軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

贅沢美味しいクロワッサンのフレンチトースト

フレンチトーストは美味しい。どんなパンで作っても美味しい。その中でも、クロワッサンを使ったフレンチトーストは格別だと 悠利(ゆうり) は思っている。そんなわけで、本日の朝食はちょっと豪勢にクロワッサンのフレンチトーストである。付け合わせはサラダとスクランブルエッグとスライスベーコンだ。

「なぁユーリ、何でわざわざクロワッサンでフレンチトースト作ってるんだ?」

「美味しいから」

「美味いのは解ったけど、何で朝ご飯にフレンチトースト?」

たぷたぷの卵液の中に漬け込まれている縦半分に切られたクロワッサンを見て、カミールが不思議そうに問いかける。フレンチトーストが美味しいのは知っているが、朝ご飯に作ることは殆どないメニューだ。何でそれを今日は? という疑問だった。

そんなカミールに、悠利は大真面目な顔でこう答えた。

「今日はね、お休みの人が多いからだよ」

「……あぁ、なるほど」

悠利が何を言いたいのかを、カミールは理解した。フレンチトーストは焼きたてが美味しいので、一つ一つ皆がやってきてから調理することになる。全員が仕事や修業に出かける日では、ちょっと対応が難しいと言える。

今日は休みの者が多いという言葉の通り、いつもならぽつぽつと現れるはずの仲間達の姿はまだない。皆が起きてくる前に先に朝ご飯食べちゃおうねーという感じで、悠利はフライパンの上にフレンチトーストを載せて焼いていた。

バターの香りと、卵液をたっぷり吸い込んだフレンチトーストが焼ける香ばしい匂いが台所に充満する。じゅわーという良い感じの音を聞きながら、悠利はその隣でスクランブルエッグを焼いている。

カミールは既に焼き終えているベーコンの隣にサラダを盛り付け、どうせならとグラスにオレンジジュースを注いでいた。お休みの日だからジュースを飲んでも良いよな、みたいな感じである。まぁ、別に冷蔵庫に入っている飲み物は、基本的に何を飲んでも良いのだが。

「ユーリ、オレンジジュースで良いか?」

「あ、うん。ありがとう」

楽しそうに笑うカミールに、悠利も笑った。お休みの日の小さな贅沢、みたいな感じの認識を共有している二人だった。

焼き上げたふわふわのスクランブルエッグを、悠利はカミールがサラダを入れていた皿にそっと載せる。塩味を付けてあるが、お好みでケチャップやマヨネーズをかける感じだ。悠利はシンプルに塩味のスクランブルエッグが好きなので、このまま食べるつもりでいるが。

その頃にはフレンチトーストにも良い感じに焼き目が付いており、悠利はえいっとフライ返しでクロワッサンをひっくり返す。再びじゅわーという何とも言えないいい音が響く。

しばらくして、しっかりと中まで焼けたのを十分に確認して、フレンチトーストを二枚のお皿に一つずつ入れた。ふわふわとした柔らかなフレンチトーストは、皿に載せたときに少し揺れていた。

「それじゃ、皆が起きてくるまでに朝ご飯食べちゃおうね」

「おう」

「いただきます」

「いただきまーす」

出来たてのクロワッサンのフレンチトーストを前に、顔を見合わせて笑顔になる悠利とカミール。カミールはスクランブルエッグにケチャップを少しかけていた。サラダは、悠利はマヨネーズで、カミールはドレッシングだ。この辺は皆にも選んで貰おうと思う悠利だった。

やはり焼きたてのフレンチトーストから食べるべきだよね! という感じで、悠利とカミールは箸でフレンチトーストを食べやすい大きさに切った。しっかりと卵液を吸い込んでいたクロワッサンは、箸で簡単に切れた。

熱々なのでふーふーと息を吹きかけて冷ましてから、口へと運ぶ。バターで焼かれたフレンチトーストの香ばしさが、口の中にぶわっと広がる。そして、噛めば噛むほどに染みこんだ牛乳や砂糖の旨味がじゅわぁと出てくる。

食パンで作っても美味しいフレンチトーストだが、使っているのがクロワッサンなので、更にグレードが上がっている。クロワッサンはそもそも元々パンにバターが練り込んである。その美味しさもフレンチトーストに加算されているのだ。

柔らかくて、甘くて、優しい味わいで、何とも言えず香ばしい風味もあるという、最高のお味だった。ふわふわとした食感を楽しみ、バターで焼かれた表面の香ばしさも楽しめる。朝からこんな贅沢を許されて良いのだろうか、みたいな感じになる。

