作品タイトル不明
202 サクッとジューシー、ロックバードのチキンカツ
「揚がったのか?」
「揚がったんだよな?」
莉奈が、キツネ色に揚がったチキンカツをバットに乗せていると、背後はざわめき始めた。
揚がったけど、なんなんだろう? この急かされ感。
チキンカツの乗ったバットを、まな板に持って行こうとすれば、皆が皆、背後霊の様に後をゾロゾロ付いて来る。
……え? なにコレ。
背後霊も実際いたとしたら、怖いとかいう以前にウザそうだなと……こんな状況の中、莉奈は苦笑いしていた。
アレも1人だけ背後にいるから怖い訳で、こうやって何十人もゾロゾロ憑いていたら "怖い" より "ウザい" んじゃないかな?
まぁ……前にいたら前にいたで、もっとウザいけど。
そんなくだらない事を考えながら、揚げたてのチキンカツをザクザクと一口サイズに切っていた。もちろん、皆の味見の分もね。
「ほい。とりあえず味見」
と切ったチキンカツを大皿ごと皆に手渡し、自分は早速揚げたてを1つ口に放り込んだ。
……モグモグ。
うっほ! やっぱり、ロックバードの鶏肉……超美味しい!!
生パン粉と乾燥パン粉と、まぜこぜにしちゃったけど、カリッさくっジューシーだ。
時間経つと、中から溢れる肉汁で衣がしっとりしそう。それくらい、旨みエキスが溢れてくる。
「むふっ。うっま~!!」
「んふーっ!? 何コレ」
「はふっ。周りがサクサクしてて、中がジューシー!!」
「からあげとは違うけど、これはコレで美味しい!!」
「ウマイな。パン付けて揚げると、こんなにウマイのかよ!」
味見した人達は口に入れた瞬間から驚きの声を上げていた。
パン粉はサクッとしていて香ばしい。肉を噛めばロックバードの旨みが溢れてくるのだ。噛み始めたら口を開くと、口の端から肉汁が垂れてしまう程である。
「ちょっと!!」
皆が歓喜を上げつつ、味見をしている最中に、誰かの手をパシッと叩く音がした。
「痛ぇな。余ってるんだからイイじゃねぇか」
不服そうな声が聞こえる。
どうやら余ったチキンカツを、口にしようと手を伸ばしたら叩かれたみたいだ。
「良くねぇよ。余ってるからって勝手につまむなよ」
「そうだよ。皆だってもう1つ食べたいつーの!」
「自分勝手は良くない」
「「「そうだそうだ!!」」」
叩いた料理人の言い分に、賛同した人達が次々と追随する。
一口カツではなく切り分けたカツだったためか、皆が取った後に何個か余っていたらしい。それを真っ先に食べ終えた人が、シレッと掠め取ろうとした事でモメ始めていた。
はぁ……すぐモメる。
莉奈は子供の様にモメる人達を横目に、大皿に余っているチキンカツを小皿に手早く移した。そして、自分の 魔法鞄(マジックバッグ) にしまう。
あるからモメる訳で、ならばなかった事にすればイイ。
「「「……え?」」」
無言で残りをしまわれた皆は、皿と莉奈を交互に見ていた。
え? しまっちゃうの? くれないの? と。
「はいはい。味見はおしまい。チキンカツとナスの揚げ浸しに分かれて、とっとと作業に入る」
そんな皆の視線をものともしない莉奈は、手をパンパン叩き作業に促した。作ればある訳だから、ジャンケンをするにしても時間の無駄だ。
そんな事をしてる間に、近衛師団兵が来てしまったら、余計に面倒である。
「「うぃ――す」」
なんだか納得がいかない気もするけれど、莉奈に逆らえない皆は渋々作業に入る事にした。
「じゃ。皆が作業にあたってる間にリックさん、マテウスさん。後はこっちの料理人の6名は、マヨネーズとタルタルソース作りを覚えて貰います」
と数名をマヨネーズとタルタルソース作りに集める。
マヨネーズだけでもイイけど……チキンカツと云えばタルタルソースかな? と個人的には思う。
出来れば醤油やソースもあればイイのだけど、ないものは仕方がない。
「「「マヨネーズ? タルタルソースって?」」」
やっぱり疑問の声が上がった。
マヨネーズもないのだから、タルタルソースは当然知らないよね。
「う~ん。説明が難しいけど……卵と油とお酢で作るソース?」
まんまの説明しか出来ない。近い物がないからだ。
「ドレッシングみたいな物かい?」
リック料理長が訊いてきた。
そう、この世界……お酢と油で作る簡単ドレッシングはあるんだよね。だけど、マヨネーズはドレッシングではない。
「違うよ? う~ん、説明が難しいからまずは作って見せるよ」
これしかない。格闘家が拳で語るなら、料理人は料理で語ればイイ。
……まぁ。私は、料理人じゃないけど……。