軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

生姜でさっぱり焼きつくね

食堂では、うっきうきで包丁両手に肉を叩いてミンチを作る仲間達の姿があった。ミンチを作るというのは重労働で、手が空いている仲間達に手伝って貰うのはよくあることである。

「皆、手伝って貰ってごめんねー。ありがとー」

「頑張った分、これが美味しいご飯になるんでしょ? 大丈夫、あたし、頑張るよ!」

「こういうのは僕達向きだからな。遠慮しないで頼ってくれ」

「うふふ、ここのところあまり身体を動かせてなかったから、ちょうど良いわぁ」

お礼を告げる 悠利(ゆうり) に対して、ミンチを作っているレレイ、ラジ、マリアが笑顔で答えてくれた。レレイは安定の食欲優先。ラジは彼らしい生真面目で優しい理由。そしてマリアは、……ちょーっとばかり血の気の多いダンピールのお姉さんらしい理由であった。

マリアの言葉を聞いた瞬間、ラジがミンチを作る手を止めて、ぽんと傍らのマリアの肩を叩いてこう告げた。大真面目な顔で。

「マリア、そんなことはないと思うけれど、まな板を真っ二つにするのは止めてくれよ?」

「失礼ねぇ。力仕事が出来て気が紛れるってだけで、そこまでバカなことはしないわよぉ。レレイじゃないんだから」

「まぁ、そうだとは思ってるけど。念のためだよ」

「うふふ、心配性ねぇ」

隣で失礼な会話をされて、レレイはちょっとだけしょげた顔をした。それでも大声を出さなかったのは、自分の力の制御がイマイチだというのを解っているからだ。そんなレレイの肩を、ポンポンとクーレッシュが叩いていた。騒がなくなっただけ、自分を知ったな、みたいなノリだった。

そんな風にわちゃわちゃしつつも、料理当番でもない皆がミンチを作るのを手伝ってくれている。ありがたいなぁと悠利は思う。なお、仲間達を眺めている悠利とウルグスは何をしているかと言えば、生姜の絞り汁を作っていた。

本日のメニューは、生姜の絞り汁をたっぷりと入れた、焼きつくねである。そのために必要なミンチをウルグスが作ろうとしていたら、手が空いているからと三人が手伝いを申し出てくれたのだ。

軽快に響く包丁の音。ボウルに次々入れられていくミンチ。なお、レレイとラジはビッグフロッグの肉をミンチにしており、マリアはバイパーの肉をミンチにしている。大量発生で安く買えたビッグフロッグの肉をメインに、バイパーの肉も混ぜるという方向なのである。

ただ、ミンチはいくらあっても困らないので、今日使う分だけでなくストック分も作って貰っている。だから、種類ごとにボウルに入れるようにしているのだ。何かのときに、冷凍庫にミンチが入っているとちょっと助かるので。

「つーか、何で焼くんだ? つくねって、いつもはスープに入れてたよな?」

生姜の皮を丁寧に剥いている悠利の横で、ひたすら生姜をすりおろしているウルグスがそんな質問を投げかけた。確かに、普段作るつくねはスープの中に放り込んで火を通している。焼くというのは初めてのことである。

そんなウルグスに、悠利はあっさりと答えた。

「焼いたら、ハンバーグみたいな感じで立派にメインディッシュになるかなって」

「あぁ、なるほど」

「ビッグフロッグとバイパーの肉で作るなら、いつものハンバーグよりもさっぱり仕上がるだろうしね」

「生姜の絞り汁も沢山入れるし?」

「そうそう」

二人で顔を見合わせて笑う悠利とウルグス。ウルグスは沢山食べる肉食男子だが、自分好みのこってりした味付けではない料理を作ろうとすることが多々ある。それは、食の細い面々に美味しく肉を食べて貰いたいという感じの気配りだ。

何だかんだでウルグスは見習い組の最年長である。普段はマグと二人でぎゃーぎゃーやりあっている姿ばかりが目につくが、周囲に対する思いやりを持っているのである。何かの際に指揮を執るのは目端の利くカミールだが、方針を決めたり音頭を取って引っ張っていくのはウルグスなのである。

なお、悠利がそういうことを考えて生温い笑顔で見つめると、物凄く嫌そうな顔で止めろと呟くウルグスだった。そういう反応をされるとむずむずするお年頃なのである。

そんな風に各々作業をしていると、できあがったミンチのボウルをクーレッシュが運んできた。レレイ達はまだせっせとミンチを作ってくれている。

「とりあえず夕飯に使う分ってことで、こっちがビッグフロッグで、こっちがバイパーな」

「ありがとう、クーレ」

「俺は何もしてねぇよ」

運んでくれたお礼を言ったつもりの悠利だったが、特に何もしていないとクーレッシュは笑った。まぁ、確かにミンチを作っているのは力自慢の三人だし、クーレッシュは側で雑談をしているだけである。

