作品タイトル不明
140 シュゼル・スペシャル
莉奈も皆同様、寸胴にウイスキー、ドライ・ジンを豪快にドバドバ入れていた。こんな豪快な作り方をした事がないので、面白く自然と口元がにやけていた。
その姿を見ていた皆は、マスクをしているからさながら実験。あるいは魔女の様に見える……と思った。
「それ、割合は?」
今後のためか、自分のためか、リック料理長が訊いてきた。
「ドライ・ジンが3、ハーリス・ウイスキーが1」
「ウイスキーはハーリスじゃなきゃダメか?」
他の領から来ている料理人が手を挙げた。莉奈が"ハーリス"と限定したのが気になる様だった。
「他のウイスキーでも大丈夫だよ? 味は変わると思うけど」
決めつける必要はないし……色々と試せばいいと思う。それがカクテルの醍醐味なのだから。
「なら、うちは "レナン" ウイスキーが特産だから、それで今度は割ってみるか」
とその料理人は大きく頷いた。その人の領の特産は、レナン・ウイスキーみたいだ。
ハーリス地方のは "ピート" 泥炭香が付いているのが特徴のウイスキー。レナン地方のウイスキーはどんな特徴なのかは知らないが、混ぜても問題はない。ただ、蒸留の仕方や香り付けが違うのなら、味は大分変わるだろう。でも、カクテルは人それぞれ好きに混ぜて、楽しめばいい。
ちなみに入れるお酒が変われば、当然名称も変わるのだが……面倒くさいので言わない。
「……ぁ」
莉奈は、スモーキー・マティーニを作り終えた時、ふと面白い事を思い付いた。
キョロキョロと辺りを見渡し、皆が各々カクテル作りに夢中になっているのを確認すると、大きいグラスにコッソリと "王家の秘酒" ドランブイを少し注ぎ始めた。
そして……再び見ていない事を確認し、ゲオルグ師団長から、慰謝料として貰った "ポーション" を適当に入れて混ぜる。
……その名もズバリ……【シュゼル・スペシャル】
アハハ……なんちゃって……。
莉奈は、一人ほくそ笑んでいた。
シュゼル皇子が、食事の代わりに飲んでいたであろう飲み物。
そう……"ポーション" と王家の秘酒 "ドランブイ" を混ぜた、莉奈オリジナル……"異世界限定カクテル" 誕生の瞬間である。
――――ポォ。
一瞬だが、それがうっすらと光った気がした。
「…………ぇ」
莉奈は小さく呟くと、額にたらりと汗が流れた。
ふざけて何も考えていなかったが……これは……調合してしまった感じ? ヤバイ……好奇心しかなかったよ。
ポーションは魔法薬だ、勝手に混ぜてイイ物ではなかったのか……と、今さらながら脂汗を掻く。皆ポーションを消毒液かドリンクみたいな感覚で、ホイホイ使っているから "魔法薬" だという事をすっかり忘れていた。
莉奈は【シュゼル・スペシャル】を慌てて手に取り【鑑定】してみた。
【シュゼル・スペシャル】
"ポーション" と "王家の秘酒" を特別な配合で混ぜた魔法薬。
〈用途〉
個人差はあるが10~30分程、 狂戦士(バーサーカー) 状態になる。その際受けたキズは、常人ではない速さで修復される。
〈その他〉
飲料水。
効き目が切れた後、異様な脱力感が身体を襲う。
――――は?
――――はぁぁぁ~~っ!?
……バ……バ、 狂戦士(バーサーカー) !?
…………ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ。
…………い、いらん物を作ってしまった。
狂戦士(バーサーカー) ってなんだよ!?
特別な配合ってなんだよ~~っ!!
なんかヤバイ事、間違いな~~し!!
莉奈は、皆が見ていない事を再び確認し…… 魔法鞄(マジックバッグ) にそれをそっとしまった。世に出したらダメなやつだこれは。
ふざけて作る物ではない。しかも……ナゼか【シュゼル・スペシャル】とか命名されてしまったし、怖くてこの世に出せない。
莉奈は【シュゼル・スペシャル】を 魔法鞄(マジックバッグ) に封印する事にした。