

「あなた天才ね!」

生キャラメルを1個食べたアーシェスは、頬を押さえ蕩ける様な顔をしていた。そして、莉奈の両手を掴みブンブンと振って喜びを表していた。

「そうだ。あなた、コイツに捨てられたら、ここに来なさいよ。私が―――」

「包丁が出来たら連絡をよこせ。じゃあな」

アーシェスの言葉を、最後まで言わせなかったフェリクス王。

まだ何か言うアーシェスを横目に、莉奈の肩を引き寄せ足早に出入り口に向かった。

「ちょっと!」

話はまだ終わってないわよ! と文句を言うアーシェスを無視し、スタスタとフェリクス王は莉奈を連れ店から出たのであった。

◇◇◇

「いいんですか?」

話の途中で帰っていいのかと訊きつつ、ドキドキしている莉奈。

肩にフェリクス王の手が乗っていて、そこだけが妙にこそばゆい。

「キリがねぇ」

そう言って莉奈の肩から手を離したフェリクス王。

あのままあの場にいたら、莉奈はまた料理を作るハメになりそうだと感じた。それだと、もうキリがない。時間の無駄だと後にしたのだ。

「楽しかったですよ?」

肩から手が離れると何だか、今度はそこが寂しい気がする。

「お前は……」

フェリクス王はため息を吐き、言葉を飲み込んだ。

コイツは本当にどこへ行っても、誰とでも仲良くなるなと感服する。資質と云えばそれまでだが、こうも簡単に人の懐にスルリと入れる人間はそうはいない。

莉奈は表通りに出たところで、ふと気になった事を訊いた。

「あっ、そういえば。ジャスコとブスレって何ですか?」

「逆に訊きてぇよ。何と間違えてやがる」

「アーシェスさんが言ってたお菓子?」

「……」

フェリクス王はどういう間違いだと、苦笑する。適当にも程がある。

「食いてぇの?」

「うん!!」

こういう時の莉奈は、素直に可愛いと思うフェリクス王。

仕方がないなとばかりに、莉奈の頭をくしゃりと撫でた。

「先に言うが、そんなウマイ物じゃねぇぞ?」

「覚悟しておきます」

莉奈はニコリと笑い返せば、フェリクス王は小さく笑っていたのであった。

◇◇◇

数分後アーシェスが言っていたお菓子の売っている店に着いた。

店の外観はパン屋っぽい感じで、大きなガラス窓で店内が見える可愛いらしいお店。ただ、お菓子はケーキ屋みたいなショーケースに並んでいる訳ではなく、パン屋みたいな籐の籠に並べて入っている様だ。

「あの辺で待っていてやるから買って来い」

フェリクス王はポケットからお金を出すと、適当な額を莉奈に手渡した。

「え? 中には?」

「入るかよ」

フェリクス王は渋面顔である。

どうやら女性ばかりの店内に入りたくないみたいだった。

可愛いなと莉奈は小さく笑った。

「あ゛?」

「いえ、なんでもありませーん」

フェリクス王に睨まれたので、莉奈は顔を背けた。

父ならこういうお店も気にもせずに入るんだけど、フェリクス王は嫌みたいだ。そんな彼が妙に可愛いと思った莉奈だった。

「いらっしゃいませ~」

店内に入れば女性の店員が、挨拶をしてくる。

中は10畳くらいで、意外に狭い。カウンターみたいな台の上に、浅い籐の籠にお菓子が並んでいた。

"エショデ" と "フワス" とこちらの言葉で書かれてある。これがアーシェスの言っていたお菓子みたいだ。

常々思うけど、言語が分かるってスゴい有り難い事だ。召喚されました。分かりませんでなくて良かったと心底思う。

莉奈はそんな事を思いながら、"エショデ" と書かれてある物を見た。大きさはお煎餅くらいで見た目は白くて丸い。はぜ割れているから、堅いのかもしれない。

「……」

莉奈は何故か目が細くなっていた。

期待はしたつもりはなかったが、どこかひょっとしたら美味しいお菓子かもと甘い考えを抱いていた様だ。

シュゼル皇子が見向きをしない時点で、そういう物だと分かるべきだったと内心笑う。

"フワス" はどうだ? と同じく見た。

これまた丸い。エショデよりもサイズは大きく、平たいパンの様に見える。色は薄い黄色をしている。

「う~ん?」

どちらも堅そうに見える。柔らかいお菓子はないのかもしれない。

「ありがとうございました~」

莉奈はとりあえず、1つずつ買った。1個150ギル。庶民のお菓子なのか安い。

お菓子は食べ歩きも出来る様にか、紙の袋に入っている。王城にある紙に比べると、茶色っぽくて厚みも均等ではない。糸屑みたいな繊維も混じって見える。

どちらのお菓子も匂いはナンかパンみたいな匂いのようで、やはり甘い物ではないらしい。

店から出ると少し離れたところに、腕を組んで待つフェリクス王が見えた。

高身長でスラリとした体躯。無駄のない引き締まった身体が、洋服ごしでも良く分かる。モデル雑誌の表紙がそのまま、そこにある様だった。

壁に寄り掛かる姿は、見慣れた莉奈でさえも見惚れる程。見慣れない周りの女性は当然見惚れる訳で、ひそひそと話ながら通っている。

「すっごいイケメンじゃない?」

「どこに住んでいるのかしら?」

「誰かと待ち合わせ?」

「誘ったら来てくれるかな」

「やだぁ。"誘う" ってドコによ!」

―――モテモテだな陛下。

フェリクス王は遠巻きにだが、十数人以上に囲まれていた。

威圧感が半端ないから皆遠巻きだが、その睨みさえも堪らないのか女性達はキャッキャしていた。

―――うっわ、近寄りたくない。

莉奈は遠い目をしていた。

あそこに行けば、確実に女性の視線を一身に受ける。それも突き刺さる様な痛い視線。目立つ事必至である。絶対に行きたくない。