ストック用のミンチを作るのは引き続き任せたまま、悠利とウルグスは焼きつくねの準備にとりかかる。クーレッシュから受け取ったミンチのボウルはひとまず横に置いて、空っぽのボウルを前に大真面目な顔をしている。

「それではまず、調味料をあわせます」

「了解」

大量のミンチに調味料を混ぜる場合、直接入れるよりも先に全部合わせて置く方が満遍なく混ざるので、これはとても大切な作業である。とはいえ、慣れた作業でもあるので、そこまで気負っているわけではない。

まずボウルに入れるのは醤油。続いて酒を入れ、そこに味噌も追加する。そして最後に、生姜の絞り汁をたっぷりと入れる。これを丁寧に、丁寧に混ぜる。具体的には、味噌が全体としっかり混ざるように、である。

「毎回思うけど、何でユーリは目分量で良い感じの配分に出来るんだよ……」

「えーっと、経験則……?」

「謎すぎる……」

よほどきっちり計量しなければならない料理でない限り、悠利は調味料を目分量で入れる。元々味見をしながら調味料を入れる、という感じで料理を教わった悠利なので、計量するというのが慣れないのだ。

そんな雑談をしつつ、綺麗に混ぜ合わせた調味料をボウルの中のミンチに満遍なく回しかける。なお、このミンチはビッグフロッグとバイパーを一緒に入れてある。調味料込みで、これからしっかり混ぜ合わせるのだ。

綺麗に洗った手で、ウルグスがせっせとミンチを混ぜる。ここまで大量にあると、手で混ぜるのが一番確実なのである。悠利ではなくウルグスがやっているのは、何だかんだでこの作業も体力が必要だからだ。

丁寧に全体を混ぜ合わせるウルグス。その間に、悠利は成型したつくねを入れるバットを用意する。鍋に入れるつくねと違って今日は焼くので、先に形を作っておくのだ。

「ユーリ、こんな感じでどうだ?」

「うん、良い感じだよ。ありがとう、ウルグス。それじゃ、形作っちゃおうか」

「おう」

ハンバーグやコロッケを作っているので、成型するのは慣れている。二人は大きさを確認しながらも、大量のミンチを小判型に整えていく。何故小判型かというと、焼きやすいからである。ほどよい厚み程度にしておく方が、火を入れやすいのだ。

皆が夕飯でお代わりも出来るようにと、せっせと作っていく。一人一つで良いなんて、そんなのは小食組ぐらいである。さっぱり風味の味付けのときは、小食組だってお代わりをするのだから。大量のミンチを頑張って成型するのには、自分達も心置きなく食べられるようにという理由があるのだ。

「ミンチ、全部作り終わったよー」

「あ、ありがとう。一度冷蔵庫に入れておいて貰える? 後で小分けにするから」

「解ったー!」

成型作業をしている悠利の元へ、レレイ達がボウルを手にやってくる。作業の手を止めさせるつもりはなかったらしく、レレイは元気に返事をしてボウルを冷蔵庫に運ぶ。ラジとマリアも同じくだ。その帰り道、興味深そうに二人が作っているつくねに目を向けるのは忘れない。

「何?」

「それ、良い匂いするね」

「まぁ、色々調味料を入れてあるからね。お代わり出来るようにいっぱい作るからね」

「わーい、やったー!」

「レレイ、邪魔になるから行くぞ」

「そうよ~。美味しく食べるためにも身体を動かしに行きましょうねぇ」

「いや、僕はそっちには付き合わないぞ!?」

レレイの腕を引っ張るラジ。素直に引っ張られるレレイ。そのラジの腕をがしっと掴んで楽しそうに笑うマリア。割と見たことある光景だなぁと思いながら、悠利とウルグスは賑やかな三人を見送った。

戦うの大好き女子二人にラジが巻き込まれるのが少し心配だったが、クーレッシュが追いかけていったので多分大丈夫だろうと思うことにした。どのみち、ご飯の準備をしている二人には、ラジを助けることは出来ないのだから。

「……とりあえず、気を取り直して続き頑張ってやろうか」

「おう」

大量のミンチはまだまだ残っているので、二人はせっせと成型作業を進めた。二人でやればそれなりに早く終わるということで、黙々と作業をして大量の小判型のつくねを作り上げた二人である。

成型作業が終わったら、まずは試食用に一つ焼いてみることにする。……万全を期するならば、混ぜ終わった段階で一つ作って味見をするべきなのだろうが、今回はそうはしなかった。味が薄かったら何かをかけてもらえば良いと思ったのと、ミンチを作っているレレイ達に見せ食いみたいになるのが申し訳なかったからである。

