作品タイトル不明
209 大きくな~れ?
厨房に戻ると、皆が満面の笑みを浮かべていた。
「マヨネーズウマイな!!」
「野菜につけても美味しかったよ」
「じゃがいも好きじゃなかったけど、つけるとアリ」
「「「マヨネーズ最高!!」」」
マヨネーズの味見を終えた料理人達が、初めての味に歓喜に沸いていた。ボウルを見れば舐めとった様にピカピカしている。
「あ~そう」
ここまで歓喜に沸かれると、逆にテンションが下がる。
ボウルの光り具合を見る限り、絶対にマヨラーが誕生したに違いない。
「タルタルソースってのは?」
リック料理長がキラッと目を輝かせていた。
エギエディルス皇子に説明していた声は、マヨネーズを食べる事に必死で聞こえてなかったらしい。
とにかく、マヨネーズを使う事は伝えていた……そして、この瞳。リック料理長は絶対マヨラーになった気がする。
「……」
「え? 私のお腹に何か付いてるのか?」
莉奈が思わずリック料理長のお腹を見たので、何事かと自分のお腹を擦りながら訊いた。
お酒も好き。揚げ物好き。マヨネーズも好きになった。そして……運動はしない。
……となれば……と莉奈は思わず見てしまったのである。
これから絶対に太る。味見もしているのだから太る、肥える。
「少しお腹が出てきたね?」
フフッと莉奈は、悪魔の様に笑った。そう……リック料理長のお腹は以前に比べて少しばかり、ポッコリしてきていた。
よく味見もしているし、晩酌も増えたと言っていたから、酒の肴も増えたに違いない。とくに揚げ物が……ふふっ。
「……え゛?」
声が思わず裏返ったリック料理長。最近身体が重くなってきたし、なんならズボンがキツくなってきた様な気がしてはいた。
だが、気のせいだと信じたかったし、言い聞かせていた。なのに莉奈に言われて、気のせいではないと思い知らされたのだ。
「元気に大きく育つとイイね?」
改めてリック料理長のお腹を見て、フフフッと実に愉快そうに笑うと、そのお腹を優しく優しく撫でた。
この王宮、ポッチャリ第1号はリックだとして。2号3号とまだまだ、量産させてやるぞ……と辺りを、お腹廻りを見渡した。
「ひいっ。いやいやいや……育てないから!!」
リック料理長は背筋がゾッとした。お腹を撫でる莉奈に脅威を感じたのだ。
あくまでも優しく撫でる莉奈から慌てて離れ、汗水垂らしながら手や首を大きく横に振った。
怖い!! 妊婦ではないのだ。これ以上、お腹を育てさせてたまるか……と否定する。恐ろしい事を言わないで欲しい。
「皆のお腹も大きく育ちますように」
「「「おっ俺達も育てないから!!」」」
莉奈の異様な視線をお腹に感じ、皆も一斉にお腹辺りを押さえて手や首を振っていた。莉奈の視線が恐ろし過ぎる!!
◇◇◇
顔面蒼白になり寒い冬みたいに、ブルブル震える皆を横目に作業に戻る莉奈。
「では、皆々様のお腹を育てるソース。タルタルソースを作りたいと思います」
先程残しておいたボウルを手に、実に楽しそうであった。
このソースはもれなく、揚げ物につけるから余計に太るだろう。実に愉快愉快。
「「「…………」」」
皆は、自分の顔がひきつるのを感じた。なんてソースを作ろうとするのだ。お腹を育てるソースなんて恐ろし過ぎる。
「タルタルソースは、マヨネーズにピクルス、水でさらした玉ねぎ、茹で玉子を微塵切りにして入れて混ぜれば出来る」
莉奈はそう言いながら、手際よくトントンと包丁を動かしすべてを微塵切りにしていた。
サラダ用の水でさらした玉ねぎがあったから、それを利用させて貰った。なので、簡単に出来た。後は塩と胡椒で味を調えるだけ……胡椒はいつも通り使わないけど。
「マヨネーズの時に言うの忘れてたけど、酸味を弱めたいなら、牛乳や生クリームを少し加えるとまろやかになるし、大人の味にしたいなら粒マスタードやホースラディッシュを入れるのもアリ」
ワサビを入れてもイイけど、西洋わさびしか見当たらないから仕方がない。アレンジの仕方さえ分かれば、料理人達は色々試すに違いない。
なんでもそうだけど好みはあるし、いつも同じではツマラナイからね。具材に合わせて変えてみるのも楽しいと思う。
家ではピクルスの代わりに、らっきょうを入れたりもしたけど弟には大不評だった。だから、家のタルタルソースはピクルス1択になったけど。
「それをどうするんだ?」
興味津々のエギエディルス皇子が、横からひょこっと出てきた。
食堂の窓から見ているだけでは、飽きたみたいだ。
「エネルギッシュ殿下」
「……な……なんだよ」
「これからチキンカツサンドなるモノを作りたいと思いますが、サイドメニューはいかが致しますか?」
莉奈は面白そうに、エギエディルス皇子に尋ねた。
そうなのだ。タルタルソースを作ったし、どうせパンと食べるのだから、食べやすい様にサンドウィッチにしようと考えたのである。
なら、ジャンクフードの鉄板 "セット" にしてしまえ……と。
「 "サイド……メニュー" ?」
自分の名前を適当に言うのはいつも通りだとして、サイドメニューとは初耳だ。急に呼ばれて構えてみたものの、なんだろうと首を傾げた。
「定番のフライドポテト……あるいはオニオンリングのお2つからお選び頂けますが、どちらに致しますか?」
首を傾げた皇子にほっこりしながら、某ハンバーガー店の様に訊いてみた。選べる楽しさってあるよね?
サンドウィッチにポテト、ドリンクを付けたらジャンクフードの定番セットだ。
「「「オニオン……リング」」」
皇子だけに訊いたのに、皆が生唾を飲み込んでいた。
お腹が空いているから、余計に興味津々らしい。
「オニオン……玉ねぎを……どうするんだ?」
オニオン=玉ねぎ。だが、リングはなんなのか考えるが、分からなかった。
「輪切りにした玉ねぎをチキンカツの様に、パン粉をつけて揚げたモノでございます。玉ねぎが甘くて大変美味しく頂けます」
オニオンリングのある店なら、私は必ず頼む。揚げただけで、なんであんなに美味しくなるのだろう。
「オニオンリングにしてくれ!!」
生唾を飲んだエギエディルス皇子は、元気よく返してきた。
フライドポテトは以前、食べた事もあるし味は想像出来る。オニオンリングは初めてだ。なら食べてみたかったのだ。
「かしこまりました。ではお飲み物は、ククベリーかブラックベリーのミルクジュース。またはリンゴジュースからお選び頂けますが、いかが致しましょうか?」
「……っ!?」
飲み物まで付いてきて、それまで選べる事にエギエディルス皇子は軽くパニックになっていた。
どれも美味しい飲み物だ。オニオンリングにも驚いていたのに、飲み物まで付いて選べるなんて、夢の様だった。
「クク……いや……ブラック……。いや、リンゴジュース。リンゴジュースにしてくれ!!」
エギエディルス皇子が、一生懸命考えながら言う姿はなんだか可愛くて仕方がない。アレもコレも食べたくて仕方がないのだろう。
可愛い……可愛い過ぎる。
莉奈は萌えて、口許が綻んでいたのだった。