作品タイトル不明
217 リナはうちの子です
「白いソースは?」
誰かが手に取る前に訊いた。
そう、エギエディルス皇子にはタルタルソースを乗せたけど、皆のには乗せてはいない。
何故なら、作るのが面倒くさいから。自分のを減らしたくないしね。
「ないよ。後でマテウスさん達に教わって」
「え? ないの?」
「ないよ?」
「「「え―――っ!?」」」
味見でそれも付いてくると思ったみたいだ。だが、莉奈は今すぐ食べろなんて言ってはいない。欲しければ先に、タルタルソースを作ってから食べればいい。
今日はもう、マヨネーズは作りたくはない。本当、マヨビームが欲しいよ。
「エド。エビがあったから、エビフライも作ってあげる」
ブーイングなんかしったこっちゃない。莉奈はエギエディルス皇子のために他の揚げ物を提案した。先程冷蔵庫を見た時、エビがあったのだ。
エビフライとタルタルソースは、弟が1番好きな組合わせだ。エギエディルス皇子も気に入るに違いない。
もちろんフェリクス王の分も作って持たすのは忘れないよ。
「エビも揚げるのか?」
「エビフライがタルタルソース最強のタッグだと私は思います。エベレスト殿下!!」
「マジかよ!!」
莉奈がふざけて敬礼して見せたら、エギエディルス皇子はパッと表情が輝いた。訊いてみたらエビが好きらしい。ガーリック炒めが特に好きだとか。
「ならば、早急に作りたまえ。リナ炊事長官殿!」
「了解致しました!」
莉奈がふざけてみれば、皇子も同じく敬礼してみせた。
なんだかそれが楽しくて、しばらく2人で笑い合っていた。その後に「待っててね」と言えば、エギエディルス皇子は、大好きなエビがフライになって食べられるのが嬉しいみたいで、満面の笑みで食堂に戻って行った。
「「「……」」」
そんなやり取りを初めて見た者は、皇子とものスゴく仲が良過ぎる莉奈に絶句である。
そして、比べるものではないのだろうけれど、莉奈の自分達と皇子に対する言動に、差別を感じる今日この頃だった。
◇◇◇
「リナリナリナ!! エビフライすげぇウマイ!!」
エビフライをあげたら、あまりの美味しさにエギエディルス皇子がぴょんぴょんした。
大好きなエビが、さらに美味しくパワーアップして嬉しいみたいだ。サクップリッのエビフライに、ほのかな酸味のタルタルソース。口の中でエビが小躍りして、絶妙なハーモニーを奏でる。
『やったぁ!! エビフライだ~っ!!』
弟も大好きで、揚げてるとテンション高めでキッチンをウロウロしていたのを思い出す。
「タルタルソースとのコンビ最高でしょ?」
「マジで最強!!」
エギエディルス皇子も気に入ったみたいだ。ニコニコしていてスゴい可愛い。
「ん。フィッシュフライ、サクッふわっで美味しい!!」
そんな彼の近くで、結局タルタルソースも作り、フィッシュフライにつけて食べている料理人達が歓喜の声を上げていた。
衣のサクッとした食感。白身魚のふわっとした食感。それをタルタルソースが引き立て揚げ物が美味し過ぎる。
レモン汁もチョイ足しすれば、さらにサッパリするから揚げ物なのに、ついつい手が伸びる。
「な~に~こ~れ~! あの魔物のロックバードってこんなに美味しかったの!?」
「肉捨ててたし!!」
「肉汁がスゴいウマイ」
「プリップリッとした、エビフライ最強!!」
「タルタルソース最高!!」
「「「マヨネーズ最高!!」」」
ロックバードを初めて口にした皆が、目を丸くし歓喜の声を次々と上げていた。美味しい物を食べれば元気にもなるし、心も躍るよね。
匂いや歓喜の声に誘われ、次から次へと人が増えていた。気付けば味見の予定が、何故か立食パーティーの様になっていた。
ロックバードのチキンカツ。フィッシュフライ。エビフライ。
揚げては皆の口に入り、ちょっとしたお祭り騒ぎである。お酒が出ていないだけ、まだイイのかもしれない。
「そうだ、リナ。魔法が使えるんだから、魔法省に入りなよ」
「そうだよ。魔法省の子になればイイ!!」
「魔法省の仕事なんかイヤなら、ここの炊事係になればいい」
食べ物目当て、下心しかない黒狼宮の人達が騒ぎ出した。あからさま過ぎて苦笑いも出ない。
「ダメだ。リナは 銀海宮(うち) の子だ!!」
マテウス副料理長が莉奈を背中に隠した。
多勢に無勢だ。莉奈をスカウトしてそのまま、こちらに引き込まされては困ると引き寄せた。
「違う!! リナは竜騎士団に入団したんだから、 白竜宮(うち) の子です!!」
軍部のサイルが、慌てた様にさらに莉奈を引き寄せた。
莉奈は竜を番に迎えた。だから、竜騎士団になったのだと鼻息を荒く主張する。他所にやるものか……と。
「は? 魔導師なんだから、魔法省の管轄だろ?」
「違うし! リナは竜に選ばれたんだから、軍部の管轄だよ!!」
「リナは総料理長なんだから、銀海、王宮の管轄だ!!」
気付けば、料理はさておき、 莉奈(ほんにん) 放ったらかしでモメ始めていた。
莉奈が何処の誰の管轄なのか、各々が主張し自分達のモノだと主張していたのだ。
王宮で料理は作ってはいるけど、確かに管轄はどこでもない。フェリクス王も何処とは言ってはいなかった。
こんな事でモメるなんて、想定外だから決めてはなく自由にさせていたのだろう。
―――コ・ワ・イ!!
莉奈は、本気で主張し合う人達に、ドン引きを通り越して恐怖を感じていた。莉奈的には、どこに所属もする気もないし、料理人になるつもりもない。
だけど、なにやらヒートアップしていて、何か口を挟める感じではない。
そしてコレ、最後に莉奈はどうしたい? とくるパターンだと思うと顔がひきつる。
「俺達がモメても仕方がない」
「あぁ。そうだな、リナ自身はどうしたいんだ?」
「リナに聞けばイイ!!」
結局、そう結論つけた皆は、予想通りに一斉に莉奈を見た。
…………が。
―――いなかった。
危険を察した莉奈は、すでにエギエディルス皇子を引き連れて、コッソリと厨房から姿を消していたのである。
「「「…………」」」
莉奈がいつの間にかいない事に、皆は呆気だった。いついなくなったのだろう。
そして、いなくなった事で一同思考が止まり頭が冷えた。
自分達がモメても仕方がないと、冷静になるのであった。