作品タイトル不明
レタスとソーセージの白だし炒め
レタスはサラダや付け合わせとしても優秀な、シャキシャキ食感が美味しい葉物野菜だ。彩りも美しくなるし、何ならタレやソースが絡んだ料理と他の料理の境目に敷居のようにして使うことも出来る。色々と便利なお野菜である。
しかし、基本的に生で食べることが多く、そうなると量を消費するのは難しい。ナマのレタスだけをもりもり食べるのはちょっと、いや、かなり侘しい気持ちになってしまう。
「ううーん、どうしようかなぁ……」
唸っているのは 悠利(ゆうり) だ。そんな彼の目の前には、大量のレタス。大ぶりで見事なレタスである。鮮度抜群で、とても美味しそうだ。良い食材なのである。
良い食材なのであるが、こんなに大量にあるとどうやって消費しようかな……? という風になってしまうのだ。サラダにしたって、レタスだけを大量に使うわけではない。付け合わせとして使っても同じくだ。
そう、つまりはレタスをメインレベルで使う料理を考えなくてはならない。かさを減らすならば火を入れることだが、今日は結構暑いので以前使ったレタスしゃぶしゃぶという手段が使えないのだ。あっつい日にしゃぶしゃぶはちょっと、汗が出て大変過ぎるので。
「ユーリ?」
「あぁ、マグ。いやね、今日のお昼にこのレタスを使おうと思うんだけど、火を入れて食べるならどういうのが良いかなぁと思って」
「火?」
「生のままだと食べられる量に限界があるからね」
悠利の言葉に、マグは確かにと言うように頷いた。そして、視線を立派なレタスへと向ける。無表情なので解りにくいが、マグもどうしたらよいかを考えているらしい。
しばらくして、マグは悠利の方を振り返って口を開いた。
「炒める」
「炒める? あぁ、野菜炒めみたいにするってことだね。確かにそれならしんなりするし、沢山食べられそうだね」
「諾」
マグが提案してきたので、悠利はその方向でレシピを考える。レタスを炒めるのを考えなかったわけではない。他にも何かあるかなと考えていただけだ。けれど、マグが考えて出してくれた案なので、それに沿おうと思ったのだ。
レタスを炒める料理というのは、食べたことはある。あるのだが、どんな具材を使ったどんな味付けにするかを、悠利は一生懸命考えていた。どうせならどっちゃりレタスを使ってしまいたい気持ちもある。
それと、出来るならマグが喜ぶ味付けにしてあげたいという気持ちがあった。案を出してくれたということは、それだけマグが積極的に考えてくれたということなので。
しばらく考えて、悠利はこれにしようとレシピを決めた。
「じゃあ、レタスとソーセージを炒めようかな。味付けは白だしで」
「諾!」
「わぁー、予想通り凄い食いつきー」
食い気味に返事をするマグ。大きな声だった。マグは白だしも大好きなので、それを使った料理というだけでやる気ゲージがぐぐーんと伸びるのだ。大変解りやすい。
必要なのはソーセージだなと言わんばかりに冷蔵庫に向かうマグ。そちらを任せつつ、悠利はレタスをむきむきした。大きなボウルに水を張って、そこに剥いたレタスをぽいぽいと入れていく。
「……洗う?」
「うん、お願い出来る?」
「諾」
ソーセージを持って戻ってきたマグは、悠利がレタスを剥いているのを見て、自分が洗い係を担当すると言ってくれた。分担して作業をした方が早く終わると思ったのかもしれない。何せ、お昼ご飯で人数が多少少ないとはいえ、レタスは大量に必要なので。
ソーセージと炒めると言っても、メイン具材はレタスである。火を入れたらぺしゃんこになってしまうので、多いのでは……? と思うぐらいの分量でちょうど良くなるはずだ。多分。
大量のレタスを剥いて洗い終えたら、次は手頃な大きさに千切る作業だ。炒めてぺしゃんこになるとはいえ、大きなままではやりにくいし、食べにくい。なので、一口、或いは二口で食べられそうな大きさに千切っていく。
レタスの量が多いので、二人並んで黙々とレタスを千切る。特に大きさをそろえる必要はないのだが、職人気質なところが出ているのか、マグはなるべく同じぐらいの大きさになるように千切っていた。悠利は割と適当に千切っている。
