軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

街での散策は学者先生を添えて

「それでは、皆で色々見て回りましょうね」

「案内役は任せて頂戴ねぇ」

楽しい楽しい晩餐を終えて、ふかふかのベッドで眠って気力も体力もばっちり回復した一同は、マリアの案内で街の散策に出かけることになった。ヴァンパイアが治める都市がどういう場所なのかを、皆で知るためだ。

なお、故郷だからとマリアが案内役を買って出ているが、説明役としてジェイクも同行している。実は、ここへ来るまでの道中、館馬車内にある書物を読んだことでジェイクはある程度の知識を蓄えているのだ。なので、皆の質問に答えることも出来るはずなのである。

ジェイクは書物で仕入れた知識がどれだけ現実に即しているかを確かめるいわゆる答え合わせみたいな状況であり、これは完全に彼にとって趣味と実益を兼ねていた。多分、マリアの案内がなくても一人でうきうきで街へと繰り出していただろう。

ではそのジェイクが何故皆と一緒にいるのかと言うと、アリーに仕事をしろと言われたからである。ジェイクの普段の仕事は皆の座学の教師だ。ちょっと課外授業っぽくなっているが、確かに知識的なものを教えるのでジェイクの管轄と言えなくもない。

そんなわけで、アリーとティファーナを留守番に残して、皆はぞろぞろと街の中を歩いている。領主館から真っ直ぐ降りてきた謎の集団ではあるが、住民達の眼差しは柔らかい。よそ者に対する警戒心みたいなものはなかった。

「マリアさん、僕達目立ってるのに、皆さんあんまり気にしていない感じなのってどういうことですか?」

悠利が素朴な疑問を投げかけると、マリアは振り返って不思議そうに首を傾げた。そんな仕草も実に妖艶で美しい。少し考えてからマリアは口を開いた。

「あぁ、よそ者を警戒していないのは何故かってことねぇ。それなら簡単よ。私がいるからね」

「マリアさんがいるから?」

「私、つまりは領主の娘が案内しているなら領主館の客人であり、街に危害を加える外敵ではない、という判断よ」

ぱちんと軽やかにウインクのオマケ付きで説明されて、悠利はなるほどと呟いた。呟くと同時に、随分と久しぶりに故郷に戻ったはずなのにマリアの存在が認知されているのが凄いなとも思った。

あと、今の会話でマリアが領主の娘だというのを再確認する一同だった。彼女は自分のことをお嬢様ではないというが、多分街の人達からの扱いはお嬢様なのだ。彼女が先導しているというだけでよそ者が受け入れられる信頼があるという意味でも。

なお、マリアが自分をお嬢様という括りから除外しているのは、彼女の母親が領主夫人ではないからだ。いわゆる庶子なので、正当な血筋のお嬢様ではないと言いたいらしい。色々と複雑なお家らしい。まぁ、仲は良いらしいが。

街の全体的な雰囲気は、落ち着いた歴史のある街、という雰囲気だった。建造物は石やレンガ造りが基本のようで、年月を重ねた面影のある建物が多い。足下も石畳の道になっていて、歩くのがとても楽だった。

「この街は元々、他の種族と一緒に暮らすのに疲れたヴァンパイア達が集まって作ったと言われているわ」

「ねーねー、マリアさん、疲れたってどういうことー?」

「日中の活動が難しいヴァンパイアは、吸血衝動があるのも含めて畏怖されやすいのよ」

「……なるほど」

元気よく質問をしたレレイは、マリアの説明を聞いて一拍遅れてから納得した。……なお、一拍遅れた理由は恐らく、言い回しが若干小難しかったからかもしれない。レレイちゃんは本能型です。

始まりは確かにヴァンパイア達が寄り集まって出来た街ということらしいが、今彼らの視界に映る街の住人はヴァンパイア以外の種族も沢山いる。というか、マリアと同じダンピールなのか、人間にしか見えない外見の者が多数なのだ。

中には獣人、山の民、森の民などの姿も見える。彼らがこの街の住人なのか、それとも外部からやってきた人々なのかは解らない。しかし、和気藹々としているその風景を見て感じるのは、今のこの街が決して閉鎖的ではないのが見て取れた。

その辺りのことが気になっているのはカミールらしい。失礼にならない程度に周囲に気を配り、どういう人種の人がいるのかを確認している。商人の息子は、街の情報を人々から得ようとしているのかもしれない。

