作品タイトル不明
206 魔法の道具【魔導具】
「お前なぁ」
魂が抜けきった様な表情をしている莉奈には、苦々しい笑いしか出ないエギエディルス皇子。
王から賜わった物を、こんなに嫌がる人間なんて後にも先にもコイツだけだろう。
あまりの拒否に可哀想にさえ思えてくる。面白いけど。
「ナゼコンナイヤガラセヲ……」
魂が還らない莉奈は虚空を見ていた。余程嫌らしい。
「嫌がらせじゃねぇよ。番を持ったんだからココに良く来る事になるだろ? そうしたら往復が大変だろうってソレを渡されたんだよ」
竜の世話……とまではいかないが、コミュニケーションはとる必要がある。徒歩では時間が掛かるし、莉奈が馬に乗れるとは思えない。
緊急性があった時に、すぐに行く必要もある。竜騎士になればペンダントでなくとも、違う物や形をした転移の魔導具を渡されるのである。
莉奈が特別な訳ではない……たぶん。エギエディルス皇子もその辺はあまり自信がない。
「 "魔王の館" に行く必要性が見えない」
「お前……仮にも俺の兄上の宮を "魔王の館" とか言うなよ」
そう言って机に突っ伏した莉奈には、苦笑いしか出ない。
"魔王の館"とか、弟の自分の前で良く言えるな……と怒るより呆れていた。そんな事を平然として言えるのはコイツだけだろう。
「こんなの渡して……寝首を掻かれるとか、思わないのかな?」
まぁ。フェリクス王の宮に行けたところで警護兵はいるのだから、簡単に自室に行けるとは限らない訳だけど。
「「「寝首を掻こうとするな!!」」」
エギエディルス皇子、リック料理長、マテウス副料理長は思わず叫んでいた。ナゼそんな話になる。
そんな発想をし、それを口にするだなんて莉奈くらいなモノである。想像も口にするのも、普通なら畏れ多くて出来ない。
「マジな話。ナゼ金天宮に行ける様になってるのかね?」
仲良くやらせて貰っている末の弟 "エギエディルス皇子" ならまだ分かる。全っ然仲良くないフェリクス王の宮。いわゆる自室にナゼ行ける仕様になっているのか。
どう考えても理解が出来ない。
「面白いからじゃね?」
疑問を投げ掛けてみたら、弟皇子からの即答。
"面白い" ってどういう事だよ。
「却下―――っ!!」
莉奈は叫んでいた。
そんなくだらない理由で一般市民を、自室に来れる様にするなんてあり得ない。却下だ!!
「金天宮にも行けるんだから、自分で返してみろよ」
エギエディルス皇子は、諦めの悪い莉奈に笑っていた。
兄は今までの育った環境、経験や立場から、人を身近に置く事を嫌っている。その兄王が自ら懐に来てヨシ……と許可したのだ。
莉奈の事は気に入っている証だ。そうなのだから、それを突き返した所で、また返って来るに違いない。
「……」
莉奈は押し黙った。いらん……と返せるのだろうか?
金天宮にまで行けるのは予想外だけど、アッチコッチ行けるのは正直嬉しい。ふむ。行かなきゃイイ訳だし……。
「……まっ。いっか」
と結論付け、ハハハと空笑いした。
だって、わざわざ行かなきゃイイ。恋人ではないのだから自室に呼ばれる事なんてないだろう。なら、ありがたく戴こう。
「よし。そうとわかれば、試しに行こう!!」
莉奈はガタリと立ち上がり、食堂から出て行こうとした。
金天宮はともかく。色々行けるのなら試さなければ……。いざゆかん!!
「おいおい!! 料理の途中だろう!?」
「マヨネーズはどうしたよ?」
料理の途中なのに、サラッと何処かへ行こうとする莉奈を、リック、マテウスの2人は慌てて止めた。
忘れるとは思わなかったし、まさかの放置。初めて魔法の道具 "魔導具" を手に入れ、莉奈は料理の事なんてスッポリ頭から外すと思わなかった。
「気合いで作りたまえ!!」
「いやいやいや……作り方を教わってないし!!」
莉奈の無茶振りに、2人は苦笑いしか出なかった。卵黄を酢と混ぜる処までしか分からない。気合いでどうにかなるなら、今までどうにかなっていただろう。
「そこはホラ~。料理長と副料理長の力で~」
莉奈は料理より、魔導具で遊び……使いたい一心で、首を傾げて可愛らしく言ってみた。マヨネーズなんかより魔法の道具だ。
「「作り方が分からないモノは、さすがにどうにもならないよ」」
だが、即刻却下された。ごもっともである。
「帰りにイヤでも使えるだろ?」
エギエディルス皇子が呆れていた。
すぐに試さなくても後で……いや、これからいくらでも使えるのだ。今である必要性はない。
「今がイイのに~」
ブツブツ文句を言う莉奈は、リック料理長とマテウス副料理長に両脇をホールドされ、ズルズルと厨房に引き戻されて行ったのだった。