作品タイトル不明
123 テイスティング
「……溶ける前に、御賞味下さいませ」
莉奈は、フェリクス王に改めて勧めた。
せっかくのシャーベットが溶けてしまっては、なんの意味もない。早く食べて欲しかった。
「……あの……私には?」
フェリクス王の前にしか出してないので、当然シュゼル皇子から声が掛かった。
「まずは……フェリクス陛下に……ね?」
一緒に出してもいいけど、しっかり反応を見たいんだもん。
「………………はい」
仔犬みたいにシュンとして、素直に返事をした。
そう言われてしまえば、さすがに反論が出来ないらしい。
フェリクス王、エギエディルス皇子は、チラリと顔を見合わせると、苦笑いしていた。
他人に、こんな素直な反応を見せる、兄弟に驚きもあるが。
ここは、呆れるべきなのか……怒るべきなのか……はたまた嘆くべきなのか複雑である。
フェリクス王は、弟達の様々な視線を受けながら、ガラスの器を手に取ると、スプーンでジンライムのシャーベットを掬った。
「…………っ!」
半ばイヤイヤの様なフェリクス王は、一口 口に含むと目を見張った。
まずは口に入れた瞬間、ライムの爽やかな香りと酸味が……。
そして……次によく知る、お酒の香りと味が、口いっぱいに広がったのだから。
「…………これ……は……」
とフェリクス王の口端が自然と緩んだ。
どうせ甘さを控えた程度の、氷菓子だと思っていたのに、イイ意味で期待を裏切ってくれたからだ。
……よっしゃっ!!
莉奈は、心の中でガッツポーズを出した。
やっぱり作って来て正解だ。
フェリクス王、好みのシャーベットの様だ。
「……どうなのですか……? ソルベとは違いますか?」
シュゼル皇子は、期待を込め、せかす様に訊いた。
早く感想を聞いて、自分も食べたい……と。
「…………」
不敵に笑うと、もう一口掬った。煽っているかの様だ。
「…………兄上」
これ見よがしに食べて見せる兄王に、不機嫌そうに眉を寄せた。
「なぁ、なぁ、なんのシャーベットだと思う?」
エギエディルス皇子が、ワクワクして訊いた。
二口目を口に入れた……ということは、嫌いではない。
気に入ったまではわからないが、興味は持ったという事。
「……俺への挑戦か?」
さらに、不敵に笑う。
その言葉に、味が何か当てろ……という、挑戦ととった様だ。
「……まずは、ライム」
もう一口スプーンで掬い、今度は口の中で、ワインの様にテイスティングするフェリクス王。
なんだか、楽しそうに見える。
「……で?」
「急かすなよ」
早く答えてと、言ってる様子の末の弟に笑う。
困った様な小さな微笑みに、莉奈は、人知れず口を押さえた。
……なに、その顔。
……ドキドキするんですけど……!!
いくら、超がつく程の美貌でも、怖顔のフェリクス王。
そのフェリクス王が、末の弟にふいに見せる優しい微笑みは、莉奈の胸を跳ね上がらせていた。
「……酒……ジン……ドライ・ジンか」
莉奈が、クラクラと萌えていると……フェリクス王は三口目で答えに、行き届いたらしかった。
「正解!! さすがフェル兄」
エギエディルス皇子は、すぐに当てた兄に満足気。誇らしげだった。
「……旨い?」
「…………旨い」
旨い……と言え。そんな 表情(かお) をして訊く弟に苦笑いする。
だが、確かに旨かった。
どうせ、甘いだろうと、高を括っていただけに、驚きが大きい。
「リナ!! 旨いってよ!!」
自分の事の様に喜んでいる、エギエディルス皇子に、莉奈は自然と目尻が下がった。
可愛い子だよ。
「聞いてたよ……陛下のお口に合い幸いです」
ニコリと笑った。
内心ドキドキものだった。お酒が好きだからって、このシャーベットが口に合うかは別だしね?
「……では!!」
私にも……とシュゼル皇子は、きれいな蒼い瞳に期待を込めて言った。次は、私の食べる番だ……と。
「……帰ろっか、エド」
と莉奈は、それを無視して立ち上がる。
フェリクス王には気に入ってもらったし。満足満足。
「………………ふぇ?」
「……えぇ~~!?」
シュゼル皇子の気の抜けた様な声が、エギエディルス皇子の驚いた叫び声にかき消されていた。