そんなカミールをまたやってると呆れた顔で見つめつつ、ヤックと悠利も周囲を見渡しながらマリアの案内について行く。ヴァンパイアの都市というざっくりとしたイメージしか持っていなかったが、こうして歩いていると落ち着いた良い街という感想になる。

ふと、全ての建物の屋根がオレンジ色なことに悠利は気づく。煉瓦屋根のようだが、まるで揃えたように同じ色をしている。王都の屋根は複数の色があったので、これはどういうことだろうと思いながら悠利はジェイクを呼んだ。

「ジェイクさん、質問があるんですけど」

「はいはい、ユーリくん。何ですか?」

「あの、ここの建物って全部オレンジ色の屋根なんですけど、何か理由ってあるんですか?」

その悠利の質問に、ジェイクはにこりと笑った。良いところに気がつきましたねと言いたげである。こういう反応が何というかやはり、先生という雰囲気だった。普段から皆に座学を教えているのが滲み出ている。

「あの屋根が煉瓦で作られているのは解りますか?」

「はい、解ります」

「答えはそれです」

「はい?」

さっくりとした答えを与えられて、悠利はぱちくりと瞬きをした。煉瓦だからオレンジ色なのだと言われても、悠利には良く解らなかった。悠利が知っている煉瓦は、もうちょっと赤みが強いのだ。

流石にジェイクも説明がそれだけでは雑だと理解しているのだろう。一同を見渡して口を開いた。悠利以外の面々も、真剣な顔でジェイクの話を聞いている。

「煉瓦の色は、使用している土の種類によって変わります。つまり、屋根がオレンジ色になるのは、この辺りの土を使った煉瓦があの色になるからです」

「……なるほど……。じゃあ、他の土で作ったり、複数の土を混ぜたら違う色になるんですか?」

「基本的にはそうなりますねぇ」

ジェイクの質問に、悠利達はそうなんだーという反応をした。普段、煉瓦の色がどうやって変わるかなんて考えたこともなかった。土の種類、つまりは土に含まれている成分の違いが色に影響を及ぼすというのは、悠利達にとっては新発見の情報だった。一つ賢くなった気持ちだ。

なお、屋根に使われている煉瓦と他の場所に使われている煉瓦で微妙に色が違うのは、使われている土が違うことと、焼きの温度が違う別の作り方をしている煉瓦だからだという説明も追加される。煉瓦一つとっても奥が深い。この場に専門家はいないのでそれ以上の詳しいことは解らないが、きっと、先人がよりよく家を作るために改良を重ねた結果なのだろうと皆は思った。

「マリア、聞いても良いか?」

「何かしら、ラジ」

「街を歩いている人はヴァンパイア以外の人種のようだが、どうしてだ?」

「んー、他の街と変わらない理由よぉ。より住みやすい場所を求めて移住してきた人達がいるってだけの話ねぇ」

そう言ってマリアは笑った。この街を最初に作ったのはヴァンパイアだが、他の場所から生きづらさを感じていた者達がちらほらとやってくるようになり、今に至るのだという。ヴァンパイアは夜型の者が多いため、日中の賑わいは他種族の者達によってもたらされているのだ。

ヴァンパイア達に夜型が多いのは、彼らが日差しに弱いからだ。抜けるように白い彼らの美しい肌は、日焼け一つですら重傷になってしまう。身体に負担のない時間帯に活動するようになるのは自然と言えるだろう。

「書物で読んだ限りですが、ヴァンパイア達だけで細々と暮らしていた頃は、日中の取り引きなど殆ど出来ない状態だったようですよ」

「日差しに弱いからですか?」

「えぇ。日焼けもそうですが、より日差しに弱い者の場合は失明の危険性もありますからね」

「「え!?」」

さらりとジェイクが告げた言葉に、一同はざわめいた。普通の顔をしているのはマリアだけだ。ヴァンパイアが日差しに弱いのは肌が日焼けに弱いからだと思っていた一同は、失明というちょっと洒落にならない単語に顔を引きつらせている。

