軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

117 フェリクス王とマティーニ

酒呑み達の熱い視線を感じながら、莉奈は、もくもくとカクテルを作っていた。

とはいえ、このカクテル。ものスゴい簡単なのだ。

材料はさっきも使ったジン……ドライ・ジンといわれるお酒。

それとドライ・ベルモットというお酒。

別名ノイリー酒。

これはハーブとかを入れた白ワインで、フレーバーワインの一種。

……で、オリーブの実。

ね? 材料は少ないし簡単そうでしょ?

カクテルを作る、混ぜるのに使うシェーカーは勿論、ミキシンググラスもないので、大きいグラスで代用する事にした。

ミキシンググラスは、んー……ビーカーを想像してもらえば近いかも。

「エドくんや、このグラスに少し氷を貰えんかのぉ?」

と莉奈は、混ぜる用とは違う、大きいグラスを両手で差し出した。

魔法で冷やしてもいいけど、魔法を使えない人のために極力魔法は使わない。氷はほら、王宮以外にもそのうち冷凍庫が出来るだろうし。時短って事で……。

「……ったく……俺は、氷売りじゃねぇんだけど?」

とブツブツ言いながらも、グラスに1㎝くらいの粗めの氷を、こんもりと、入れてくれた。優しい子だね。

「すまないねぇ。エスペラント皇子」

「………お前は、ダレなんだよ」

恭しく氷を受け取る莉奈に、エギエディルス皇子は、笑っていた。

そして、違う領地から来ている料理人達は、そんなやり取りをしている莉奈を見て、只者ではないとさらに誤認識していた。

氷を受け取った莉奈は、空の大きいグラスに氷を適量入れる。そして、ドライ・ジン、ドライ・ベルモットを、5対1の割合で入れマドラーで軽く混ぜた。

割合は、4対1でもいい。好みだから。

さて、ワイングラスにはオリーブを1個入れ、その上から混ぜたお酒を氷を入れない様に、気を付けて注ぐ。それで、出来上がり。

欲をいえば、カクテルグラスかシャンパングラスの方が、断然華やかだけど、今回は……ワイングラスでいいかな。

オリーブの実だって、本音を言えば、カクテルピンに刺して入れたいとこだけど、深いワイングラスではどのみち沈むし。

"莉奈オリジナルカクテル" って事で……。

だって、カクテルなんて、レシピがあってもない様な物だしね。

……どういう事かというと、そのカクテルの基本レシピはあるけど、店やバーテンダーによっても分量や配合が違うんだそう。

店やその人の、特色、オリジナリティがあるのだ。

だから、お父さんの好きなお店と、お母さんの好きなお店は違ったしね。

「……キレイだな……」

皆に見せる様に振り返ると、ほぅ……とマテウスが呟いた。

うっすらと黄色く色づいたお酒は、光を反射してキラキラと輝いている。下に沈んだオリーブの実が、妙に可愛らしさを演出していた。

そう、カクテルは美しいのだ。色はキレイだし、飾り付けもすれば、華やかで気品さえある。だから、女性は好んで飲む。

だけど、華やかに騙されると酔う。ジュースと割るからスゴい飲みやすいからだ。

で、ついつい飲み過ぎると、強いお酒も使ってるから、変な男と飲んだりすれば……身の危険が……ね?

一緒に飲む相手も注意しないとならない。

「これのどこが、フェル兄なんだ?」

フェリクス王のためにある "お酒" というより、このキレイな透明感はシュゼル皇子の様な気がするのだろう。

「これね "マティーニ" って名前のカクテルなんだけど」

「……ん?」

「別名、"カクテルの王様" っていうんだよ」

カクテルの中の最高傑作と称賛される、このマティーニ。

別名、カクテルの王様。

ね? フェリクス王のために、ある様な飲み物じゃない?

「「「……カクテルの……王様……」」」

マティーニを見ながら、皆が呟いた。

――――ゴクリ。

生唾を飲み込む、飲んべえ達。

新しいお酒は、興味を惹いたようだ。

「……カクテルの王様か……お前……なんで、そんなに酒に詳しいんだよ?」

未成年者のくせに。という表情をエギエディルス皇子はしていた。飲まないはずなのに、何故そんなに詳しいのか気になるのだろう。

……普通はそう思うよね?

「お父さんと……お母さん……お酒が好きだったんだよ」

莉奈は、遠くはない昔を思い出しながら、微笑んでいた。

誕生日には、毎年お父さんがお母さんをイメージして、オリジナルカクテルを作ってあげていた。

だから、カクテルの事は少し覚えてる。

これは、お母さんが父の日に、作ってあげていたお酒だ。

いつも……ありがとう……って、想いを込めて。

「……リナ……」

気付いたら、ラナ女官長の腕の中に引き込まれ包まれていた。

そう……優しく優しく包まれていたのだ。

泣きそうな 表情(かお) を、していたからかもしれない。

「今の、あなたには……私達がいるから」

ラナはそう言って、優しく優しく頭を、背中を撫でてくれていた。還れない莉奈を思って、辛いことを包み込んでくれている様だった。

…………温かい。

……心が、温かい。

……ラナ……ありがとう。