作品タイトル不明
220 忘れたいような、忘れたくないような?
『おはよう』
―――翌朝。
―――優しい声が、聞こえた様な気がして目が覚めた。
フェリクス王と、ずっといた様な気がした。
夢かと思ったけれど……現実だった。
ベッドの脇に、あの時羽織らせててくれた 法衣(ローブ) があったのだ。
結局……フェリクス王は、何故あそこにいたのだろうか?
分からない……が。昨日の事を思い出すと、頬が火照った。
『お前は悪くない』
あの言葉で……心が救われた気がした。
法衣(ローブ) を手に取ると、ほのかにフェリクス王の匂いがした。
莉奈はなんだか、そのこそばゆい香りに、思わず笑みを溢す。匂いが心地良かったのだ。お父さんとは全然違う、男の人の匂い。
だけど、嫌ではない。安心する匂いだった。
「リナ。おはよう、入るわよ?」
優しく温かい匂いに、包まれていると、隣の部屋からラナ女官長の声がした。
―――あんぎゃあ~~っ!!
途中まで出かかった叫び声を、慌ててゴクリと飲み込んだ。
「……お……おはよう!!」
莉奈は、慌てて 法衣(ローブ) から手を離し、思わず布団の中に隠した。
やましい訳ではないが、何故か見られたくないというか、知られたくないというか、複雑な気持ちだったのだ。
「熱でもあるのかしら? 顔が真っ赤よ?」
ラナ女官長が寝室に入って来ると、莉奈の顔を見て心配そうに窺った。
昨夜の事を思い出していたら、顔が相当真っ赤になっていたらしい。
「ちょ……ちょっと暑かったから!」
熱を計る様に、おでこに触れてきたラナ女官長の横を、すり抜ける様にベッドから起き上がった。
フェリクス王がここに来たなんて、絶対に言えない!!
……っていうか。
自分の足でベッドに戻った記憶がな―――い!!
腕に包まれて、ドキドキし過ぎて記憶にない。
慰めてもらったまでは、ぼんやりと記憶にある。
……たけど、そこから記憶がない。どうやって寝室に戻ったんだ?
法衣(ローブ) がここにあるのは何故?
まさか、あのまま寝ちゃって運んでもらったの!?
「うっわ、う~~~っわ~~っ!!」
莉奈は急に恥ずかしくなり、顔を手で覆って床に丸まっていた。
冷静になれば冷静になる程、スゴく恥ずかしい!!
お子様みたいに抱っこされて、頭ナデナデされて……。
―――うわぁ~~っ!!
「リナ? 大丈夫なの?」
「大丈夫だけど……全然大丈夫じゃない!!」
「え? 何? どっち!?」
莉奈がしゃがんだまま悶えているので、ラナ女官長は眉間にシワを寄せた。一体何があったのか。
大丈夫なのか、大丈夫ではないのか。
答えが分からない。
「あ~っ……あ~っ」
莉奈は忘れたいのに、忘れられず、恥ずかし過ぎて悶えていた。
アレはダメだ。破壊力ありすぎる。私が壊れる。
「「…………」」
そんな莉奈を、ラナ女官長や後から来たモニカが、怪訝そうな表情で見ていた。何故、変な声を上げて悶えているのだろうか?
何か変なモノでも食べたのだろうか?
莉奈は見られているのも知らず、しばらく団子の様に床に丸まっていた。とにかく今は、頭から消し去りたい。莉奈は、一生懸命奮闘するのであった。
◇◇◇
夜は明けたけど……今日は何もしたくない。
昨夜の余韻が消えなくて、どうしてイイのか分からなかった。なんなら、あの 法衣(ローブ) にくるまって寝ていたい。
……うぁ~っ!! 何言っちゃってんのかな!?
「散歩だ!! 散歩に行こう!!」
莉奈は、頭を冷やそうと外に走り出した。
ジッとしていても、胸がムズムズしてソワソワしてどうしようもなかったからだ。身体を動かせば、落ち着くのではと気付いたら走り出していたのだ。
「たのも~う!!」
「だから。その挨拶は、なんなんだよ!」
走りに走り回って結局、いつもの通り王宮の厨房の扉を、勢いよく開けていた。様子が変な莉奈を、皆が苦笑いしつつ迎えてくれる。
莉奈は、そんないつも通りの皆の顔を見たら、頭が切り替わった。変わらない日常って大事だよね。
忘れるには、何かを作って食べるに限る!!
「ねぇ、ねぇ。何作るの?」
ワクワクした様な声が聞こえた。見ればリリアンである。
莉奈の変わった挨拶なんて、どうでもイイらしい。
「作らないという、選択肢はないのかな?」
「「「ない!!」」」
一応訊いてみたけど、全員即答で返してきた。
……なんだろう。このモヤッとする返答。
ただ、見に来ただけっていう選択肢があってもイイと思う。
でも、今日は作る気はある。だから、莉奈は文句は返さず、棚からボウルを取り出した。
「「「マヨネーズだな!? マヨネーズを作るんだな!?」」」
「なんでだよ。昨日作ったでしょ!!」
ボウル=マヨネーズではないのだ。大体、2日連続でそんなモノは作らないよ。
昨日作り方を教えたのだから、莉奈が作る必要性はないのだ。食べたければ自分で作ればイイ。
「んじゃ。何を作るんだ?」
ボウルだけ出した処で、何のヒントにもならないのか、皆が期待に満ちた目で見ている。
「昨日、卵黄しか使ってないから卵白が大量にある。だから―――」
「「「お菓子を作るんだな!?」」」
莉奈が最後まで言うまでもなく、皆の勝手な想像で言葉を切られた。
「……」
正解だけど……決め付けられるとイラッっとする。
「「「お・菓・子っ!!」」」
「「「ふ――――っ!!」」」
まだ、何も言ってないのに、背後では料理人達が小躍りしている。もう、莉奈がお菓子を作ってくれると、思い込んでいた。
う~ん。卵白でお菓子が出来るなんて事、言わなければ良かったのかもしれない。