そんな皆に対して、ジェイクはいつも通りの口調で説明を続けた。

「肌と同じように、瞳も光に強い弱いがあるんですよ。ヴァンパイアの場合はそれが顕著で、太陽光を浴びることで目を日焼けするようなことになるそうです」

「日焼けなら、治るんじゃ……?」

「肌の場合は適切な治療をすれば治るのでしょうね。ですが、目の場合はそうもいかないようです。ですから、必然的に夜に活動する者が多くなってしまうということでしょう」

ジェイクの説明を聞いた一同は、ごくりと生唾を飲み込んだ。失明はとても怖いことだ。デュークは鍔の広い帽子を被って普通に出歩いていたが、それすら出来ない人もいるのかもしれないと思うと何とも言えない。生きづらそう、という感じで。

しかし、マリアはあまり重く受け止めているようには見えなかった。それも含めてヴァンパイアという種族だ、と考えている感じだった。

「とにかく、そんな風に日中の活動が控えめだったところに他の種族がやってきて、ヴァンパイアを領主とした状態で共存共栄を始めたということらしいですね」

「色んな種族が住んでいるっていうのは他の街と同じだけれど、強いて言うなら皆ヴァンパイア至上主義ってことかしら」

「ヴァンパイア至上主義って……」

「正しくは、領主様ご一家至上主義という感じねぇ」

そう言ってマリアは笑った。彼女もそこに含まれているはずなのだが、私は下っ端みたいなものだからとあっさりとしている。不思議そうな皆に、マリアは説明を続けた。

「最初にこの街に入ってきた人々が、外敵からも守ってくれる領主様に感謝の念を抱いて、代々それが受け継がれているのよぉ。で、住民がそういうのだから、後から入ってくる人も影響を受けてそうなっちゃう感じねぇ」

楽しそうに告げられたが、外敵に含まれているのが何かが怖くて聞けない一同だった。ヴァンパイアがお強いのは知っている。何せ、大変お強いダンピールのマリアよりも、のほほんとした雰囲気のデュークの方がスペックが上だというのだから。

この外敵が魔物であるならば、別にそんなに気にしなくて良い。ただ、逃げるように自分達だけで集まっているヴァンパイアの集落を攻撃してきた相手が、魔物だけとは限らない気がしたのだ。しかし怖いので誰も問いかけなかった。

世の中には、知らない方が良いこともあるのです。今はとても平和そうな街なので、それだけを噛みしめておくことにした一同であった。

とりあえず解ったことは、この街の住人は領主を慕っているということだ。ヴァンパイアは地域によっては迫害されることもあるようだが、ここでは反対に歓迎されている。そのため、ヴァンパイアの代わりに日中の仕事を張り切って行う者達が多いのだという。

日中に活動できる他種族の者達がいるからこそ、この街は賑わっているのだ。四方を山に囲まれてはいるが道はきちんと整備されているので、他の都市との交流も難しくはないのだという。長い年月をかけて、そういう関係性を築いたのだろう。

そんな風に街を歩いていると、不意にロイリスが何かに気づいたように口を開いた。

「マリアさん、民家の玄関に飾られている金属細工はなんですか?」

「え? あぁ、アレは紋章ね。血族を示すものよ」

「血族?」

耳慣れない単語が返ってきて、ロイリスは首を傾げた。自分が気になった鉄細工が紋章を象ったものだというのは理解したが、血族を示すと言われてもどういうことか解らなかったのだ。

そんなロイリスに答えをくれたのは、ジェイクだった。……道中で読んだ書物での知識は、絶好調のようである。

「血族というのは、ヴァンパイアの血筋のことですね。この街にはヴァンパイアの子孫も沢山住んでいます。その者達が、自分達はどのヴァンパイアの血を引いているのかを示すものということらしいですよ」

「何故そんなものが?」

「これはあくまでも憶測ですが、彼らは自分達がヴァンパイアの血筋であることを誇りに思っているのでしょう。そして、そのことを忘れないように繋いでいこうとしている。その現れだと思います」

「忘れないように、繋いでいく……」

ジェイクの説明に、ロイリスは反芻するように呟いた。皆もちょっとしんみりしてしまう。老いることもない長命種であるヴァンパイアに比べて、その血を引きながらもダンピールや人間に生まれた者達は瞬きの間に消えてしまう命だ。その彼らの叫びのようなものかもしれない。

ヴァンパイアの子供がヴァンパイアとして産まれるのは、両親共にヴァンパイアの場合のみだ。片親がヴァンパイアの場合、その性質を幾ばくか受け継いで生まれるのはダンピールだが、ダンピールの寿命は人間と変わらない。