レタスが終われば、次はソーセージである。これは斜めの薄切りにしていく。悠利が慣れた手つきでソーセージを切っていると、切り終わった分は邪魔になるだろうからとマグがボウルに入れてくれる。そうして必要分のソーセージも切り終えた。
次はフライパンを温めて、と悠利が思っていると、いつの間にかマグがコンロの上にフライパンを載せて加熱していたし、使いやすいように近くに白だしの瓶を置いていた。準備万端すぎる。
「……えーっと、うん、準備、ありがとう」
「美味」
「そうだね、マグは白だしも好きだもんね……」
「美味」
お礼は別に良いから、早く話を聞くだけで美味しそうなレタスとソーセージの白だし炒めを作ってくれと言いたげである。ある意味で安定のマグであった。
気を取り直して、悠利は温まっていたフライパンにごま油をたらーっと流し入れる。そして、ボウルの中のソーセージを一部だけ入れる。途端に、じゅわーっと油とソーセージが反応する音がした。
なお、一部しか入れなかったのは、流石に一度に全部を作れそうにないからだ。いくらレタスがぺしゃんこになるからといって、複数人にメインのおかずとして提供するとなるとかなりの分量になるので。
「まず、ソーセージにしっかりと火を通します。理由は解る?」
「レタス、早い」
「うん、そうだよ。レタスは一瞬で火が通っちゃうからね。一緒に入れるとレタスがしなしなになっちゃうから」
野菜炒めを作るときは、火の通りにくいものから入れるというのは基本中の基本である。その基本は、マグにもしっかりと伝わっている。伊達に料理当番を続けていないのだ。
ごま油の香ばしい匂いと、ソーセージの肉の脂の美味しそうな匂いがふわっと漂ってくる。ソーセージは茹でても焼いても美味しいが、悠利は切ったときは焼いた方が好き派だった。表面がカリッと仕上がって美味しく感じるのである。
きちんと両面を焼いて火を通すと、そこにレタスを投入する。入れた瞬間から熱で柔らかくなっていくレタス。どんどんかさが減るレタスを、ソーセージときちんと混ざるように炒めていく。
「レタスに良い感じに火が通ったら、軽く塩をします」
「……何故?」
「白だしの前に塩で味付けをした方が、何となく良い感じに味が付くように思えるから……?」
「諾」
明確な根拠はないので、悠利の返答もちょっとふんわりしていた。ただ、野菜炒めに限ったことではないのだが、他の調味料で味をつける前に塩をしておくと、その調味料の味が上手に具材に入っていく気がするのだ。少なくとも、塩をしなかったときよりは良い感じに味が付くという経験則である。
塩をしたレタスとソーセージを満遍なく混ぜ合わせたら、最後の仕上げに白だしを入れるところだ。白だしは色は薄いがそれなりに塩分もあるので、あまり多くはかけない。そもそも、味見をして薄ければ足せば良いのだから。
くるーっと全体に回しかけるようにすれば、フライパンに落ちた白だしがじゅわーと音を立てる。続いて、食欲をそそる美味しそうな匂いがぶわっと立ち上る。マグが思わずそわそわするほどに、それは出汁の良い匂いをまとっていた。
全体をさっと混ぜ合わせて白だしが具材に絡むようにすると、悠利は火を止めた。そして、マグへと視線を向ける。
「それじゃ、味見をしようか」
「諾!」
悠利の言葉に、マグは元気よく、……それはもう元気よく返事をした。既に味見用の小皿とお箸は準備されていた。本当に、こういうときの動きは隙がない。
味見なのであくまでも一口分だけだ。レタスとソーセージを一緒に口へと運ぶ。火を入れたことで柔らかくなったレタスだが、所々シャキシャキ感が残っている部分がある。ごま油の香ばしい風味と、白だしの優しい旨みがじゅわっと口の中に広がる。そして、ソーセージが肉の旨みを追加して、落ち着いた味わいながらコクがしっかりとある。
もぐもぐと咀嚼しながら、悠利は割と美味しく出来たなぁと思った。玉子も一緒に炒めるパターンもあるにはあるだろうが、今回はレタスを食べるのを優先して野菜炒めみたいにしただけだ。しかし、それが良い感じに作用して、レタスとソーセージが互いの美味しさを引き立て合っていた。
