軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

269 マフィンだよ?

―――チン。

オーブンが小さく鳴いた。マフィンが焼き上がった様だ。

このオーブンの音が鳴ると、莉奈はなんだか懐かしくなる。あっちの世界とどこか似ていている事が、スゴく嬉しい。

莉奈はマフィンがしっかり焼けているか、竹串で確かめた。ちなみにコレ、焼き鳥の時の残りの串。

「リナのその鞄、 魔法鞄(マジックバッグ) だったのか!」

さっきから、色々とチョイチョイ出しているのを見ていた料理人が、確信した様に言った。

国宝級に近い 魔法鞄(マジックバッグ) に、感嘆の声が漏れていた。中にはウワサでしか知らなかったのか、マジマジ見ている者もいる。羨ましいみたいである。

「ん。よし、焼けたみたい」

莉奈は竹串を見て、満足そうに頷いた。

マフィンに刺した竹串には、生地がくっついてこなかった。中までしっかり焼けた証拠だ。

ベーキングパウダーの代わりに、メレンゲを使ったけど、しっかりとふくらんで出来た。

少し型にくっついてたから、周りにナイフを入れて切り離し、型から外した。焼き立ても美味しいけど、少しあら熱をとってからの方がしっとりしてイイと思うけど、まぁ好みでしょ。

パウンドケーキだと、ブランデーを染み込ませたりも出来るから、フェリクス王でも大丈夫かな。

それでも「甘ぇ」って言うのかもしれない。

「ジュリアさん、マフィンをどうぞ」

型から外したマフィンは、皆も食べられる様に一口サイズに切り分けた。お試しだから、ジュリアさん達以外は1人1欠片くらいしかないけど。

なんか皆は作る気満々だったし、足りないのなら勝手に作るでしょう。砂糖を入れてないから、量は作れるだろうし。

「ん。上出来」

久々に作ったマフィンを、莉奈はさっそく一口。

スポンジ程ふわふわではないけれど、しっとりしていてコレはコレで美味しい。ほんのりオレンジ色の生地。

味はほとんどバナナの味だけど、甘過ぎず優しい味だ。まぁ……個人的には生クリームとかハチミツかけたい。なんなら、ククベリーを散らして甘酸っぱさも演出したいところだ。

「……っ! 美味しいっ!! 砂糖独特の強い甘さじゃなくて、バナナとニンジンの優しい甘さがするわ」

カウンター越しに、皿に乗ったマフィンを貰ったジュリア。

ロッテの存在をほとんど忘れ、一口食べると目を丸くしていた。砂糖のガツンとした甘さではなくて、優しい甘さが口に広がったからだ。

砂糖を入れなくても、こんなに甘さを感じるとは思わなかった。バナナ風味のパンだと想像していたのだ。

「あ~っ!! まんまーっ!!」

腕に抱かれたままのロッテは、バシバシと母親を叩いて主張していた。先に食うな、無視するなと怒っているみたいだ。

「はいはい。ロッテ、あ~ん」

1つ摘まんで、ロッテの口元にチラつかせる。

「あっあ~」

ロッテは口を近付けるのではなく、奪おうと手を伸ばした。

「やっぱり、あげな~い」

その瞬間ジュリアはその手をサラリと退けて、おあずけし自分の口にパクりと入れた。

あ~美味しいとご満悦な表情のジュリア。それとは、完全に対照的な娘ロッテ。

「ギャ―――――ッ!! かりゃあげ――――っ!!」

ツッコミ所満載のロッテが、怒って叫んでいた。

母親の肩や胸を、パシパシ叩いている。

そんなロッテを見ながら、"からあげ" じゃなくて "マフィン" なんだけどね? と莉奈は心で呟く。彼女的には食べ物なら、なんでも "からあげ" なのかもしれない。

「んんっ。確かに優しい甘さだな」

「砂糖を入れなくても甘いのがイイ!」

「ニンジンの味は全然しないな」

「バナナの甘さがちょうどイイ」

「って、一口じゃ全然足りないわよ」

「砂糖いらないし、もっと作ろう!」

「「ザックさん、復習もかねて作りましょう!!」」

料理人達は、砂糖を使わないお菓子に大盛り上がりである。

一口もない、味見程度のマフィンでは全然足りないと、ニンジンを大量に茹で始めていた。

「おぉっ!?」

一方、主役であるロッテは、やっとマフィンを1つ貰い、目を丸くしている。

初めての甘さと食感に、パチクリさせていて、スゴく可愛い。

「ロッテ。美味しい?」

と言いつつジュリアも、もう1つパクリと口に放り込んだ。

「マ~マ~、め、ちょか」

もはや何を言っているのか、分からないロッテ。

モグモグしながら、マフィンを触ったベタベタの手で、ジュリアの口をまさぐっていた。食べるな! と、言っているのだろうか?

「ちょ、ロッテ。待ちなしゃい! 顔がベッタベタににゃる」

喋っている最中に、娘ロッテに口を弄られ、ジュリアは言葉遣いが変になっていた。

口を弄るロッテ。ヤメてと困惑するジュリア。

「「「アハハ!」」」

そんなジュリアとロッテ親子の可愛らしい攻防に、莉奈達は微笑ましくなるのであった。