薄く油を引いたフライパンの上に小判型のつくねを載せ、中火でじっくりと焼く。焦げ目が付き、真ん中ぐらいまで火が通ったのを確認すると、ひっくり返して反対側もじっくり焼く。強火にせずに、じっくりじわじわと焼いていく。

「よし、こんな感じで良いかな。半分こにして、味見しようか」

「おう」

焼き上がったつくねを小皿に取りだし、半分に切って分ける。焼きたては熱々なので、ふーふーと冷ましながら箸でつまんで口へと運ぶ。口に近づけるだけで、ふわぁっと湯気が当たる。熱々だ。

火傷をしないように気をつけて端っこの方を噛めば、じゅわっと広がるのは肉の旨み。ビッグフロッグとバイパーの肉を混ぜたことにより、肉の旨みや脂がしっかりとありながらも、後に退くほど重くはない。さらに、調味料の味付けに加えて生姜の絞り汁が爽やかさを強調している。

また肉だけの場合、普通なら火を入れたことでぎゅっと固くなることもあるのだが、この焼きつくねはふんわりジューシーに仕上がっている。これは、味付けに入れた生姜の絞り汁の効果だろう。生姜の絞り汁にそういう効果があるというよりは、単純に水分が多くなったことで柔らかくなっていると思われる。

とにかく、肉の旨みはちゃんとありながら、さっぱりとして食べやすい。味付けも特に問題は感じないし、もう少し濃い方が良い場合は各々好きな調味料をかけて調整をして貰えば良い。十分に満足できる出来映えだと思えた。

「僕はこれで大丈夫だと思うけど、ウルグスは?」

「俺も問題ないと思う。とりあえず、いつも通り、ライスは多めに準備するな」

「わー、頼もしいー」

ご飯が進む系のおかずだと理解したときのウルグスの行動は、常にこんな感じだ。お代わりをたくさんしたい&他の大食いメンバーもたくさん食べるだろうという判断のもと、いつもより多めにご飯を準備してくれるのだ。この判断は、悠利よりウルグスの方が向いている。

そんな雑談をしつつ、皆の分のつくねを焼くぞー! と気合いを入れる悠利とウルグスなのだった。

そして、夕飯の時間。お代わり自由としてカウンターにででんと用意された焼きつくねを、皆は美味しそうに食べている。小食組は控えめにしているが、大食い組はうっきうきで複数個をお皿に載せて席に戻っていく感じだ。

そして、ミンチ作りを手伝ってくれた面々は、ご機嫌で焼きつくねを堪能していた。

「これ、本当に美味しいねぇ」

「レレイ、解ったから落ち着け。とりあえず他のおかずも食べろ」

「食べてるよ?」

「ラジ、こいつそういうところはちゃんとしてるから。その上でこのお代わりの速度なだけだから」

「……そうだったな」

もりもりと焼きつくねを食べているレレイは、不思議そうに首を傾げた。ラジの言葉に対して、そんなことはちゃんと解ってると言いたげだ。お代わりをするなら他のおかずも食べてから、というのは悠利の口癖だ。それをレレイはちゃんと守っている。

ひょいぱく、ひょいぱくとあっという間に焼きつくねを平らげたレレイは、お代わり貰ってくるー! とご機嫌で皿を持って去っていく。その背中を見送って、クーレッシュとラジは顔を見合わせて苦笑した。

「レレイが肉のおかずに反応するのはいつものことだけど、今日はまたえらくご機嫌だよなぁ」

「やっぱり、自分が手伝ったっていうのが大きいんじゃないか? ミンチを作ってる段階から楽しみにしていたし」

「確かに」

納得したように笑い合い、彼らも食事に戻る。小判型の焼きつくねは一口で食べるには大きいので、クーレッシュは半分に割ってから口へと運ぶ。ミンチを成型しているし、ちゃんと焼いて火が通ってはいるものの、柔らかく仕上がっているので簡単に箸で割れるのだ。

ごま油で焼かれた香ばしい表面と、火が通ってなおしっとりとした柔らかな内側の食感の違いを楽しむ。ビッグフロッグとバイパーの肉の両方の味が良い感じに調和して、絶妙に食欲をそそる。どちらかだけでは出せない美味しさだということは理解できた。

基本の味付けは醤油と生姜の絞り汁なのだが、味噌が旨みとコクを格段に追加している。ただ、食べて味噌が入っていると解るほど味は濃くはない。何となく味付けに奥行きがあるように感じるぐらいだ。