「マグ、僕は美味しいと思うけど、君はどう?」
「美味」
「……味見はもうしなくて良いからね?」
「……諾」
美味しいと言いたげに頷くマグに、悠利は一応釘を刺しておいた。これから、仲間達の分をいっぱい作らなければならないのだ。つまみ食いをされては困る。
とりあえず、味に問題がないと解ったので今作った分をお皿に盛り付けて、次の分を炒める作業に入る二人なのでした。
「レタスって、炒めても美味しいんですね」
感心したように呟いているのは、ロイリス。身体が小さく小食なロイリスは、お肉でがっつりよりは野菜であっさりした味付けの料理の方が好みだ。なので、今日のレタスとソーセージの白だし炒めはお口に合ったらしい。
小さな口に、お行儀悪くならない程度に口いっぱいに頬張って、幸せそうに食べている。外見年齢は七、八歳ぐらいに見えるロイリスなので、その姿はどこか微笑ましい。眺める悠利の表情も自然と優しくほころぶ。
「味付けが白だしってところが良い感じだよねー。あっさりしてるようでしっかり味が付いてるし」
「ヤックも気に入ってくれて良かった」
「……あと、白だしだからマグの分が凄いことになってるんだなってのは理解したよ」
「あはは……」
そう言ってヤックは、ちらりと傍らに視線を向けた。そこには、山盛りのレタスとソーセージの白だし炒めを黙々と食べているマグの姿があった。文字通りの、山盛りである。
どれぐらい山盛りかというと、皆が食べているお皿よりも一回りは大きなお皿に、こんもり山積みになるぐらいの量を盛り付けてあるのだ。どう考えても複数人で食べましょう、みたいな大盛り具合である。そしてそれを、無駄口を叩かずに食べ続けているのだ。
一応これは、レタスもソーセージも余裕があるし、自分で自分の分を作るならということで悠利が許可を出した分量である。他人の分に手を出さないのならば、悠利が怒る理由もないので。
マグは小柄で口も小さいので、一口で食べる量は少ない。しかし、リスの頰袋みたいに口をいっぱいにしながら、黙々と同じペースで食べ続けている。合間合間にスープだったりご飯だったりを食べてはいるものの、ほぼひたすらレタスとソーセージの白だし炒めだけを食べ続けているのである。
こんなに大量にあったら飽きないのかなぁ……? と悠利は思ったが、マグにとっては美味しい美味しい出汁の風味漂う料理である。何も気にならず、むしろあるだけ全部平らげるぐらいのノリだった。
基本的には柔らかくなったレタスを楽しんでいるが、時折芯に近い部分に当たるとシャキシャキとした食感が残っているのがあったりする。その違いが味変みたいな感じで口を楽しませてくれるようだ。無表情ではあるものの、空気はご機嫌という感じだった。
「それにしても、何でいきなりレタスを炒めたりしてたの?」
「生だとあんまり量が食べられないからだよ」
「あぁ、なるほどー。でも、これ凄く美味しいね」
「白だしの味もなんだけど、ソーセージが良い感じに旨みを追加してると思うんだよねー」
「あ、解る。肉の旨みがレタスに染みこんでる感じが良いよね。あと、ごま油で香ばしさ増えてる感じする」
「ごま油は風味付けに最強だからね」
ヤックと悠利はそんな会話を交わす。やはり、ただ食べるだけの人ではなく、作る側でもあるのでこういう会話になるのだ。そんな二人を、ロイリスは微笑ましそうに見ている。仲良しだなぁ、みたいな感じである。
そんな三人の会話など、マグはどこ吹く風だった。いや、そもそも同じテーブルに他に誰かが座っていることすら、意識の外に置いている可能性はある。目の前のレタスとソーセージの白だし炒めに夢中だった。
同じようにこの料理に夢中になっている人物がいた。隣のテーブルで静かに食事をしているヤクモだった。
「ふむ、白だしの風味が実によく生きている」
静かにそう呟いて、一口一口味わうようにしてレタスを口へと運んでいる。面白いのが皆はレタスとソーセージを一緒に食べているのだが、ヤクモはレタスだけで食べたり、ソーセージだけで食べたりもしているところだ。味の違いを楽しんでいるらしい。
