軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

184 莉奈はついついボヤく

「リナ……あなた、なんて事を言うのよ!!」

ラナ女官長もテーブルを慌てて拭きつつ、困った様に言った。

毒など入れる訳がないけど、皇子の前でなんて事を言うのだろうと思っているに違いない。莉奈の変な言葉に、万が一にでも皇子が不信感を抱いたりしたら……と困惑する。

「殿下に毒なんか入れる訳がないでしょ!!」

モニカも、エギエディルス皇子にハンカチを手渡しつつ、ハッキリ否定した。たとえ入れるとしても肯定するバカはいないだろうけど。

「まぁ、そうかもしれないけど。普通、皇子様って毒見係がいるんじゃないのかな? って思ったから」

「今さらかよ!!」

エギエディルス皇子がツッコんでいた。

散々食べ物を作って出しておいて、そんな疑問が今さら出てくるとは思わなかったのだ。

「今さらだね~」

いや、以前から思ってはいたけど聞かなかっただけだった。

莉奈は確かに今さらだな……と思いつつ、紅茶にブラックベリーのジャムを入れた。

ジャムは、ものによっては出来立てが1番美味しいのだが、厨房で味見なんかしていたら、地獄を見てしまいそうなのでしてなかった。鍋に残ってるのはすぐに取られちゃうしね。

だってあれから、シュゼル皇子に渡すべくコレとアイスクリームを作っていたけど、視線が半端なく怖かったし。

勿論フェリクス王には、"マティーニ" 飲み比べセットを執事イベール経由で渡してある。カクテルを作っていた時も酒呑み達の視線は痛い程突き刺さっていた。

「毒には慣れてるし……解毒薬は一応持ってる」

すべての毒に効くわけではないけど……と小さく呟く。後は詳しくは言えないが、毒見的な係もいると苦笑いしている。

それよりも、今は莉奈が紅茶に入れているブラックベリーのジャムが気になるのか、マジマジと見ていた。

「慣れてるのか……皇子様も大変だね」

莉奈は心底そう思った。王族は身体を毒に慣らしていると本か何かで読んだ事はあるけど、実際にそうであるとは露ほども思わなかったのだ。

慣らしておかなければいけない現状がある、あったのかもしれない。

こんなに元気で可愛い末の皇子も王族である以上、言わないだけで色々あって大変なのだろう。

なら、自分は毒など全くない美味しい物を、これからドンドン作ってあげようと思ったのである。

「ん? 飲みたいの?」

エギエディルス皇子がジッと見ていたので訊いてみた。ラナ女官長、モニカもガン見しているけどね。

――――コクン。

と可愛らしく小さく頷くエギエディルス皇子。

ラナ女官長、モニカも見れば訊いてもいないのに、ブンブンと大きく頷いていた。

「なら、2人も座って一緒にどうぞ」

と苦笑いしながら、莉奈はブラックベリーのジャムの小瓶とスプーンを差し出した。

立ったままではなんだし、なんだったら一緒に飲んだ方が楽しいし。

莉奈がそう勧めると、2人はエギエディルス皇子にお伺いを立て、了承を得てから席に着いた。

「そういえば、ブラックベリーのアイスクリームまだ食べてないや……皆も食べる?」

シュゼル皇子に渡す事ばかり考えていて、味見しかしていない。少しくらい食べてもイイだろう。

「「「食べる!!」」」

3人の嬉々とした返事が、素早く返ってきた。

ラナ女官長、モニカにしたらアイスクリームなんて初めてに違いない。

ジャンケンに勝ったのが旦那のリック料理長だったら、ラナ女官長は口に出来たのだろうけど。勝ったのはマテウス副料理長だったし、口には出来なかったのだ。

あの時のラナ女官長、モニカの 表情(かお) は、ある意味忘れられないモノとなっていた。

莉奈は3人の熱い視線を浴びなから、ブラックベリーのアイスクリームが入った小さい寸胴を出して、アイスクリームをスプーンで器によそった。

ついでにまだ残っている、ミルク味のアイスクリームもよそう。食べ比べなんて超贅沢である。

それを見ていた3人は、瞳がキラキラ……モニカはギラギラしていた。ミルクのアイスクリームはサプライズな感じで嬉しいみたいだ。

「では、皆様どうぞ召し上がれ」

3人の前に2種類のアイスクリームを出した。

クリーム色のミルクのアイスクリームに、淡いピンク色のブラックベリーのアイスクリームがガラスの器にのっている。

ちなみに、赤黒いブラックベリーの果肉は、潰すと濃い赤色の果汁が出てくる。見た目と違い、特に黒くはなかった。

「はぁ……念願のアイスクリーム」

余程食べたかったのか、モニカはなんだかフルフル震え涙ぐんでいる。そんなにも食べたかったのか。

「シュゼル殿下を虜にした……アイスクリーム」

まだ口にもしていないのに、ラナ女官長は "ほぅ" とうっとりしていた。彼女も念願が叶って嬉しいのかもしれない。

「早く食べないと溶けるよ?」

莉奈は笑いながら、まずはブラックベリーのアイスクリームを一口パクリ。

濃厚クリーミーな舌触り、ブラックベリーの果肉が所々口に入り甘酸っぱくて美味しい。ドライフルーツにしなくても、これで充分である。

これ、日本で売ったらスゴい売れると思う。苺の味は濃いし、それに負けないくらい濃厚なミルクのアイスクリーム。

ブランドアイスも真っ青な仕上がりだ。

「ブラックベリーのアイス……すげぇウマイ! 果肉がゴロゴロしてるのがいい!」

早速、ブラックベリーの方から食べたエギエディルス皇子が、嬉しそうな声を上げた。たまに口に入る果肉が、アクセントになっているのが気に入った様だ。

「何これ……これがアイスクリーム……あぁ……」

一口含んだモニカが、感激の余り泣いていた。

泣くほど美味しいのか、念願叶って嬉しいのか……どちらもなのか。感無量って言葉が良く似合う。

「すごい滑らかで美味しい!! これ食べたらソルベなんて……」

ラナ女官長が、口の中でスッと溶けていく初めての感覚をゆっくり堪能していた。ソルベはどちらかと云うと、味の付いた氷菓子。滑らかとはほど遠い、ものだからだろう。

「ククベリーで作ってもイイし。ベリー同士で混ぜても美味しそうだよね~」

なんだったらミルクアイスに、別付けの濃厚なベリーソースをかけても美味しいだろう。莉奈はやりたい作りたい事ばかりで、ワクワクしていた。

「「「それイイ!!」」」

3人がハモった。こういう時の3人は実に息が合う。

「まぁ……チョコレートがあれば、お菓子の幅が広がるんだけど……」

莉奈はアイスクリームを口に含みながら、味を思い出していた。

豆に砂糖をまぶすだけの甘味しかない国に、チョコレートは高嶺の花だけど……。

でもあれば、ケーキにアイス、クレープと色々作れるし、なんだったらソースにして肉料理にも使えるし便利だ。

「「「チョコレートって何!?」」」

莉奈の小さなボヤきに、3人が食いついた。

「……」

なんで呟いちゃったんだろ。莉奈は遠い目をした。

何……って、説明するのがクソ面倒くさいし。莉奈は興味に瞳を輝かせる3人を、完全に無視してアイスクリームを堪能する事にする。

どうしてこの国の人達は、私のボヤきを放っておいてくれないのかな?

「「「リ~~ナ」」」

無視なんか出来る訳もなく、ここぞとばかりに息の合いすぎた3人が、莉奈を問い詰めるのであった。