軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

107 陛下の御前ですが……なにか?

「……何を、持って来てくれたのですか?」

莉奈が、 魔法鞄(マジックバッグ) から小皿やら、フォークやらを出し始めたので、シュゼル皇子がほのほのと訊いてきた。

「とりあえず、エドがリクエストした "からあげ" を御賞味して頂こうと……」

大皿にたっぷりのったからあげを、コトンコトンとテーブルに置いた。そう、コトンコトン……二種類作って来たのだ。

からあげを出した瞬間から、揚げ物特有の、香ばしい匂いが部屋を包み込む。

「コッチのは、この間のと違うのですね?」

シュゼル皇子が、片方の皿に載ったからあげが、この間とは違うのに気付き訊いた。衣は白くはなく、緑の葉が混ざっているのだ。

「緑色のは、衣に刻んだバジルの葉を混ぜてあります。お好みでレモンを搾ってかけて頂くと、サッパリと召し上がれると思います」

揚げてるから、バジルの香りはほのかにするくらい。

お酢があるから、お酢でもいいけど、爽やかな香りのレモンがいいと思ったのだ。まぁ、柑橘類なら大概は大丈夫。

本音をいえば、ニンニク醤油味が食べたい。ニンニクはあったが、醤油がない。世界中を探せばあるのかもしれないが、現時点でないのだから仕方がない。

「へぇ、レモンなんかかけるのかよ」

興味津々のエギエディルス皇子が、生唾を飲み込んだ。

からあげの匂いに対してなのか、レモンの酸っぱさを連想したのかは分からない。

「酸っぱいのが苦手だったら、無理してかけなくてもいいよ?」

「お酢は苦手だけど、レモンは興味があるから、かけてみる」

エギエディルス皇子は、新しい食べ方に挑戦してみるみたいだった。

「では、皆さん、いただきましょう」

シュゼル皇子が、ニッコリと微笑んだ。

あのポーションドリンカーのシュゼル皇子が、食べ物を前に自らが進んで、"いただきましょう" と言うなんて、ものスゴい進歩だ。

もう、ポーションは必要なさそうである。

「いっただきま~す」

当然の様に、莉奈もその輪に入る。

普通何でもない平民が王と食事なんて、絶対にあり得ない。ましてや、フェリクス王が一緒に食事をする事を、許可をしていない。

なのに、しれっと入っているのだから、フェリクス王、宰相兄弟は顔を見合わせ笑っていた。もはや、家族の様なのだから。

イベールは莉奈と違いしっかりと、フェリクス王にお伺いを立てて食べ始めていた。いくら、莉奈が良いと許可を出そうが、何も効力がないからだ。

「はふっ……ん~カリカリが堪りませんね」

シュゼル皇子がさっそく、塩からあげを一口。まずは、この間食べた味から、堪能しようと思ったみたいだ。

「…………」

フェリクス王は、ほぼ無言だが、箸ならぬフォークが止まらないのだから、気に入ってくれているのだろう。

「………………」

イベールに至っては、もはや無心。いつも通り無表情。

だが、遠慮しつつもフォークは、次のからあげに伸びているのだから、好きな味だと思う。

……よしよし。からあげは鉄板だな。

「……うっま! やっぱ、からあげ最高!!」

エギエディルス皇子は、嬉しそうに塩からあげに、カブリついていた。

「エドは、からあげ好きだね~」

莉奈も、当然の様に塩からあげにカブリつく。

だって、厨房や食堂では、精々2・3個しか口に出来ないし。

ここなら、フェリクス王達のせい……じゃない "分" として多目に持って来れる。ついでに、一緒に食べてしまえば誰にも分からない。

沢山食べたい時は、王族に紛れてしまえばいいのか……。

莉奈は、あり得ない事を真剣に考えていた。

「だって、周りはカリカリして、中は肉汁溢れて旨いんだもんよ」