ヤクモ自身は白だしという調味料を知らなかった。知らなかったが、似たような味付けには馴染んでいる。白だしとは早い話が出汁の風味がする塩や醤油で味付けされた液体なので、和食っぽい食文化で育ったヤクモにしてみれば、食べ慣れた味と言えるのだろう。
その食べ慣れた味付けが、故郷ではあまり食べなかったレタスやソーセージと見事に調和しているというのが興味深いらしい。真剣な顔で食べている。
「ヤクモさん、白だしとか好きですよね」
「故郷の味付けに似ているのでな」
同席者であるクーレッシュの質問に、ヤクモは穏やかに笑って答えた。常日頃からヤクモは穏やかに微笑んでいるが、それでもやはり故郷を思い出せるような味付けの料理を食べるという状況なので、いつも以上に暖かな何かが滲んでいる。周囲にも解るぐらいに。
故郷の味付けという言葉に、クーレッシュはなるほどなぁという表情になる。クーレッシュは山村の出身だが、基本的な味付けはこの辺りの文化とあまり変わらない。悠利が作る料理の味付けも美味しいと思っている。ただ、時折屋台などで故郷で食べ慣れた軽食を見かけて食べるときは、何とも言えず幸せな気持ちになるので。
「ヤクモさんの故郷だと、こういう感じの味付けで炒め物とかするんです?」
「いや、どちらかというと汁物や煮炊き物であるな。或いは和え物か。炒め物というのは、あまり食卓に並ばなかった」
「あ、そうなんですね。ユーリは結構炒め物とか作るから、ヤクモさんの故郷もそうかと思ってたんですけど……。違うのか……」
「まぁ、我の故郷とユーリの故郷は似ている部分が少しある、程度であるからな」
ふむふむと思案顔になるクーレッシュに、ヤクモは笑ってそう説明した。そう、ヤクモの故郷と悠利の故郷である日本は、食文化の一部が似ている程度でしかない。何せ、現代日本は色んな文化がちゃんぽんされた感じなので。
二人が真面目な会話をしている傍らで、ヘルミーネは無言で黙々とご飯を食べていた。話題が話題なので、おちゃらけて口を挟むべきではないと考えたらしい。レタスも美味しいけど、ソーセージが良い味してるなーと思いながら、口の中の料理を咀嚼している。
ヘルミーネはどちらかというとお喋りな方に分類されるが、空気はちゃんと読める。話題がゆるーい方向にシフトチェンジしたらならば、これ美味しいねという感じで混ざることもあるだろう。今は空気を読んで大人しく食事をしているだけである。
そんな真面目な話をしているとはつゆ知らず、悠利はもぐもぐとレタスとソーセージの白だし炒めを食べている。肉食組がいないので、これをメインディッシュとして出しても許されているのがありがたい。なお、一応お代わり分は用意してあるので、足りない人は自分で必要な分量をお代わりしてほしいと思っている。
……勿論、最初から皆より圧倒的に大盛りになっているマグに関しては、お代わりは存在しない。というか、それだけあったら十分でしょう……? と言いたくなる分量なので。
ちなみに、その山盛りだったレタスとソーセージの白だし炒めは、順調に減っていた。そりゃもう、順調に。というか、マグが一度も休憩を挟まずに食べている姿に、同席者三名、若干ドン引きである。
「一言も喋らずに食べ続けるマグ、何なの……?」
「マグくんは、本当に出汁を感じる料理が好きですよねぇ……」
「何で出汁にだけ反応するんだろう……?」
「それは僕に聞かれても解らないし、当人も良く解ってないらしいから……」
「「……そっかぁ……」」
悠利の答えに、ヤックとロイリスは同じタイミングでため息をついた。あの強烈なまでの出汁への執着の理由を、当人も理解していないというのはどういうことなのか。理由が解れば、色々と対処も出来そうなのに。
とはいえ、美味しそうに黙々と食べるマグの姿は、見ているとちょっと微笑ましい。……ただのレタスとソーセージの白だし炒めが、どんどこ減っていくのを見ると、微妙な顔をしてしまう三人なのだった。
大量のレタスの消費に炒め物という選択肢が加わったので、また味付けや具材を変えてみようと思う悠利でした。レタスはまだそれなりの分量が残っているので。