「マジで美味い……」

「美味しいよねぇ」

「トーストも美味いんだけど、フレンチトーストって何かこう、贅沢してるって感じになるよな」

「まぁ実際、バターとか卵とかたっぷり使ってるから、贅沢な料理ではあると思うよ」

「確かに」

悠利の言葉に、カミールはうんうんと頷いている。単なるトーストに比べれば、材料も手間もかかっているので、ご馳走認定しても間違いはないだろう。実際、卵液に漬け込む時間も必要なので、即座に作れる料理ではないのだ。

そのまま食べても美味しいクロワッサンを、一手間かけてフレンチトーストにするという豪勢さ。それも、朝ご飯で、である。お休みの日のプチ贅沢、最高だなぁという風に和む二人だった。

サラダもスクランブルエッグもベーコンも、フレンチトーストと共に食べると良い感じだった。特にベーコンのポテンシャルがなかなか良い仕事をしてくれた。甘いフレンチトーストと、塩気のあるベーコンを一緒に食べると、甘塩っぱいという新たな味になって最高なのである。

ウインナーやハムではなく、ベーコンであるところがミソなのかもしれないと悠利は思った。肉っぽさと塩気のバランスが丁度良い感じなのだ。思わぬ副産物にご満悦である。

そんな風にぺろりと朝ご飯を食べ終えた二人が待っていると、順番に仲間達が起床してきた。準備するからちょっと待ってねと断ってから、悠利とカミールは二人でフレンチトーストとスクランブルエッグの準備に取りかかる。

なお、ベーコンはあらかじめ先に焼いておいて、提供する前にフライパンで軽く温めることにしている。一からベーコンを焼く場所が足りないので。その辺りの段取りは一応考えているのだ。

「何かすげー良い匂いしてるけど、今日のメニューって何なんだ?」

「クロワッサンのフレンチトーストと、スクランブルエッグと、ベーコンと、サラダだよ」

「クロワッサンのフレンチトーストって、何でまた……?」

「物凄く美味しいから」

「そうだぞ、物凄く美味いんだ」

不思議そうなウルグスに、悠利は大真面目な顔で答えたし、カミールも大真面目な顔で言葉を重ねた。既に食事を終えている二人がそんな風に重ねてくるので、ウルグスはそうかと納得した。二人揃って言うなら、それだけ美味しいものなんだろうという感じだった。

そんなウルグスの隣では、ヤックがわくわくとした顔をしている。調理しているのが気になるのか、カウンターから少し身を乗り出して、作業している悠利とカミールの手元を見ている。じゅわーという音を聞いて、ニコニコしている。

今一人その場にいるマグはと言えば、特に興味はないと言いたげな顔をしている。出汁を使った料理でもないかぎり、マグのスイッチを押すものは存在しないのだ。朝っぱらから暴走されても困るので、これはこれで助かるなと思う一同だった。

悠利とカミールが慣れた手付きで調理を終えて、お皿に料理を盛り付け、待っている三人へと提供する。カウンターにはドレッシングやマヨネーズ、ケチャップ、醤油などが並べられており、三人はどれにしようかなーと雑談しながら自分好みの味付けにしていた。

どうやらこれはとても美味しいものらしいという期待を隠しきれないままに、三人は席についていただきますと唱和してから食事に入る。全員、最初に手を付けたのはクロワッサンのフレンチトーストだった。

一口食べた瞬間、ぱぁっと顔を輝かせるヤック。驚いたように目を見張るウルグス。言葉は出さないものの気に入ったのか、もぐもぐと咀嚼した後に次のクロワッサンのフレンチトーストを口へ運ぶマグ。三人とも、気に入っているというのがよく解る態度だった。

口の中に旨味がぶわわっと広がるクロワッサンのフレンチトースト。その柔らかい食感と、優しいのに存在感のある味わいにうんうんと頷くヤックとウルグス。これは実に良いものだ、みたいな感じになっていた。朝から幸せを噛みしめている。

マグも、出汁関係で暴走しているときほどではないものの、クロワッサンのフレンチトーストを美味しいと思ったのか、黙々と食事を続けている。美味しいと思ったものはこんな風に食べるのがマグである。

「甘くて優しくて、何かこう、幸せって感じの味がする」

「解る。後な、ヤック」

「何?」

「ベーコンと一緒に食べると滅茶苦茶美味い」

「やってみる……!」

肉食系のウルグスは、ベーコンと共に食べることで甘塩っぱい味になることを既に発見していた。まだ試していないヤックは、ウルグスの助言を聞いて実行し、声は出さないまでも美味しさを噛みしめていた。

それと同時に彼らは、これが手間をかけて作られた料理であることも理解していた。何せ、次から次へと起きてくる仲間達を相手に、悠利もカミールも休まずに用意をしている姿が見えるからだ。