「これ、生姜の味が凄くするのが良いよな」

「あぁ。ただ、味はしっかりとするが、多すぎると感じない配分なのが見事だと思う」

「その辺はユーリが上手いんだよなぁ……。見習い組曰く目分量で味付けしてるって話なのに」

「慣れとか経験なんだろうが、凄いと思うよ」

「ユーリは凄いよ! いつも美味しいご飯を作ってくれるからね!」

「「お帰り」」

お代わりをたんまり盛り付けて戻ってきたレレイが、元気よくそんな風に主張する。特に異論はなかった二人は、出迎えの言葉を口にするだけだった。そもそも、悠利のご飯が美味しいことなど、《 真紅の山猫(スカーレット・リンクス) 》の面々はよく知っているのだから。

特筆すべきは、悠利が作るのはあくまでも家庭料理である、ということだ。食べ慣れた雰囲気のある、家にある食材で作れる料理。けれどそのどれもが、彼らにとっては飽きが来ない、とても美味しいご飯なのである。家庭料理だからこその安心感みたいなものもある。

それに、今日の生姜たっぷりの焼きつくねのように、お肉大好き組を満足させつつ、小食組でも食べやすく仕上げるような料理が多い。誰もが美味しいと思う料理というのは難しいが、出来る範囲で皆が美味しいと思って食べられるように工夫をしてくれるのだ。それがどれだけ凄いことかを、皆は知っている。

知っているから、今日のレレイ達のように、手伝いを頼まれたら断らない。小柄で非力な悠利に出来ない力仕事があるならば、そういうのが得意な誰かが手伝えば良いと思っている。そうすることで、美味しいご飯にありつけるならなおさらだ。

「んー、流石ユーリねぇ。とっても美味しいわぁ」

「お褒めにあずかり光栄です。物足りなかったりしません?」

「ないわよ? どうして?」

不思議そうに問いかけるマリアに、悠利は笑って答えた。悠利自身は生姜の味がしっかりとする焼きつくねを美味しいと思うし、ウルグスの太鼓判も貰ったけれど、やはり他の仲間の感想は気になるのだ。味の好みは十人十色なので。

「食べる人によって感想は異なるので……。味が薄いとか物足りないとかだったら、何をかけてもらったら好みに近づくかなーとか」

「貴方ねぇ……」

「うわ……ッ」

悠利の言葉を聞いたマリアは、呆れたような顔をして悠利の頭をぐりぐりとなで回した。一応力加減は考えてくれているようで、首がもげるほど凄い勢いでなで回されるとかではない。ただ、突然のことで驚いてしまっただけで。

そんな悠利に、マリアは優しい顔でこう告げた。

「いつだって皆を気遣って美味しいご飯を作ってくれるのは良いけれど、気負いすぎなくて良いのよぉ」

「へ? 別に僕、気負ってなんて……」

「なら、もっと胸を張りなさいねぇ。貴方の料理は本当に美味しくて、皆、ちゃんと喜んで食べてるんだから」

「あ、はい」

何か話が大事になりそうだぞ、と思った悠利は、素直にお返事をした。この手の話題に他の仲間達まで参戦してきたら面倒くさいことになる、と本能で察したらしい。

とりあえず、マリアが美味しいと思って食べてくれているのは理解したので、それで良いやと思う悠利だった。イマイチ、マリアの言いたいことが伝わりきっていない感じであるが、まぁ、その辺が悠利なのだろう。多分。

同席していたヤクモとアロールは、ヘタに口を挟まずに焼きつくねを堪能していた。途中で目で会話をし、「口を挟むと面倒くさそうだから放置で」みたいな同盟を結んでいたが。頼れる大人と出来る十歳児は、空気を読むのもお得意だった。

その彼らにしても、生姜の絞り汁がたっぷり入った焼きつくねを食べているときは、表情がほころぶ。ハンバーグと違ってつくねには野菜が入っておらずミンチだけのはずが、ぎっちぎちにならずにほどよい柔らかさを保っているのが高評価ポイントになっていた。口の中でしっとりさと弾力を両立しているのが素晴らしいとも言える。

噛めば噛むほどにじゅわりと広がる肉の旨み。醤油や味噌などの調味料のバランス良く保たれた味付け。肉の塊であるつくねをさっぱりさせてくれる生姜の風味。そして、焼くときに使っているごま油の香ばしい風味。全てが調和して、絶品料理へと至っている。

使っている肉は庶民御用達のものだというのに、奥深い味わいも含めて実に美味しい。単純に肉を焼いただけでは出せない美味しさは、間違いなく悠利達が手間暇かけて作ったからだ。それが解っているからこそ、二人の表情もほんのり緩むのであった。

なお、大量に作った焼きつくねはきっちり全て皆のお腹の中に消えました。次はこれを照り焼きっぽいタレで味付けしても良いなぁと思う悠利なのでした。皆にはまだ内緒です。