そして、ヴァンパイアの血を引きながらその特性を受け継がなかった者達は、もう片方の親と同じ種族で生まれてくるという。つまりは、ヴァンパイアと異種族との婚姻によって生まれた子供達は、片親が長命種でそちらと同じように生まれない限り、短命に終わるのだ。

だからこそ、自分達がどのヴァンパイアの血を継いでいるのかを示す紋章が家々に掲げられるのだという。ヴァンパイアと共に生きる街だからこそ、違う種族に生まれた自分達も確かに血の繋がった仲間だと示しているのかもしれない。

そんな風にややしんみりとした空気が漂っている中に、ザクザクという何かを噛む音が聞こえた。え? という感じで皆が音がした方に視線を向けると、紙袋に入った焼き菓子っぽい何かを食べているレレイとカミールの姿があった。思わず目が点になる一同。

立ち直ってツッコミを口にしたのは、常日頃レレイの相手をしているクーレッシュだった。

「レレイ、お前何食ってんだ?」

「貰ったお菓子。美味しいよ」

「そうか。貰ったのか。……って、何で貰ってんだよ!」

「知らない。でも、お嬢様のお客さんならどうぞってくれたよ?」

ケロリと答えるレレイ。優しいねーと笑う姿はいつも通りのレレイだ。いやまぁ、街の人の善意で貰ったお菓子を食べるのは悪くない。別に食べ歩き禁止区域というわけではないのだ。ただ、場の空気をもうちょっと読んでほしかっただけだ。

皆の分も貰ったよと笑顔で告げるレレイは、腕に下げていた袋をクーレッシュに差し出した。配ってあげてねと言わんばかりのレレイに、クーレッシュは溜息をつきながら皆に焼き菓子を配った。平べったいクッキーみたいな感じだが、パイ生地っぽいのかザクザク食感に仕上がっているようだ。

確かに美味しい。硬いクッキーかと思えば生地を何層にも重ねて焼いているパイのような食感もある。味付けはシンプルにバターと砂糖だけのようだが、そのシンプルさがかえって美味しさを引き出しているように思える。

「レレイさんが食べてたのは解るけど、何でカミールまで先に食べてたの?」

「その土地の食べ物を食べると、どういうものに需要があるか解るから」

「……カミールは商人を目指してるの?」

「俺が目指してるのはトレジャーハンターだぞ」

「そっかぁ」

そういう分析して情報収集をするのはどう考えても商人なのだが、毎度お馴染みのやりとりで終わってしまった。カミールには矛盾したものではないらしい。ヤックから見て、トレジャーハンターを目指しているとは思えない行動なのだけれど。

悠利も細かいことを考えるのは止めて、美味しい焼き菓子を堪能することにした。そうやって食べていると、視線を感じる。どうやら、歓迎の意を示すために何かを渡そうと考えている人は結構多いらしい。マリアさん愛されてるなぁ、と悠利は思った。

そう、街の人々の歓迎は、領主の娘であるマリアがいるからだ。マリアが愛されているから、久しぶりに街に戻ってきたから、その彼女が連れてきたお客様だから、悠利達にも好意的なのだ。ここはそういう街なのである。

特筆すべきは、マリアがそれを特に気にしていないというところだろう。これが他の場所でならマリアも何らかの反応を見せるのだろうが、故郷においては慣れたこと、いつものことなのか、それ美味しいわよねぇと笑って皆と一緒に焼き菓子を食べているだけなのだ。きっと、幼い頃からこういう感じだったのだろう。

そういうのも含めて、暖かい街だと悠利は思った。ヴァンパイアが治めている都市なんて聞いていたから、どんな街だろうとちょっと身構えていたけれど、何も心配はいらなかった。そもそも、マリアやデュークの気さくさを思えば、解ることかもしれないが。

「それじゃあ、散策を続けましょうか。色々と面白いものもあるのよ」

そう言ってマリアが先導するので、皆はてくてくと後をついていく。広場にある噴水のことだとか、街の人々の憩いの場所になっている集会所だとか、のんびりとした散策でそういう場所について説明を受ける。ジェイク先生のよく解る解説付きで、皆は街の散策を続けるのであった。

なお、一度受け取った姿を認識されているからか、あちこちで色々なものを貰うことになるのでした。やっぱりマリアさん愛されてるなぁと思う悠利でした。