「これって、確か卵液に漬け込んでからでないと美味しくならないんだよね?」

「そうそう。んでもって、出来たてを食べるのが美味いってユーリが言ってた」

「朝から色々頑張ってるよねぇ」

「だよなぁ」

皆に美味しく食べて貰いたい、みたいな悠利の性格が見えてくる行動だ。相変わらずだなぁ、みたいなヤックとウルグス。まぁ、その彼らも、自分達が料理当番だったらカミールと同じようにせっせと仕事をしていただろうが。

他の面々も、いつもよりちょっぴり豪華な朝ご飯を喜んで食べていた。クロワッサンのフレンチトーストは大好評である。甘い物が苦手なラジも、このぐらいは問題なく食べられるので、美味しいと言いながら食べてくれた。密かにガッツポーズをしていた悠利である。

仲間達の食事の好みは様々であるが、今回は皆が美味しいと喜んで食べてくれているようだった。頑張ったかいがあるなぁ、とカミールと二人で満足そうに笑っている悠利だった。

そう、そんな感じで平和に終わるはずだったのだ。そのはず、だったのである。

「ユーリ、これはもうスイーツよ! ご飯じゃないわ!」

「いえ、クロワッサンもフレンチトーストもご飯にしても問題ないものです」

「違うわよ! 確かに美味しいし、ご飯にしても良いかも知れないけど、分類するならこれは間違いなくスイーツなの!」

よほど美味しかったのか、食事を終えたヘルミーネが切々と訴えてきているのだ。何をかというと、クロワッサンのフレンチトーストが美味しいからおやつ枠に入れてほしい、という感じである。彼女の中ではスイーツ枠になってしまったらしい。

そんなことを言われてもなぁ、と悠利は思う。確かにフレンチトーストはおやつに出来るとは思う。あらかじめ準備をしておけば、おやつに提供するのも問題はない。

しかし、ヘルミーネのこの勢いに負けて、彼女の言うがままにクロワッサンのフレンチトーストを提供するのは、悠利にはちょっと気が引けるのだ。理由はちゃんとある。なので悠利は、興奮しているヘルミーネに申し訳なさそうに告げた。

「たまになら良いけど、頻繁には出すのはちょっと……」

「何でよ!」

「……あのね、ヘルミーネ、よく聞いて」

「……うん?」

落ち着いてと言い聞かせて、悠利は自分が何故、頻繁に提供するのを渋っているのかを伝えた。真面目に。

「フレンチトーストってね、たっぷりのバターで焼くのもあって、結構カロリーが高いんだよ」

「……まぁ、卵もバターも砂糖も使ってるって言ってたものね」

「そうなんだよね。で、クロワッサンって、生地にバターがたっぷり入ってるパンだってこと、覚えてる?」

「……あ」

悠利の言葉に、ヘルミーネは何を言いたいのかを理解したようだった。ガーンという顔になっている。そう、元々カロリーの高いメニューであるフレンチトーストに、カロリーの高いパンであるクロワッサンを用いるとどうなるか。カロリー爆弾の誕生である。

クロワッサンのフレンチトーストは美味しい。そりゃもう美味しい。そして、美味しいものというのは、往々にしてカロリーが高い。カロリーと美味しさを切り離すのは難しいのだ。

年頃の少女であるヘルミーネは、がっくりとうなだれていた。彼女はスイーツが大好きである。美味しいスイーツを食べたいという欲求はある。けれど同時に、太るのは嫌だという乙女らしい感情も持ち合わせているのだ。

「いっぱい食べたら、太る……?」

「絶対とは言わないけど、まぁ、食べ過ぎたら太るんじゃないかなって……」

「うぅ……」

別に意地悪をしたいわけではない悠利は、ポンポンとヘルミーネの肩を叩いて慰めた。こればっかりは、デリケートな問題なのであまり踏み込めない。

そんなヘルミーネの背後で、カロリー? 太る? 別にそんなことは気にしないが? みたいな感じでブルックが立っていたが、そちらとは視線を合わせないようにしている悠利である。食べても太らないを体現しているような人を基準にしてはいけない。

無言で悠利に圧をかけそうになっていたブルックは、色々と察したアリーに仕事の話があると引っ立てられていった。頼れるリーダー様は、今日も本当に頼りになる。

「……ねぇ、ユーリ」

「何かな」

「たまにで、たまにでいいから、おやつかご飯にまた作ってね……?」

「うん、任せて」

二度と出さないなんてことをするつもりはないので、色々とそのときの状況に合わせて判断すると悠利は約束した。またいつか、このとても美味しいクロワッサンのフレンチトーストを食べられる日が来る。そう理解して、ヘルミーネはそれなら良いのと笑うのだった。

……その話を聞いた仲間達が、「そこまで食べたかったんだ……」という反応になったが、割りとよくあることだよと思う悠利でした。いつも誰かがこんな感じなので。それもまた、楽しい日常です。