「アハハ……なら、ハンバーグとか、トンカツとかも好きかもね~」

弟も好きだったし、何より子供には人気のあるメニューだ。チーズを載せて焼いたハンバーグなんてたまらない。

ガッツリ系が好きな、フェリクス王も多分好きだろう。

「ハンバーグ? トンカツって何だよ? 旨いのか!?」

やっぱり、食い付いてきた。

「美味しいよ。エドが絶対好きな味」

「作ってくれ!!」

うん、言うと思った。

「材料があったら、そのうちね~」

乳牛しかいないみたいだし、豚も少ない。鶏肉のハンバーグなんて、サッパリ過ぎてもの足りない。ハンバーグは牛か豚でしょう?

あぁ、でも、チキンカツは出来るか……。

「あ……そっか材料か……」

エギエディルス皇子は、あからさまにガッカリしていた。

莉奈の事だから、サクッと作ってくれると思っていたのだ。だが、材料がない以上作りようがない。

「何が必要なんですか?」

バジル入りのからあげに、レモンを搾りかけながらシュゼル皇子が訊いた。見たところ、もう3個目に突入している。

フェリクス王なんか、5個は食べているだろう。イベールも3個くらいか。自分は……まだ1個……だ。

…………みんな、早い~!!

気持ちのいいくらいの食べっぷりに、作り手としては満足なのだが、自分の分がなくなる危機感も同時に抱いた。男共の食べ方の早さを舐めていたのだ。

……モグモグモグモグ。

莉奈は、食べる事に集中する事にした。

話をしていたら、あっという間になくなってしまうからだ。

「…………リナ?」

無視された形のシュゼル皇子は、なんとも云えない表情をしていた。まさか、無視されるなんて思わなかったのだろう。フェリクス王達も、食べる手を止めて莉奈を見る。

……モグモグモグモグモグモグ。

莉奈は視線を感じ、返事の代わりにニッコリ微笑み、さらにもう1つからあげを口に運んだ。

……モグモグモグモグモグモグ。

「……お前……必死過ぎるだろう?」

兄を無視するどころか、さらに食べ続ける莉奈にエギエディルス皇子が呆れ笑いしていた。

「明日、死ぬとも知れぬ我が身……後悔はしたくないのです」

とさらに莉奈は、からあげを口に運んだ。

「……ブッ……お前の身に、何が起きるんだよ!?」

エギエディルス皇子は、吹き出した。

マジメに言ってみせた莉奈の、変な物言いにガマン出来なかったのだ。至って健康そうなお前に、何が起きるのだ……と。

「フェリクス陛下に、バッサリ斬られるやもしれません」

「……斬らねぇよ」

サラリとそんな、冗談か本気か分からない事を言った莉奈に、くつくつと、フェリクス王が笑いながらツッコミを入れた。

魔王と呼ばれる程の、冷淡さを持つフェリクス王だとしても、無闇に人をバッサリ斬ったりはしないらしい。

まぁ……魔王と勝手に呼んでるの私だけだけど……。

「……そもそも、斬られる様な言動を取らなければ宜しいのでは?」

イベールが、呆れたようにため息を吐いた。正論だ。

「無理です」

莉奈は、断言した。何がフェリクス王の逆鱗に触れるかしらない。そして、もうこの口を黙らせる手段は自分にはない。

「アハハ…………無理か!!」

とフェリクス王は、怒るどころか大笑いだ。"気を付けます"ではなく断言した莉奈が、愉快らしい。

「…………お前」

「…………リナ」

エギエディルス皇子はさらに呆れ、シュゼル皇子は困った様な表情をしていた。無理ではいけない……だろう。

「………………」

イベールは、無言、無表情でただただ、莉奈を見ていた。

呆れているのか、怒っているのか、分からない。

……モグモグモグモグ。

莉奈は、皆のいろんな視線を感じつつ、強靭なメンタルでさらにからあげを食べるのであった。